クレイジー・クレーマー (創作)
『カンラク・ガイ』の街でフトシ課長代理と再会した俺達は、一旦アイザックの館に戻り、今後の方針を決めることにした。
いつもの会議室にて、まず、ステータスの確認を行ってみると……。
名前:ヒロ
称号:勇者
戦闘力:2600
生命力:2800
魔力: 1360
名前:ミキ
称号:大魔導師
戦闘力:600
生命力:980
魔力: 1520
名前:ユウ
称号:聖治癒術師
戦闘力:600
生命力:1020
魔力: 1480
名前:シュン
称号:妖魔ハンター
戦闘力:1600
生命力:1600
魔力 :420
名前:フトシ
称号:強欲商人
戦闘力:6
生命力:3333
魔力: 0
全員、著しく能力が向上していた。
特にミキは『魔術師』から『大魔導師』に、シュンは『弓使い』から『妖魔ハンター』に、そしてフトシ課長代理は『商人』から『強欲商人』に称号が変更され、それぞれ数値が倍増、もしくはそれ以上にジャンプアップしていた。
やはりあの三連戦を勝ち抜いたのが大きかったようだ。
フトシは、攻撃力が初めて上がったことと、生命力がパーティー中、最大であることに大満足の様子だった。
けど、『強欲商人』って、果たして商人からレベルが上がったことになるのだろうか?
「皆、そうとうレベルアップしたようじゃのう。しかし、理解しているとは思うが、パワハーラ・ザイゼンの強さは、これまでの敵とは別格じゃ。おそらく、戦闘力、生命力、魔力ともに数万に達しておることだろう。今のままでは勝ち目はない」
アイザックのもっともな指摘に、レベルアップに喜んでいた俺達は、また下を向いた。
「……幸か不幸か、パワハーラはまだ本格的な侵攻の気配は見せていない。突然、城や砦に単体で攻め込んできて、その圧倒的なパワーや魔力を見せつけた後に、夕方5時になれば帰って行く、という、まるで己の力を確認でもしているかのような挙動をしておる。本気で攻めれば、中規模の城など簡単に壊滅させられるであろうに、それをしていないのじゃ。一体何を企んでおるのか……。とにかく、今のうちにそなた達も、なるべく経験を積んでレベルを上げるに越したことはない。それと、パワハーラといえども元は人間じゃ。何か弱点や、倒すためのヒントになる事柄があるはず。特に、そなた達の同僚で、妖魔になっていない人間と接触できれば、情報を得るという意味で、非常に重要となるであろう」
確かに、それは有益かもしれない。
それに、まともな人間のまま異世界転移してきている同じ会社の社員と出会うことは、かなり嬉しいことでもあるのだ。
「……けど、ハラスメント四天王は、残りパワハーラ一人だけなんでしょう? 低レベルの妖魔とチマチマ戦っても、レベルは上がらないのでは?」
俺がそう疑問を投げかけると、アイザックは深く頷いた。
「うむ、確かにその通りじゃが、ここに来てハラスメント四天王以外にも、妖魔化した異世界転移者が猛威をふるっておる。その中でも、特に変わっているのが、『サポセン』の街の周辺に現れる、単独強盗妖魔じゃ」
「単独強盗? 強盗を働く異世界転移者がいるんですか……あのビルに、そんな危険な人がいたのだろうか?」
俺は会議室内の同僚を見渡したが、全員、一様に首を傾げる。
「妖魔化すれば、性格は極端に強調される。元々おとなしかったとしても、何処かに攻撃的な性格が存在していたならば、それが膨れあがり、凶暴になることも十分に考えられる。そやつもそうなのかもしれぬ。……話が逸れたな。とにかく、その妖魔はどこからともなく旅人の前へ突然出現し、訳の分からない難癖を付けてきて、最後には『シャチョウを出せ!』と、意味不明のことを叫ぶらしいのじゃ」
「シャチョウ? 社長を出せ……ひょっとして、あの毎日来ていた、おかしなクレーマーじゃないの?」
ミキが、目を見開いてそう指摘した。
ユウも、俺もその人物を知っており、思わず顔を見合わせた。
「ヒロ、それはどういう奴なんだ?」
フトシ課長代理が、興味深そうにそう尋ねてきた。
「いえ、ウチで発売している商品を、小売店経由で買ったらしいんですけど、不良品を掴まされたってクレームを付けてくるんです。新品の商品と交換しても症状が変わらなくて……まあ、いまさらのことなんですけど。それで転移前の数日、会社のサポートセンターに毎日、直接やってきて、社長を出せって、しつこく文句を言っていたんですけど……」
「ふむ……聞いた事があるような気がするな……」
「えっと、じゃあ、そのクレーマーの人も、異世界転移に巻き込まれちゃったんですか?」
ユウが、少し怯えたようにそうアイザックに尋ねた。
「……うむ。我々の世界の住人からすれば、異世界人は異世界人で一括り、じゃからの……シャチョウがどういうものなのか分からぬが、それなりの金品を渡せば、大人しく帰って行くらしい。迂闊に戦うと、かなりの戦闘力で、やられてしまうことが多いという話じゃ」
その妖魔、かなり面倒そうだが、それより、たまたま文句を言いに来ただけの会社で、丸ごと異世界転移にまきこまれ、しかも妖魔にされてしまうとは、ちょっと気の毒な気もしてきた。
「ちなみに、その妖魔の名前じゃが……『クレイジー・クレーマー』と呼ばれておるらしい」
「『クレイジー・クレーマー』……」
その言葉の響きに、怖さと同時に、なにか、こみ上げる笑いのようなものを、俺は感じていた。
※次回は、現実世界で少しだけ時間を遡り、土屋が『クレイジー・クレーマー』を登場させるきっかけとなった、とある女性サポート要員の悲劇の話となる予定です。
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