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夢想 (現実)

(現実世界)


 アラフォー女史の山川係長が、二階堂社長にこっぴどく叱責されてから、三日が経った。


 あの日から、山川は会社を休んでいた。

 寝込んでしまった、という話だった。


 今まで、彼女には陰湿なイジメなどのあまりに酷いモラル・ハラスメントがあった。

 今回社長が直接動いたことに勇気づけられたのか、多くの女性社員から告発が寄せられ、山川には何らかの懲戒処分は避けられない見通しとなっているという。


 山川に叱責……いや、いじめられることがなくなった優美は明るさを取り戻し、美香も


「一件落着。すんでのところで助かった」


 と、上機嫌だった。

 土屋は、


「あのとき、社長が来なかったら、何をするつもりだったんだ?」


 と彼女に聞いてみたが、


「えっと……ツッチ-、ひょっとして、気付いてない?」


「……何に?」


「だったら、まだ黙っておくね。もう少し楽しみたいから」


 イタズラっぽく笑いながら、美香はそう答えた。

 土屋は、何か釈然としないものを感じながら、


(まあ、悲壮感が漂っていたあの瞬間を切り抜けられたのだから、よしとするか)


 と無理矢理納得したのだった。


 そして、彼の唯一の趣味であるラノベ執筆活動は、ある変化が起きていた。


 今まで、投稿サイトの総合評価でせいぜい百ポイントを超えるかどうか、という小説作品しか書いてこなかったのに、最新作の『会社まるごと異世界召喚』のそれは、まだ物語の中盤だというのに、二千ポイントを超えていたのだ。


 ジャンル別の日間ランキングでトップ5にも、度々登場するようになった。


 もちろん、書籍化を目指すのであれば、最低でも累計で二万ポイントぐらいないと声をかけられないのは知っている。それでも、このペースで増え続ければ、一年ぐらいで二万ポイントは超えるかもしれないな、と、期待に胸を膨らませるようになっていた。


 ――もし……作家デビューできたなら、今の会社は辞めるかな……。


 まだまだ、現時点で作家デビューなど考えるのは早すぎるのは分かっている。

 けど、自分の得意なこと、好きなこと、趣味を仕事にすることができれば、どれほど幸せなことだろうか――。


 土屋の夢は膨らむ。


 もし、会社を辞めて心残りがあるとすれば、美香や、優美と毎日顔を合わせられなくなることだった。

 後輩の風見は別にどうでも良かったし、金田課長代理とは、逆に顔を合わせたくない。


 しかし、美人の二人に席を挟まれている今の環境から離れないといけないのは、ちょっとだけ残念だ。

 まあ、美香はメールのやりとりをしているし、ごくたまに二人で食事ぐらいはすることもあったから、音信不通になる事はないだろうが――。


 土屋は、ここで、ずくん、と鼓動が高鳴るのを感じた。


 ――あれ? 俺は……美香と繋がりが無くなることを、怖がっている?

 今まで、ただの友達だったはずなのに――。


 しかし、あらためて現実を直視して、苦笑いする。


 今までの妄想は、作家デビューできれば、の話だ。

 現時点では、夢のまた夢だ。

 まだまだ、当分の間は、美香は俺の隣の席でいてくれる――。


 土屋はその事実に安堵し、それでも夢に向かって、またラノベの続きを書き始めたのだった。


 しかし、ほんのすぐそばに、全てを失ってしまうほどの大きな試練が迫っていることを、彼はまだ実感することができないでいた。

※次回より、四天王(三人しかいないが)の中で最も恐るべき大妖魔『パワハーラ・ザイゼン』編に突入し、現実世界でも、さらに大きな問題が発生していきます。

※土屋の女性関係にも、今後もう少し動きが出てきそうです。


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