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ネチネチ攻撃 (創作、現実)

「会計課の岡田主任……なんて姿になってしまったんですか……」


 ユウが、ショックを受けたようにそう言葉にしたが、若干舌が長くなったことを除けば、たいして変わっていない様にも見えた。


「レロレロ……お、お前達、ヒステリック・ヤマモト様の、め、命令で、殺す……」


 そう呟いて、腰に装備していた短剣を抜いた。

 すると、それを見て勢いづいたのか、大岩の影から五体ものコボルドが現れた。やはり、短刀を装備している。


「……ふん、刺客というわけか。だが、今の俺たちに取って、お前ごとき……」


 シュンがそう言いながら弓を引こうとしたときに、イヤミーが舌を大きく、高速で上下に動かした……すると途端に、白い粘液のようなものが吹き出し、糸状になって撒き散らされてきた。


「い、いやああぁぁ、気持ち悪いっ!」


 ミキが嫌悪感を示し、顔を背けようとする。


「これは……ネチネチイヤミ攻撃! ネチネチ、ネチネチと、揚げ足を取るようにイヤミを言ってくる、イヤミー岡田の得意技を具現化したものかっ!」


 俺は冷静にそう分析したが、だからといって対抗策が思いつくわけでもない。


 イヤミーから吐き出されたネチネチは、体にまとわりつき、気分を滅入らせ、戦闘意欲を失ってしまう。


「やっ、やだっ……もう許してください……」


 ユウも、すっかりやる気を失って、座り込んでしまっている。


 それに気を良くしたのか、コボルドどもが、短刀を掲げて、ジリッ、ジリッと迫ってくる。

 これはまずい……そう思ったときに、意外な人物が意外な声を上げた。


「ふん……この程度か!」


 見ると、フトシ課長代理がニヤリと不気味な笑みを浮かべ、前に出て来ていた。


「たかが主任が、課長代理であるこの私とやり合えると思っているのか。おこがましい……我が奥義を見よ! ヘ・リクツ!」


 フトシが呪文のように一言呟くと、そこには、どす黒い障壁のようなものが現れた。


 すると、イヤミー岡田のネチネチ攻撃が、全て『ヘ・リクツ』障壁によって跳ね返されているではないか!


「すごい……ヘリクツでネチネチ攻撃をはじき返している……」


 シュンは驚いてその様子を見つめていたが、俺は内心、


(なんて低レベルな争いなんだ……)


 と呆れていた。


 しばらく膠着状態が続いていたが、先に息切れしたのはイヤミー岡田の方だった。


「ネチネチ攻撃が緩んだ! チャンス……火炎障壁(リヴァー)!」


 ミキが、炎の障壁で容赦なくイヤミー岡田の体を焼いた。


「うぎゃぁぁぁ、あっちぃー!」


 どこかで聞いた事のあるような、間抜けな悲鳴を上げながら、イヤミーはのたうち回った。


「今だ! アンセーブド・ソニック・ウェーブ!」


 俺は愛剣の『インプレッシブ・ターボブースト』を超高速で振り下ろし、いまだ炎に包まれてもがいているイヤミーに向けて斬撃波を放った!


「オヌルバァー!」


 イヤミー岡田は、さらに間抜けな悲鳴を上げて体をのけぞらせた後、バタリ、とその場に倒れた。


「滅殺完了っ!」


 俺は一言、そう決めぜりふを口にして、カチャリ、と剣を鞘に戻した。

 刹那、イヤミーの体は爆散し、一筋の光となって、天に登っていった。


「ふむ……無事、成仏したようだな……」


 フトシ課長代理は、満足げに頷いた。


「さっすが、フトシさん! あんなすごい攻撃を全部はじき返すなんて、ハンパねぇっす!」


「うん、そうかね? まあ、格の違いを見せつけてやっただけだがね」


 シュンがおだて、フトシもそれに乗って、上機嫌で高笑いをしている。

 まあ、確かに役には立ってくれたけど、なんだか素直に褒められない俺は、どこか性格がねじ曲がっているのだろうか。


 あと、『ハンパねえ』という単語をこんなところで使わないでほしい。罰が当たりそうだ。


「……今回は上手くいきましたが、ヒステリック・ヤマモトはこんなものではないでしょう。気を引き締めて進みましょう!」


 若干、「調子に乗るなよ」というニュアンスも含んでいた俺の言葉だったが、機嫌の良いフトシには伝わらなかったようだった。


 それから約一時間、さらに歩みを進め、ついに、不気味なピンク色の霧に包まれた、ヒステリックが占拠する砦へと辿り着いたのだった。


*****

(現実世界)


 ここまで書いたところで、土屋はその内容を投稿サイトへとアップした。

 すると、すぐに感想が来た。


『投稿者:カワウソ 20歳~25歳 女性

 イヤミーさん、やっぱりその名の通りイヤミっぽくて嫌らしい感じでしたけど、簡単にやられちゃいましたね。ご冥福をお祈りしますw。ところで、今回、ミキちゃんとヒロさんのコンビネーション攻撃、良かったですね。幼馴染み、ということで、息がぴったりのようでした。そろそろヒロさん、ミキちゃんの気持ちに気付いて欲しいな、と思いました!』


 常連のカワウソさんからのメールだったが、土屋はこれを読んで、「はて?」と首を傾げた。

 カワウソさんはミキのファンだったので、褒めてくれるのは分かるのだが、


「ミキちゃんの気持ちに気付いて欲しい」


 という言葉が引っかかった。


(……そうか、作中でミキ、主人公のヒロに対して、嫉妬したように軽く足を蹴ったり、ジト目したりする描画があったから、彼に対して気があると感じたんだろうな……単に、俺と美香との間で実際にあったことを参考に書いただけなのにな……)


 そこまで思い至ったところで、土屋は感想に対して返事を書き始めた。


『カワウソ 様

 感想、ありがとうございました、励みになります!

 確かに、ミキはヒロのこと、ちょっと好きになりかけているのかもしれませんね。けど、ヒロはすごく鈍感なので、それに気付いていません。すごくもったいないことだと思います。うーん、真のヒロイン、ユウとミキのどちらになるのか、分からなくなってきました」


 ヒロはそう返信した。


(カワウソさんって、どんな人なのかな……二十代前半らしいし、俺と同い年ぐらいかな……実際に会ってみたいな……)


 そんな事を考えていると、いつの間にか、眠りについていたのだった。

※土屋は超鈍感です。

※次回、現実世界で大きな動きが始まります。

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