ダンディの正体 (現実)
「どうしたんだ? ……あ、美香もずっと前からこの小説見てたから、ダンディさんが感想くれてたの、知ってたのか」
「知ってたも何も……ツッチー、まだ正体に気づいていないの?」
「正体? ……ひょっとして、俺たちの会社の誰か、とか?」
「……呆れた……」
美香が何に呆れているのか分からないが、俺にはさっぱりその正体に心当りがない。
「……まあ、それは置いとくとして……ツッチー、この話、受けるよね?」
「……受賞は嬉しいけど、書籍化して問題ないか、それが心配だなあ」
「どうして?」
「だって、実在の人物をモデルにしているんだ。その人達からクレームが来るかも知れないだろう?」
「実在の人物っていっても……私と優美ちゃんはクレーム入れたりしないよ」
「風見はどうだろう?」
「シュンって、やっぱり風見君がモデルよね? 大丈夫、気づいていないし、気づいても悪役じゃないし、どちらかと言えばカッコいい役だから、むしろ喜ぶと思うよ」
「そうかな……じゃあ、フトシ役の……」
「ちょっと待って! フトシ課長代理のモデル、私、聞かないでおく」
「そ、そうか?」
「うん、その方がいいと思う……って、たぶんあのメチャクチャなキャラでモデルが誰か、絶対にわかんないと思う」
「……まあ、考えてみればそうか。後は、敵役だと『セクハーラ・トウゴウ』か……」
「あれも、あそこまで露骨なセクハラ社員はいないから大丈夫。そもそも、私たちの会社って限定されていないし、もし本人が心当りあったとしても、本名使われているわけじゃないし、恥ずかしいから名乗り出ないよ」
「それもそうだな。じゃあ、『ヒステリック・モラハーラ』は?」
「それも安全。だって、『ヒステリック音声口撃』を仕掛けてくるだけのキャラだったでしょう? 絶対自分だと思わないよ」
「よく覚えてるな……なら、『クレイジー・クレーマー』は?」
「あのヂャロを召喚したキャラ? 私たちなら誰がモデルか分かるけど、単なるクレーマーの一人が、それが自分だなんて絶対に思わないよ」
「だろうな……なら『パワハーラ・ザイゼン』は?」
「……確かに、あの人ならば気づくかもしれないけど、『これは自分だ』なんて自分から言うと思う? しかも、もう会社を辞めた上に裏切って、捕まってるし」
「確かに……後は、味方の黄金騎士団ぐらいだけど……」
「田澤さんたちよね? 悪口も書いてないから良いんじゃない? 逆に、受賞したことを報告すれば祝福してくれると思うよ」
「そうかな? まあ、どちらにせよ報告はしておくよ……ただ、ウチの会社って副業禁止じゃなかったっけ? そこが一番のネックだな……」
「それも大丈夫。社長秘書の虹山さんに報告すれば、うまく根回ししてくれるよ」
「虹山さんが? なんでそこで虹山さんが出てくるんだ?」
「社長秘書だからよ」
「……?」
「ダンディさんからメッセージが来てたでしょ? 『私としても、できるかぎり協力させていただこうと思っています』って」
「ああ……それが何の関係があるんだ?」
「もう……本当に鈍感ね……もういいや、全部バラしちゃう。ダンディさんの正体は、ウチの会社の二階堂社長。しかも、作者がツッチーってこと、とっくに気づいてるよっ!」
……。
…………。
………………。
はああああっ?