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逆プロポーズ (現実)

(現実世界、前話の続き)


 美香のおにぎり弁当と、優美のサンドイッチは、わざわざ専用の容器に入れており、かなりボリュームのあるもので、とても土屋一人で二つは食べきれないものだった。


 そこで瞳も一緒に食べることとなり、土屋一人に美女三人という豪華な食事となった。


 生まれて初めて食べる、母親以外が自分のために作ってくれた手料理。

 それも、美香と優美、二人分だ。

 土屋としてはかなり嬉しかったし、コンビニ弁当に慣れている彼にとって、それはとてもおいしく感じられた。


 先程の土屋の『ドッキリ企画』発言によって場は和んでおり、食事は楽しく進んでいた。


「それで、土屋君は今、誰とも付き合っていないの?」


 瞳は、意外とグイグイとこの手の質問をぶつけてきた。


「そうですね……なかなか縁がなくて……」


「あれ? 美香ちゃんとは同期で、学生の時から同級生だったよね?」


「まあ、それはそうですけど、だからといって別に付き合っているワケじゃないので……」


「そうですよ。まあ、何て言うか、親友? みたいな……」


 土屋の、あまり乗り気でないような答えに、美香は苦笑いしながらそう答えた。


「ふーん……じゃあ、優美ちゃんのことは、どう思っているの?」


「どうって……えっと、まだ入社一年目なのに、真面目で気が利いて、よく仕事ができる優秀な社員だなって思ってますけど……」


 土屋の、なんの面白味もない答えに、優美は褒められたにもかかわらず、作り笑いを浮かべるしかなかった。


「それじゃあ……土屋君、私の事はどう思う?」


「えっ、瞳さんですか? ……えっと、綺麗で、優しくて、女子アナみたいで、仕事ができて……みんなの憧れ、ですね」


「へえ、嬉しい……そんな風に言ってくれるんだ。でも、さっき見たとおり、全然、仕事ができるわけじゃないのよ……」


 少し憂鬱そうにそう話す瞳に、


「あれは、あのクレーマーが異常なだけです」


「そうですよ、私だったら泣きだしていたかもしれないです」


 と、美香と優美は同時にフォローした。


「二人とも、ありがと……でも、もうなんか嫌になっちゃったな……またあの人、昼からも来るって言ってたし……」


 と、しばらくうつむいていたが、急に顔を上げた。


「ねえ、土屋君……私をお嫁さんにして、養ってくれない?」


 その唐突な言葉に、お茶を飲んでいた土屋は、それをグフォア、と吹き出して、盛大にむせた。

 慌てて、隣に座っていた美香が背中をさするが、しばらく、苦しそうに呻いていた。


 ようやく治まったのか、フラフラと立ち上がった彼は、


「……あの、瞳さん……思いつきで……ごほっ……と、とんでもない冗談は……ゴフッ……止めてもらっていいですか……」


 と、消えかけの声でそう言って、ようやく席に着いた。


「ごめんなさい、確かに突拍子もないことだったわね……土屋君だったら、優しそうだから結婚しても、ストレスをあんまり感じずに暮らしていけるかなって思ったから……かわいい顔立ちだし、玄関に飾っておきたいぐらい」


「えっと、それって……僕のこと、招き猫か何かぐらいにしか思ってないんじゃないですか?」


 土屋が少し拗ねたように、そう文句を言ったので、また笑いが起きた。


「確かに、結婚するならツッチーがいいかもしれないね」


「そうですね、土屋さん、優しそうですから」


 同僚二人も同調するが、


「まったく恋愛感情が感じられないんだけど……」


 と、土屋は愚痴をこぼした。


「そうかしら……好きでもない相手に、わざわざお弁当、作ってくれたりしないと思うけど……」


 瞳が思わせぶりにそう言う。


 土屋は、二人がまた冗談っぽく否定するかと思っていると、そんな事はなく、二人共が少し赤くなって下を向いている様子に、ドギマギしてしまった。


 少し間を置いて、美香が顔を上げた。


「……でも、瞳さんがそんなふうに滅入っているなんて……やっぱりあのクレーマー、苦手なんですね……」


 彼女のその言葉に、再び瞳は顔をしかめた。


「そうね……お客様だから、邪険には扱えないし……ああ、もうすぐ一時になっちゃう……」


 彼女は表情を曇らせて、そう呟いた。


 その後、食事を終えてその場は解散。

 すると、予告通りにあのクレーマーがやって来て、また怒鳴り始めた。

 当然、対応するのは瞳のみ。


 いろいろ難癖をつけてきて、


「あんたが俺の家まで来て、懇切丁寧に教えるべきじゃないのか!」


 とまで言い出す始末だ。

 土屋、美香、優美の三人は、ドアの隙間からこっそり様子を確認するしかできない。


 するとクレーマーは、


「……もうういい、分かった。しかるべき公的機関に訴えてやる!」


 と叫び、バンッ! と机を叩くと、そのまま顔を真っ赤にして出て行った。


 後には、放心状態でじっと佇む瞳の姿があった。

 それを見て、土屋は一言、呟いた。


「……許さん!」

※次回は、創作の世界で『クレイジー・クレーマー』との対決になりますが、思わぬ方向に事態が進んでいきそうです。

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