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拝啓。いつか、空の下。  作者: 花宮玄狐
第一章
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蟒蛇の町(6)

「使えねぇ。全く、使えねぇなぁ。」

 ミナ達が去った塔の上には『夜』の狼が五人とチナがいまだにノビているのだった。

 そこに、チナとはまた違ったタイプの中性的魅力を持った声が響いた。昼の明るい太陽に照らされて、声の主は憎々しげな目でチナを見下ろしている。声の主は陽の光を受けるのを避けるかのような厚手の真っ黒なフード付きのローブを羽織っていた。しかし今はフードをかぶってはおらず、顔も隠していない。白い肌と紅のさす頰、形の良い赤い唇、切れた目に茶色の瞳。その顔立ちから女性であることがうかがい知れる。特徴は似ているけれど、彼女の漆黒髪はチナと違いショートに切られている。

「まぁまぁそう言うなよ。」

その横にいるのは二十歳になるかならないかの年恰好をした青年である。

「俺は部下の失態が許せねぇタイプなんだよ。」

女性が乱暴な口調でさも腹立たしげ答える。チナと同じく一人称は俺なのだが、彼女は怒っていることを除いてもチナ以上に口調が荒かった。

「あ、そ。」

一方青年はさして興味もなさそうに答える。答えながら力なく手を少し上げてプラプラと振る。降参の意か、はたまたどーにでもしろということなのか。

「『夜』の狼の連中まで貸してやったのに、これでまたあの腐れ外道に借りができちまったよ、畜生。使えねぇよな、ほんと。」

女性はぶつぶつと独り言を言っていたが、やがて、それを聞いてかチナが目を覚ました。上半身だけが起き上がる。そして辺りを鋭い目つきで見渡した。

「種祖様?」

途端にチナの目が見開かれ、口も驚きに阿呆のように開かれる。だが、その驚きの表情は一瞬で恐怖に塗り変わった。

 しかし悲鳴をあげる暇もなく。

 グシャッ。

 いやに湿った音がして、チナは間も無く倒れた。彼女の胸部にはちょうど人間の拳が一つ入るぐらいの風穴が空いており、そこからダラダラと血が流れていた。

「よくやるねぇ。」

晴れやかな顔をした女性の顔を覗き込んで、青年がいう。

「弱者は死ぬ。いや、俺が殺す。これが俺のやり方なんだ。」

「あ、そ。」

沈黙。

「ところでさ。なんでこいつを白鳥族に化けさせることにしたんだ?」

青年が少しずつ実体を失いエネルギー体に戻りつつあるチナの死体を指差して、なんの脈絡もなく唐突に尋ねる。

「いや、偽善者の白鳥族を悪者に仕立ててやろうと思ってさ。」

「途中で失敗したから、白鳥族はヒーローのままなんじゃないのか?」

「はっ。」

腹立たしそうに鼻を鳴らし、その女性は思いっきりチナの死体を蹴り飛ばす。その反動でほぼエネルギー体に戻っていたチナの体はデラデラと鈍く光る無数のエネルギーのカケラになって飛び散り、やがて霧消した。

「白鳥族になんか因縁でもあんのか?」

「あるぜ。人間の味方ばかりしてるからな、奴らは。俺らとは真逆の思想ってわけだ。」

そういって一度言葉を切る。唇の間から艶かしい二股の赤く細い下がチロチロと覗く。

「因縁なんて言ったら、『白』の白鳥どもだけじゃねぇ。『白』の烏にも『黒』の鷲にも、あるいは、『夜』の狼どもにもあるぜ。蛇族は元来、敵が多いんだよ。それこそ人間が生まれた瞬間からな。」

「そんなもんかね。」

「そう、俺らは基本誰にも協力しない。お前のことはわりと気に入ったことだし、何より利害も一致している。だからイヤイヤ『夜』の狼どもとまで手を組んで協力してやるんだぜ。」

