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「冬」 1 新宿バスタ行き深夜バス(12月22日)

紘子


 12月22日(木)20時。私達は広島駅の高速バス乗り場にいた。

雄一くんが私が浦安へ遊びに行きたいって言ってたよなあと2泊4日の旅行をいきなり言い出したのだ。え、と思ったら、いつの間にやらミフユ、ミアキ姉妹の家に泊めてもらうという方向で話がつき、私の両親もそれならとOKしてくれた。


 あいつは、来年受験なので行くなら今ぐらいしか機会がないからなと言った。その気持ちはうれしかった。

 そしてこの旅行が決まると珍しくミフユからメッセがきた。




ミフユ:二人がくるの楽しみにしてるから。いよいよ両親公認だね。


紘子:そんな事ないよ。付き合ってすらいないし。ただ、あいつが来年受験だから行くなら今って言い出しただけ。それにしても、なんでこんな年の瀬なの???というところは私も訳が分かりません。


ミフユ:ははは。バイトでお金貯めるのに時間がかかったんじゃない。部活もあるでしょ。まだまだ。


紘子:確かにそうかもねえ。私の分の持つ気だったみたいだし。(それは断りました)


ミフユ:紘子は私の部屋に泊って貰うからさ。また話聞かせて。


紘子:この件の話は嫌だけど、ありがとう。


ミフユ:You’re welcome.




 どうもあの子と話すと調子が狂う。


 ほどなく東京の私鉄会社が運航する高速バスが入ってきた。大きな荷物はミフユの家に運送便で送ってあった。私はトートバックとコンビニで買ったペットボトルだけ持ってバスに乗り込んだ。雄一くんはバックパックに紙袋1つ。うちと雄一くんの両親が古城さん家に渡すようにと持たされた手土産だ。


 私達は前の方の指定席についた。シートベルトを締めるようにとのアナウンスが流れていた。

「荷物あげなくていいか?」

「コートだけお願い。……ありがとう」

私は脱いでいたコートを雄一くんに渡すとトートバックを足下に置いた。雄一くんもジャケットを脱いでバックパックからイヤホンとか取り出すとバックとコート類をまとめて荷棚に上げて座った。背が高く大柄なので窮屈そう。

「シートベルトはしいや」

注意してくる雄一くん。案外うるさいタイプとはね。ちょっと意外な印象を受けつつシートベルトを締めて備え付けのタオルケットを膝の上に置いた。


 運転士が乗客数を確認すると、20時20分定刻にバスが発車した。車内には録音アナウンスで停車予定などの案内が流れた。

「ゆっくり寝ておいてな。明日は忙しいし」

「うん」

そう答えると目をつぶった。明日の忙しさはアトラクションランドで超過密予定を組んだ私のせいなんだけどね。ごめんねと心の中だけでは雄一くんに謝っておく。


 とはいえあいつと二人きりの旅行というのはドキドキするのであんまり眠たくないんだけど、でも夜行バスだから話するわけにも行かないしとかいろいろ思っていたら、昨夜もあまり寝られてなかったからあっさり記憶が途切れた。


雄一


 紘子、寝られないかと思ったらそうでもなかったな。スマフォにイヤホンをつないで耳にイヤホンを付けて音楽を小さめの音量で流した。


 紘子が浦安に遊びに行きたいとは以前から言っていた。バイトでお金を貯めて高速バスとチケット代、ホテル代など用意した上で別々の部屋でという事を言ってうちの両親と紘子の両親に話を通そうかと思って、まずうちの両親に探りを入れたら「行くのはいいで。でもホテルで二人はあかん、いくら今時でも高校生ではあかんよ、そんなの。そうや、古城の春海さん家に頼めばいいわ」と言われてあっさり電話されて宿泊先はあっさり確保された。


 紘子は1歳年下でミフユと同学年。出雲家と古城のお祖母ちゃんの家と佐呂間家は呉の山麓でご近所さんだった。だから紘子は小さな頃からずっとそばにおる妹みたいなもんだった。そこに夏と冬にミフユがやって来ていたという関係だった。その妹が行きたいなあと言っていたし、あいつの面倒を見るのは俺の役割だし受験前じゃないと無理やなと思ったからこの旅行も計画した。それだけのことや、なんて事を考えていたら睡魔に捕らわれていった。


紘子


 バスが停車して車内灯が点灯して目が覚めた.小さな音量で運転士のアナウンスが流れた。

「福山サービスエリア到着です。22時30分まで停車しますのでトイレ休憩などご利用下さい」

 スマフォを見たらまだ22時20分だった。隣の雄一くんも目を覚ました。

「もう着いた?」

「そんな訳ないじゃない。福山サービスエリアだって。30分まで10分間停車」

「ほうか。で、おまえ、降りるん?」

「うん。トイレ行きたいし」

「じゃあ、俺もいくわ」

 二人でバスを降りた。外は真っ暗。サービスエリアの施設の灯りと上から部分部分を照らすスポットライトのような駐車場の電灯、そして車のヘッドライトだけ目立つただっ広い駐車場。外気が冷たい。

