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『内なる何か』 (現実)

 シーマウントソフトが社運を賭けて開発したネット・クラウド・ソリューションシステム『ラ・ミカエル』は、発表後しばらくは「検証版」として機能限定版が無償配布される予定だった。


 しかし、月齢ソフトシステムが同じ基本コードを使用した『ハーデス』の、しかも完全版を比較的低価格で発表、発売したことで、『ラ・ミカエル』も同様に機能制限や検証期間を外したバージョンを発売するしかなかった。


 月齢ソフトシステムが開発したとされる、正確には、備前元専務が盗み出した『ハーデス』のコードは、機能制限がかかり、認証コードを入力することによって完全版となる、ほぼ製品として完成しているバージョンだった。


 内部コードの重要部分を把握していた備前元専務、および彼が以前から密かにつるんでいた社外のハッカー達にかかれば、その認証コード機能を無効にすることなど容易だった。

 それを備前元専務が、


「自分が開発したアイデアやコードを、シーマウントソフトが無理矢理没収したあげくに、何の落ち度もないのに意味不明の濡れ衣を着せられ、追い出された! 正当な著作権は自分にある!」


 と、月齢ソフトシステムに売り込んだのだ。

 自分の名前を月齢ソフトシステムのホームページに出したのも、シーマウントソフトへの当てつけだった。

 そしてこのシナリオをさも真実かのように、週刊誌に売り渡す行為まで行っていたのだ。


 だが、シーマウントソフトは内部からの情報流出に対して、二重の対策を施していた……凄腕のシステムエンジニア、かつ社長の特命で動いていたエージェントでもある、田澤によって。

 黄金騎士を名乗っていたのも彼だ。

 そして彼は仲間と共に「黄金騎士団」を結成、工作活動によりシーマウントソフト社員に土屋のラノベを広めた。


 備前が如何に卑劣な悪役であるかを間接的に知らせる意図があったのだが、想像以上に騒動が大きくなったため、例の大会議室で社員達を落ち着かせ、その上で結束させることにも成功した。

 もちろん、このことは社長も、虹山秘書も知っていた。

 さらに、田澤はラノベの作者が土屋であることにも、薄々気づいていた。


 田澤とその仲間、ごく数人だけが知る、秘密のコアコード『内なる何か』……隠すことさえ隠されていた、検証版機能限定を時限爆弾のように復活させるそれは、大型コンピュータによる最新AI技術を持ってしても、解読に五億年かかると考えられるほどの高度な暗号化処理が施されていた。


 もちろん、『ラ・ミカエル』ではその『内なる何か』も解除されている。

『ハーデス』ではそれが発動してしまった。


 備前元専務が、月齢ソフトシステムの社長――六十歳すぎながら、巨漢で精悍な男――に呼び出され、厳しく尋問されていた。

 さすがの備前も、顔面蒼白となっていた。


 本当に彼が全てのコードを作成していたならば、それほどのコアの部分を把握していないわけがなかったからだ。

 しかも、『ハーデス』の画面上に『ラ・ミカエル』検証版、と表示されてしまっている。


 当然、全国のユーザーからクレームの電話がひっきりなしにかかってきている状況だ。

 マスコミも、大げさに報道している。

 SNSに至っては、大炎上どころか、「史上希に見る大失態」との極大火炎地獄状態だ。

 実際に世界的なニュースにもなりつつあった。


 ひとしきり怒鳴り散らかした月齢ソフトシステムの社長も、さすがに疲れ、そして備前への叱責の間にも部下から次々と入ってくる恐ろしい報告の数々に、ソファーに座り込んでしまった。

 そして消費者庁から緊急特別監査が入るとの報告を受け、数秒間、天を仰いだ。


 ――再度、備前を睨み、彼は言った。


「……貴様を告訴するっ!」


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