ガールズトーク (現実)
(現実世界)
この日は、賞与の支給日だった。
業績が不振らしく、前年より支給率が下がったものの、それでも、新入社員の優美にとってははじめての月給以外の収入(ただし、一年目なので寸志)であり、三年目の美香にとっては、ようやくまとまった手取り額がもらえた日となった。
先輩である美香が、優美に何でも奢ってあげる、と食事に誘ったのだが、彼女は豪華な料理ではなく、
「駅前にできたばかりの、ワッフルのおいしい店に行きたいです!」
と、子供っぽい希望を出してきた。
「もっと高いものでも大丈夫なのに……」
美香はそういいながらも、後輩のかわいい要望に笑顔で了承していた。
金曜の午後六時、すでに店内は満席で、しばらく待たされたものの、その分期待が高まった。
ようやく席に着き、メニューを見て悩んだ末、優美は最も豪華なキャラメルメイプルカスタードワッフルを、美香はシンプルなプレーンワッフルを注文。それぞれ、半分ずつ食べようと話し合っていた。
職場でも、オフでも仲の良い先輩、後輩の二人。
しかし、不思議とお互いに恋愛関係の話はしたことが無かった。
注文していたワッフルが届き、「すごーい!」「おいしそう!」と歓声をあげ、インスタ映えする写メを撮り、一口食べて、「おいしーい!」と、また声に出す。
ちょっと口の中が甘ったるくなりすぎたので、コーヒーを飲んで落ち着いたときに、優美が一言、こう尋ねた。
「あの……美香さんって、土屋さんと付き合っているんですか?」
思わぬ質問に、美香の目が点になる。
「な……なに、どうしたの? 何かあったの?」
「いえ、いつも仲良いですし、たまに二人で食事に行くこともあるって聞いたので、どうなのかなーって思っただけです」
それを聞いて、美香は、
(ちょっと天然でかわいいこの子が、興味本位で聞いてきただけなのかな)
と、あまり深刻に考えることもなく、
「ううん、付き合ったりはしてないよ。高専のときからの同級生っていうだけ。恋愛感情は、ないかな……でも、そんな質問してくるってことは……優美ちゃん、あなたこそツッチーに気があるんじゃないの?」
反撃、とばかりに、美香はニヤニヤしながら優美を攻めた。
「い、いえ、そーゆーわけじゃないんですけど……実は、今、ちょっとはまっている、変わったネット小説があって、その主人公とヒロインが、土屋さんと美香さんにそっくりで……なんか、重なって見えちゃってるんです。単なる偶然なんでしょうけどね」
優美にとっては、別に何とも思わず発した言葉だったのだろうが、その一言に、なぜか美香は鳥肌が立つような思いだった。
「ふ、ふーん……ま、まあ、身近な人を登場人物に当てはめるっていうの、よくあるよね。ちなみに、どんな内容なの?」
「えっと……なんか、会社が丸ごと異世界に転移させられて、自分達のフロア以外の人が、悪魔に変身させられてて……それで、主人公達が、悪事をはたらく元同僚達を成敗していく、っていうお話なんです。ちょっとおバカさんな展開もあるんですけど、そこがまた意外性があって……」
目をキラキラ輝かせながらストーリーを話す彼女。
「へ、へぇ……面白そうね……」
美香は、明らかに動揺していた。
「あと、もう一人女の子が登場して、私、これを自分みたいに思って読んでいるんです。ついつい、応援したくなっちゃう女の子なんですよ」
「へえ……でも、その子はヒロインじゃないの?」
「はい、最初は良い感じだったんですけど、最近はメインヒロイン……美香さんみたいな女の子の方が優勢ですね。でも、主人公さんは恋愛とかしたこと無いみたいで、どちらとも付き合っていなくて……」
「ふーん……でも、その主人公、ツッチーに似ているんでしょう? そんなにモテるの?」
「似てるっていっても、イラストとかがあるワケじゃなくて、なんていうか、優しいところとか、思いやりがあるところとか……それに、ツッチーさん、かっこいいじゃないですか。真面目だし、誠実な人だと思いますよ」
意外なことに、優美にとっては、かなり高評価に映るらしい。
「へえ……やっぱり、優美ちゃん、ツッチーのこと気に入っているんじゃない。私は、もっと男っぽい人の方がいいけどね。ま、優美ちゃんみたいな可愛い女の子にはもったいないような気がするけど、悪い人じゃないし、好きなら付き合っても良いんじゃないかな」
美香は、イタズラっぽくにやけながらそう口にした。
しかし、優美はそれに対して、真面目な顔で、
「……本当に、いいんですか?」
と尋ねてきた。
ずくん、と、美香の鼓動がいやな高まり方をした。
「あ……えっと……」
言葉に詰まる。
「……なあんだ、やっぱり美香さんも、土屋さんのこと、気になっているんじゃないですか。大丈夫ですよ、もしお二人が両思いなんでしたら、私、応援しますから」
優美は、今度は笑顔でそう言葉にした。
「もう……先輩をからかうんじゃないの!」
美香も、少し照れながらそう返した。
「……だから、もし……私が両思いになることがあったら、応援してもらっていいですか?」
今度は、優美が赤くなりながらそう切り出した。
「……えっと、ツッチーと? ……うん、いいよ」
言葉では冷静にそう返事をしたものの、内心、相当動揺していた。
(……これって、ひょっとして、宣戦布告? まさかね……)
優美の真意を測りかねる美香は、精一杯の作り笑いを浮かべながら、心臓が早鐘を打っている自分自身に戸惑っていた。
※土屋の知らぬところで、いろいろと話が進行しているようです。
※次回、創作の中では、フトシの救出について語られることになりそうです。
※タイトルを『会社の上司を悪役にしてラノベを書いていたら、読者が社長だった』から『会社の上司を悪役にした異世界ファンタジーを書いていたら、読者が社長だった』に変更しています。