ここでまた言葉を切る。舌がスルスルと挑発的な音を立てては消える。

「でも、協定を破るようなことを誰か一人でもしてみろ?その場合、即刻こちらは協力を破棄し、裏切り者はまとめてみんな、そう…。」

また一息溜めて、最後の一言。吐き捨てるようにいった。

「俺が殺す。」

「せいぜい留意するよ。」

しかし青年は全く気にも留めない様子でなおなおとしている。


 会話が一旦終結を見ると、何を思ったかいきなり女性の方が青年の腕に巻きついた。

「何してんだ。」

「いいじゃないか、今日はあのうるさい女狐もいないわけだし。それとも、お前は俺のこと嫌いなのか?」

煽情的な声音で上目遣いに、まるで誘うようにいう。

「そういう問題じゃねぇだろ。ふざけてないでさっさと行くぞ。」

しかし青年は、動揺した様子すら見せず冷めた口調でそう言って、女性の頭を拳でゴンと殴る。しかし女性の方もパッと腕から離れると悪びれた様子も諦めた様子も一向になく、頰を膨らませ、上目遣いに一言。

「ケチ。」

 いちいちあざとい彼女の行動に、もはやげんなりした様子すら見せずに、青年はそれを華麗にスルーする。そして未だ伸びたままの狼人間を起こしにかかる。青年がいくら呼びかけても起きないので、しゃがみこみ狼人間の顔を割と本気で叩いていると、塔から下に広がる町を眺めていた女性が唐突に言った。

「この町はどうするんだ?」

青年は考え込む。狼人間達の意識が戻り始めているのを感じて、もういいだろうと立ち上がる。

「この町は、救われたんだ。本物のヒーローに。だから、今回は、別にいいさ。」

「へぇ、珍しいね。いつもは俺より酷いことしたりするのに。」

「ま、今焦って壊さなくても、利用できそうな時に、利用するさ。」

「そういうもん、かねぇ…。」

 青年と女性、そして復活した狼人間の五人は、町に待機していた十数匹の『夜』の狼の仲間と合流した。そしてそんな大所帯でもなるべく目立たないよう町を出て、そのまま真南へと向かっていったのだった。


 青年と女性、以下一行がミナたちも数時間前に通っていった畦道を抜けたところで、背にした町の畑から人々の絶叫が響いた。

「おい、畑の野菜が一気に枯れ始めたぞ。」

「こっちもだ。」

「俺んとこのリンゴもダメだ。」

「チナ様は?なんとかしてもらえるのではないか?」

それを聞いて、かの女性は全く愉快そうに高笑いをあげる。

「アハハハハ。ここはもともとただの荒地なんだぜ?いくら肥料がよくたって、これだけの面積で町一つ養えるはずがないんだ。本当はな。」

古来、一部の地域では蛇は神聖なる農耕の神として信仰されていたという。

「英雄に救われただぁ?逆だね。何も知らない無知蒙昧の輩に滅ぼされたのさっ。」

女性のいうことの意味を理解した青年は自分が推測の中でその事実に行き当たらなかったことに何より先に疑問を感じたが、生来のサガかそれを差し置いて反射的に皮肉った口調で口にする。

「殺したのはお前だろ?」

「そうだったかな?」

「全く…。」

自らの部下を殺すことさえも全くなんとも思っていないような顔をして、実際全くなんとも思っていなさそうなこの女性を見て、青年は隠そうとすることもせず大きなため息を吐いた。自分の身の上のことながら、なかなかどうして厄介なものに好かれたものである。


「そういえば。」

「なんだ?」

「蛇が治める町の特産物が知恵の実であるリンゴってのは、まぁなんとも皮肉だなと思ってさ。」

「はっ。まぁ世の中そんなもんなのだよ。」

女性の高笑いが荒野に響いた。

さてさて、相も変わらず花宮玄狐でお送りしていますが?

1、一章がやっと終結を見ました。おめでとう…?

2、次話投稿は多分来週のこの時間になると思います。

3、感想・要望、渇望や野望がございましたらお気軽にご相談ください。

4、誤字を発見したら教えてもらえると助かります。

5、このあとがき欄も内容が随分フランクになってきましたね。まぁこの先更にエスカレートしていったなら、イライラせずに「こいつバカだな」とか思いながら見てくれると嬉しいです(何だこのフラグ)。

それではまた来週、アデュー。

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