力の指輪 (創作)
(創作)
「黄金騎士」を名乗る者から「協力したい」、との手紙を受け取り、困惑する俺たち。
一旦、城内にてミイケ副団長達と共に対策会議を行おうとしていた。
と、そこに、一人の傷ついた兵士が、同僚に肩を貸された状態で、ヨロヨロとふらつきながら歩いてきた。
「……大変です……城門の外の……外に……倒されたはずの闇の竜、パ、パワハーラが……」
俺とミキ、ユウ、シュン、フトシ、レイの勇者一行、そしてミイケ副団長を含めた七人が、慌てて外に出る。
まだ夕刻になるか、ならないかの時間帯なのに、空一面に暗雲が立ちこめ、薄暗い。
そして城門の外に立っていたのは――。
胸を張り、頭を持ち上げたその体高は、俺の三倍近くある。
体を支える四本の足には、それそれ四本ずつの指、そしてその先に伸びる鍵爪は、ロングソードほどもの大きさだ。
全身、暗黒色の鱗に覆われ、胸部から腹部にかけてやや白みを帯びている。
全体的には細身だが、日本や中国の竜のイメージよりは、西洋のそれに近い。
頭頂部に二本の禍々しく大きな角が生え、背には鬣が揃っている。
その立ち姿の凛々しさは、まさに邪神の使いと呼ぶにふさわしい。
それはまさしく、パワハーラ・ザイゼン……しかも、前に倒したときよりさらに巨大化し、パワーアップしているように見えた。
また、以前にはなかった特徴として、右手人差し指に金色の指輪が光っていた。
「あの指輪……まさか、邪鬼王の『力の指輪』……奴がほぼ全魔力を注ぎ込んで作成したと言われる、究極のパワーアップアイテム……」
ハーフエルフのミイケ副団長の声は、震えていた。
「その通りだ……邪鬼王は厳重に管理していたつもりかもしれないが、奴に不満を持っていた部下をちょっとそそのかせば、このとおり俺の手に渡ったというわけだ。ただ、呪いが込められているという噂があったので使うのは躊躇していたのだが……それも、ただ邪鬼王が不正使用を恐れてそんな言葉を残していただけだったようだ。そしてあの忌々しいマ○ー空間から帰ってくることもできた。もはや俺は無敵だ……喰らえ、指輪によって増幅された我が力を! 強制首切命令!」
巨大な竜の右腕から放たれた、高速回転する赤銅色の禍々しい波動が迫る!
「くっ!」
しかし、我々も幾多の戦いを潜り抜け、レベルアップにより素早さが相当上がっている。
すんでの所で回避できた……戦闘面においてなんら成長していないフトシを除いて。
「ふぎゃあああぁー!」
吹き飛ばされ、もんどり打って倒れ込むフトシ。
……ああフトシ課長代理、今度こそ死んだか――。
誰もがそう思ったが、HP「1」で踏みとどまっていた。
皆、「なぜ?」と疑問に思ったが、彼にはいつの間にか「即死ギリギリ回避」という特殊能力が備わっていた。
まさにゴキブリ並のしぶとさだ。
「どうやら、殺し損ねたか……まあ、こんなザコはどうでも良い。勇者ヒロ、キサマには積もり積もった恨みがある。今、この場で死んでもらおう!」
パワハーラが右手の指輪を見つめると、再び魔力が集まっているのが分かった。
俺たちも相当レベルアップしたとはいえ、ステータスに桁違いの開きがあることが分かる。
今度こそやられてしまうのか……そう覚悟したときだった。
「そこまでだ!」
そこに颯爽と現われたのは、金色の全身鎧に身を包み、同色の馬に跨がった、一人の騎士だった。
「パワハーラ・ザイゼン……貴様が思っているほど、邪鬼王は愚かではない。その証拠に……『試用期間終了!』」
黄金騎士がそう呪文を唱えると、パワハーラが嵌めていた金色の指輪が砕け散った。
みるみる、ザイゼンの体は萎んでいく。
「……ばかな……永久不滅のはずの『力の指輪』が……まさかっ!」
「そう、それは試作品、つまりは偽物だったのだ! 本物を邪鬼王が簡単に盗まれるわけがないだろう!」
黄金騎士の言葉に、パワハーラ・ザイゼンは青ざめる。
その肉体も、元の人間と変わらない大きさにまで縮んでいた。
魔力も、大半を失っているようだ。
「勇者ヒロ、俺もパワハーラ・ザイゼンは倒すべき悪だと考えている。そしてその役目を果たした」
「ああ、貴方は本当に我々の味方だったようだな……ならば、共に戦おう! ……ザイゼン、今度こそ終わりだ!」
俺は剣を構える。黄金騎士も同様だ。
「「喰らえっ! スカイラブ・ツイン・ハリケーン・ゴールデン・ファイナル・スラアッシューーーーーーーッ!」」
「うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ……」
今度こそ、今度こそ、パワハーラ・ザイゼンに必殺の一撃が加わった。
その体は分子レベルで崩壊、爆散。
キラキラと光る粒子に変化、天に向かっての一筋の光となって、登っていった
永い戦いに、ついに打ち勝った。
「――完全滅殺完了……」
気絶しているフトシを除いた俺たち勇者一行、全員の頬に、涙が溢れていた。
俺は、この危機的状況に緊急参戦してくれた黄金騎士と、固い握手を交わしたのだった。