リアリティ (創作、現実)
(創作世界)
パワハーラ・ザイゼンが、ついに本格的に活動を始めた。
まず、小さな町や村を次々と襲い、抵抗する者は『強制左遷命令』や、酷いときには『強制首切命令』で処分する。
そして降伏したその地域の税を、他の邪鬼王の部下達が従来の倍にしているところ、なんと2.5倍の額をふっかけているのだという。
「抵抗したのだから当然の割り増し」と、支払いを強制しており、住民達は生きるか死ぬかのギリギリの生活を強いられているという。
我々は当初、レジスタンスとして、パワハーラ本体は無理だが、その配下の妖魔を退治していた。
しかし、数が多い上に強者もおり、さらには、助けたつもりの街が抵抗勢力と見なされ、さらに税金が上がる事例が発生。住民達にも疎まれる結果となってしまった。
クレイジー・クレーマーやパワハーラの配下を倒したことで、そこそこレベルアップを果たしたものの、肝心のパワハーラとは、依然として桁が違うほどの差がある。
「……何か、奴に弱点はないのか……」
実力では大きく劣る俺達、必死になって情報を収集するものの、これといって弱点らしきものの情報は集まってこない。
恐るべし、パワハーラ・ザイゼン。
俺達のパワハーラ討伐作戦は、完全に行き詰まった。
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(現実世界)
美香に、備前専務と戦うと宣言してから、三日が過ぎた。
しかし、実際に戦うと言っても、創作の世界のように剣を持って挑むわけにはいかないし、かといって下手な理論武装では、専務の下に辿り着く前に、その配下の課長や係長に跳ね返されてしまう。
俺の苦しい胸の内を、創作の世界にも反映させたのだが、本当にここから先、何も書くことができなくなってしまった。
パワハーラに税金の額を水増しさせたのは、備前専務に対する、「権力を笠に着て、こんな理不尽な仕打ちをしている」という皮肉を込めた、せめてもの腹いせだ。
もちろん、創作なのでいくらでも主人公を強くして対決させることはできるのだが、それはそれでリアリティがなくなってしまうと考えていた。
ため息をつきながら仕事をしていると、
「あの……コーヒー、入りました」
と、優しい声をかけてくれる女性がいた。
もちろん、後輩社員の優美だ。
彼女、土曜日の夜に相当酔っていて、俺に
「結婚してください」
と言って抱きついてきたことなど、忘れていると思ったのだが……。
たまたま、他の社員がいない二人だけの室内になっていたこともあって、彼女はすぐ側にやって来て、小さくこう質問してきた。
「ツッチーさん……美香さんとキスしたって、本当ですか?」
俺は驚いて、のぞけるような体制になり、膝を机の下に強打してしまった。
「……大丈夫ですか?」
「……だ、大丈夫、大丈夫……」
「それだけ慌てるってことは……やっぱり本当なんですね……美香先輩、抜け駆けになるといけないからって、律儀に教えてくれたんです。ちょっとショックですけど……美香さんとなら、仕方無いですね……」
優美は、ちょっと悲しそうな顔をしていたが、すぐまた笑顔になって、
「……でも、私もまだ、諦めていませんからね……」
と、笑顔を残して、それ以上追求することなく、自分の席に帰っていった。
うーん……優美は優美で、やっぱりとびきりの美少女なんだよなあ……と、そんなことを考えながらも、やはりあの夜の事を思い出すと、今度は美香のことしか考えられなくなってしまう。
そんな俺の様子を見たのか、優美のため息が聞こえたような気がした。
その夜、小説の投稿サイトにログインすると、ダイレクトメッセージが届いていた。
ダンディさんから返事が返ってきたのかな、と思っていたら、違っていた。
『ユーザー名:プログラマー三年目
はじめまして。
「会社まるごと異世界召喚」、興味深く拝見しています。
今回、パワハーラの行動がちょっと気になったのでメッセージさせていただきました。
僕の会社でもパワハラ、というか、社長がワンマン経営で、ほとほと困っています。
ユーザーネームでお分かりだと思いますが、僕はプログラマーで、業務ソフトを受注・開発している会社に勤務しています。
自分達でプログラムを書くのはもちろん、たまに、下請けの会社に依頼することがあります。
そのなかで、ものすごく低レベル……というか、訳の分からないプログラムを作ってくる会社があります。
にもかかわらず、社長はそんな会社に、毎年数千万円規模でソフトを発注するのです。
その理由を聞いてみると、
「こうすることで、我々の元請け会社から発注が来るんだ」
と言っていますが、意味がわかりません。
たしかに、下請けに支払っている分……元請けから見れば孫請けの分を含めて相当高めの見積もりを出しても、なぜか元請け会社はあっさり採用してくれるので、不思議なのですが……。
パワハーラの『税金2.5倍』を見て、意味が逆なのかもしれないけど、自分達の訳の分からない値段設定がまかり通っている現状、なにか、仕事に理不尽さと、この小説の隠れたリアリティみたいなものを感じたので、思わずメッセージしました。
感想に書くような内容でもないかな、と思ったので、こっそりメッセージ、です。
ではでは、今後もご活躍をお祈りしています』
これは、俺にとっても興味深い内容だった。
自分と同じような理不尽さを感じている人がいるとは……。
俺は早速返信した。
「プログラマー三年目様、メッセージ、ありがとうございました。
たしかに、プログラムの値段って、あってないようなもののところもありますから、いろんな裏ワザとか、抜け道があるのかもしれませんね。僕も、プログラムの仕事をしていたのですが、他社よりずっと高くて、同じぐらいの品質のプログラムが、平気で発注されたりしていますよ。お偉いさんのお気に入りの会社、っていうことなんでしょうけどね。ずっとそうなので、もう、そんなものだと割り切っています」
そんな風に、気軽に返したのだが……。
三十分後、また同じ人物からメッセージが届いていた。
『ユーザー名:プログラマー三年目
返信、ありがとうございました。
ところで、間違っていたらすみません。
このメールの内容は、秘密にしてください。
ひょっとして、あなたが務めている会社は「シーマウントソフトウエア」ではないでしょうか。僕が務めている会社は、「ディープシーソフトウエア」です』
それを見た俺は、全身の肌が粟立つのを感じた。
「シーマウントソフトウエア」、それは俺や美香、優美が務めている会社で間違いない。
そして、「ディープシーソフトウエア」は、備前専務がそこに発注することに異常なこだわりを見せていたシステム会社だったのだ。
※わかりにくくて申し訳ないですが、
土屋達の会社 → 「シーマウントソフトウエア」(元請け)
メッセージをくれた人の会社 → 「ディープシーソフトウエア」(下請け)
さらにその下請けのよく分からない会社 → ??? (孫請け)
となっています。
※ダイレクトメッセージは、当事者同士にしか内容が分かりません。