「寒っ」

「コート持ってくるんだったね」

「といってもあんまり時間ないし。走って行こう」

「うん」


雄一


 トイレを済ませて出てくると自動販売機で温かいお茶のペットボトルを買って湯たんぽ代わりにした。2,3分後に紘子も出てきたのでペットボトルを渡した。

「え、くれるん?」

「でもいいけど、温かいから脇に挟んだらいい。即席のマフラー代わりや」

「あ、温かいねえ。ありがとう」


そして、再びダッシュでバスへ戻った。

「そうや」

 バスの前で紘子を止めた。他の乗客が戻ってきたので狷介そうな高齢層は避けつつ、頼み事を聞いてくれそうな旅慣れたおばちゃんをつかまえると写真撮影を頼んだ。

「このスマフォで俺たち撮ってくれませんか」

「いいわよ」

 俺と紘子はバスの脇に並んで立った。

「じゃ、チーズ……もう1枚いっとくね。……はい」

「ありがとうございます」

頭を下げてお礼を言った。振り返ると紘子が顔を真っ赤にしていた。

「いきなりそういう写真撮ろうと頼む前に私に確認してよね」

「気にするタイプだったか。それは悪い事をしたなあ。夜行バスで旅行なんて早々ないんだから、記念だよ。記念。写真データは後で紘子のスマフォにもメッセするよ。ほら、乗った、乗った」


 プンプンする紘子を先にしてバスに乗車した。席についてシートベールとを締めると紘子が「ありがとう」と言ってペットボトルを返してきた。頷いて受け取る。まだ暖かなペットボトルを小脇に挟むとスマフォを操作して紘子のメッセに写真を送っておいた。


 運転士がまた乗車人数を確認して前に戻ると乗降ドアが閉まった。

「皆さんお戻りですのでこれより発車します。本社からの情報では特に渋滞などございませんので今のところ定刻通りを見込んでおります。次の停車は足柄サービスエリアで明朝6時を予定しております。車内灯は22時50分に消灯致しますのでご了承下さい……」

 俺はイヤホンを耳に入れたところ、スマフォが振動したので画面を見た。


紘子:写真ありがと。


どういたしまして、と小声で言おうと思って紘子の方を見たらもう寝ていた。


紘子


 次に目を覚ました時もまたバスが止まっていた。23日金曜日の早朝。通路正面側とカーテンの隙間が少し明るい。どうやら足利サービスエリアらしい。隣を見ると雄一くんが爆睡していた。スマフォを見ると6時ちょうど。予定通り順調に来ている。アナウンスは終わっていたが、運転席の窓ガラスに「6:15までにお戻り下さい」と書かれたボードが立てかけてあった。


雄一くんも目を覚ました。

「起きたか。降りるか?」

「うん。上着取ってくれる?」

「あいよ」

 バスのステップを降りる。まだ夜明け前だが快晴。凍てつく空気。富士山も見えた。空はグラデーションを描いていた。駐車場の空き地には雪の山が積まれていた。前に降った時の除雪の雪が残っているらしい。大慌てで上着を着た。


「起きたのは私達だけみたいやね」

「そうやな。今のうち、トイレいっとこ。この後は休憩もないしな」


 トイレを済ませてバスに戻る。私はスマフォを取りだした。まず富士山の写真を撮っておく。空気が澄んでいるおかげか、とってもきれいだった。


 そして雄一くんに私のカメラで記念写真を撮ろうと言った。

「雄一くん、ツーショットで富士山を背景に記念写真を撮りたいから」

「今度はお前のスマフォで?いいけど、撮るのは運転士でも頼むか?」

私はいきなり左腕を雄一くんの右腕に絡めた。

「こら、あんた、私より大きいんだから少ししゃがんでよ」

「うわっ。自撮りか」

そう。自撮りで悪い?とか思いつつ右手で私達の顔が入るようにして写真を撮った。流石に富士山は上手く入らなかったけど記念なんだからこれでいい。

こんどはあいつが顔を真っ赤にしていた。ざまあみろ。昨日の仕返しなんだから。


雄一


 バスに戻るとメッセで写真が送られてきた。こっぱずかしいなあと思いつつ保存操作してお礼を言っておいた。

「ありがとう」

「ふふっ。いい記念でしょ」

富士山の写真はそうやな。まだバスは動き出してなかったので荷台のバックパックからパンとペットボトルを取りだして昨夜買ったお茶はバックに入れておいた。

「ほら。朝食」

「ありがと」

 降りたら最後、俺ならやらないとてもタイトな予定を組んでくれてる。朝食をカフェでとかそういう時間はないので昨夜のうちに買っておいたのだった。


 バスは定刻通り7時30分にバスタ新宿に到着した。バスを降りるとJRに乗り換えて浦安へと移動。有名なアトラクションランドに到着した。さあ、これから夜までは紘子の時間やな。俺はついて回るだけや。あいつの目がキラキラしているのは企画した甲斐があったというもの。それをもって瞑するべし。



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