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禁断の一言 (創作、現実)

 ヒステリック・ヤマモトのヒステリック口撃に、為す術もなく生命力を奪われ続ける俺達。

 そんな中、ミキが自分を犠牲にしてでも、と立ち上がった……その時だった。


「ふん……この程度か……」


 見ると、フトシ課長代理が苦悶の表情を浮かべながらも、前に出て来ていた。

 明らかに強がっている。


「たかが係長が、課長代理であるこの私とやり合えると思っているのか。おこがましい……我が奥義を見よ! ヘ・リクツ!」


 イヤミー岡田の時と同様、フトシが呪文のように一言呟くと、そこには、どす黒い障壁のようなものが現れた。


「……ふん、これでお前のヒステリックな口撃など……うばらぁるぐぅるふぁぁっ!」


 障壁は二、三秒で砕け散り、油断していたフトシを超音波にも似た口撃が直撃した。


「なっ……フトシさんのヘリクツが、通用しないなんて……」


 シュンが、絶望的な表情で呻くように言葉にした。

 フトシ課長代理は、哀れにも白目を剥いて気絶している。

 若干、失禁しているようにも見えた。


 やばい、このままでは全滅してしまう……。

 と、その時、再度ミキが立ち上がった。


「……もう、この局面を打開するには、あの方法しかない……それをすると、ひょっとしたら、私が私でなくなって……もう、みんなと一緒にいられないかもしれない。それに、成功するとは限らない……でも、もう、言わずにはいられないの。ヒロ、後はお願いね……」


 彼女はそう言うと、一筋の涙をこぼし、そのまま、ヒステリックの方に向かって数歩、歩いた。


「ミキ、何をする気だ、やめろ……」


 必死に制止しようとしたが、思うように声が出なかった。


 ミキは、覚悟を決めたように、ヒステリックの方を向いた。

 そして、大きく息を吸い込み、思いっきり叫んだ。


「そんなだから、結婚できないのよっ!」


 ――一瞬、場が凍り付いた。

 物理的な意味ではなく、全員の、心理的な意味で。


 ヒステリック・ヤマモトは、驚きで目を見開き……約五秒後、


「ウワアアアァァァァー!」


 と、先程までとは異なる、呻くような悲鳴を上げ始めた。


「……あんたに何が分かるウゥゥゥ!」


 ムチャクチャに触手を振り回し、大泣きして暴れている。

 しかし、先程までのヒステリックな口撃とは異なって、そこになんの威圧もなく、ただ単にうるさくてウザいだけだった。


「……アラフォーの独身女、ヒステリック・ヤマモトの弱点は、そこだったか……」


 俺とシュンが、頷き合う。


 ミキは、勇気を出したあの一言を叫んだことで全力を出し切ったのだろう、力なく座り込んでいた。

 そこにユウが駆け寄って、ミキの背中に抱きついた。


「……ミキ先輩、ありがとうございます……ミキさんが勇気を振り絞って、あの一言を言ってくれたおかげで、私達……」


 彼女の声は、涙ぐんでいた。


「……終わりにしよう。シュン!」


「はいっ!」


 シュンの『レクサシズ・アロー』から、七本もの矢が連続で放たれ、ヒステリックの両肩と両足の太もも部分、そして首、みぞおち、腹部とヒットし、その動きを止めた。


「今だっ! ハイパーレインボー・ホリゾナル・スラッシュ!」


「キイエエエエェェェェー!」


 俺の愛剣『インプレッシブ・ターボブースト』が、ヒステリックの胴体を斜めに切り裂いた!


「……滅殺完了!」


 セリフを決めて剣を鞘に収めると、ヒステリックの体は七色に煌めきながら、ゆっくりと崩れ、砕け散った。

 そしてキラキラと光りながら、天に向かって一筋の光となり、登っていった。


「……ヤマモト係長、来世ではその性格を直して、幸せになってください……」


 俺がそう呟くと、気絶しているフトシ課長代理以外、全員が、自然と黙祷を捧げたのだった。


*****

(現実世界)


『投稿者:カワウソ 20歳~25歳 女性

 その一言で、大ダメージを与えてしまいましたか(笑)。

 たしかに、アラフォーの未婚女性にはきつい一言かもしれないですね。しかも、相手は係長で派閥も持っていて、女性は誰も逆らえない……うん、私も、こういう環境だとなにもできないですね。ただ、私は怒りっぽいからキレてしまうと、やっちゃうかもしれないです!』


 今回投稿した話に対して、早速感想を送ってきたのは、常連のカワウソさんだった。

 それに対して、土屋は


『カワウソ様、感想、ありがとうございました。これはフィクションなので、現実世界では真似しないでくださいね。いくらキレたとしても、言ってはいけない言葉もあります。それこそモラハラになりかねないですよ……まあ、僕も、いつか会社を辞めることになれば、このぐらいの言葉は残して行くかもしれませんけどね(笑)』


 と、やや自虐的に返したのだった。


 翌日。


 またも課長代理が不在のフロアに、会計課の山川係長が単身、乗り込んで来た。


「ちょっと、水原さん! 反省文、読んだけど、全然誠意が伝わってこないわ! 本当に謝る気、あるの?」


「……す、すみません、一生懸命書いたんですけど……」


「一生懸命かどうかの問題じゃないの。本当に心から謝罪する気があるのか、って聞いているの。私の手をこれだけ煩わせているのよ。それなのに、単に言い訳を並べているだけじゃない。まったく、両親からどういう教育を受けているのかしら!」


「……ご、ごめんなさい……」


 新入社員の優美は、もう泣き出す寸前の様だった。


「……本当に謝罪する気があるのなら、前回の反省文の書き直しと、今後、自分自信に対してどんな罰を与えるのか、レポートで提出しなさい!」


「……罰……レポート……ですか?」


「何っ! 反抗する気なのっ!」


「……いえ……すみません……」


 ついに優美は涙をこぼし始めた。

 それを見た美香が、立ち上がった。


「……ツッチー、私、もう限界……黙って見ていられない……私もう、会社に居られなくなるかもしれないけど……後のこと、よろしくね……」


 一筋の涙をこぼし、そのまま、山川係長の方に向かって数歩、歩いた。


「美香、何をする気だ、やめろ……」


 土屋は必死に制止しようとしたが、思うように声が出なかった。

 自分が書いた小説の中の、あのヒステリックに対してミキが取った行動が、オーバーラップしてしまう。


(まさか……)


 嫌な予感に、土屋の血の気が引いた……そのときだった。


「そんな反省文やレポート、書く必要はないっ!」


 フロアの入り口付近から、大きく、よく通る男性の声が聞こえてきた。

 驚いてその方向を見た一同は、その光景に、さらに驚愕した。


 そこに立っていたのは、六十歳手前ぐらいの、ビシッとダークスーツを決めている、白髪の紳士だった。


 その背後には、一人の、これまた高級そうなスーツを纏う壮年の紳士と、秘書と思われる、やはりスーツ姿の美しい女性が立っていた。


「……二階堂社長、どうしてこんなところに……」


 さすがの山川係長も、目を見開いて驚いている。


「君のモラハラに関する投書が届いていてね……私としては信じたくなかったが、今目の前で見てしまった以上、何らかの処置は必要だな……」


 社長の睨み付けるような視線に、山川は、顔面蒼白になっていた。

※次回は、この続きです。

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