叱り飛ばして、なつかれて
診断メーカー『ハピエン小説書いて下さい』より
診断結果
『みんみんさんは、年下男性と眼鏡女子のカップルで、湖のシーンを入れたハピエン小説を書いて下さい。』
以上を元にサクッと書いてみました。
※作中に高校生の飲酒表現がありますが、未成年の飲酒を推奨するものではありません。
どうしてこうなっているのか、私にはよく分からないのだが。
私の腰にはガシッと両腕が回り、尻もちをついた私のお腹にはコイツの顔が埋まっていたのだ。
「ちょっと! 何してんの、離れなさいよ!」
頭をベシベシと叩いても、相手の反応は芳しくない。「ん~~~……」とよく聞こえないくらいの唸り声を出し、額をぐりぐりと私の腹にこすりつけてくる。
「やだもう! 離れなさいってば!」
頭をどかそうとしても、腕を取り外そうとしても、頑として動かない大きな体に怒りが増す。
「……いい加減にしなさーい!」
「……夏湖、耳、痛いよ」
ようやく、うっそりと顔を上げたコイツ。
西原岳志。
これからお風呂に入って寝るかという夜の九時過ぎに、彼女でもないひとり暮らしの女の部屋を訪ねてきた大馬鹿者。しかもよっつも年下の未成年。って言うか、高校生。
なのに。
「お酒なんか飲んで、前後不覚になってんじゃないよ、この不良がーーーっ!」
『怒髪、天を衝く』とはまさにこのことだ、という程の大声を、夜にもかかわらず私は思わず出してしまった。
** ** **
コイツとの出会いは、もうずいぶん昔、私が中学一年生の夏。
コイツはまだ小学三年生だった。
私の住む市では、毎年夏になると小中学生を連れてキャンプに行く企画がある。小学三年生から参加可能で、申し込み多数だと抽選になってしまうが、例年外れる子は少ないようだ。
三年生、四年生辺りは純粋にキャンプを楽しみ、五年生、六年生くらいになると下の学年の子の面倒を見て、中学生の参加者は班のリーダーになる。
中学生になるともう参加者はだいぶ少なくて数人しかいないため、参加すれば必ず班長になると決まっていた。
私が中学生になっても毎年のようにそのキャンプに申し込んだのには理由がある。
そう、私には夢があったのだ。
このキャンプに初めて参加した小学三年生の時、高校生のボランティアのお姉さんがとても優しくしてくれて、夜、怖くて眠れなかった時にそばについていてくれたのだ。班長である中学生のお姉さんも、私がトイレに行く時に一緒に行ってくれた。
そんな風に、昼間は楽しくてはしゃいで走り回っていたが夜になるとてんで臆病者になってしまった私を、支えて励ましてくれたお姉さんたち……みたいに、いつか自分がなる! という壮大な夢。
でも、昼間は大自然の中でまったく平気なのに、暗くなると樹木のざわめきが怖い。
ぼうっとした灯りの中で舞う蛾はもっと恐ろしかった。
ログハウスの窓にぺったり張り付いている大きな模様のある羽も、見るだけで震えあがってしまう。
トイレの蛍光灯の周囲をパタパタ飛んでいるのを見た日には、足を踏み入れることすらできなくて。
――嫌だ、悔しい!
私は、頼りになるお姉さんになるんだ!
そう決心して、親に頼み込んで毎年このキャンプに参加した。
初年度、一緒に行った友達はとっくのとうに行かなくなり、ひとり参加になってしまったけれど。
それでも毎年毎年、行けば顔見知りは増えてくる。
市の職員、NGO法人のキャンプのプロの方々、中学生の参加者が高校生になって、ボランティアへと移行していく人……そして、毎年参加してくる悪ガキども。
私が中学一年生の時に、初参加となった三年生の悪ガキふたり組のうち、ひとりがこの西原岳志だったのだ。もうひとりは……名字は忘れた、確か下の名前はノリヤ……とか言ったかな。もう記憶は曖昧だ。そのもうひとりの方は、二年くらいで参加しなくなってしまったから。相方が来なくなっても、岳志は中学一年までキャンプに行った。
それにしても、このノリヤと岳志には本当に手を焼かされた。
班分けは同性同士でしか組まれないから、私の班には女の子しかいなかったのだけど、あの悪ガキふたり組の初参加の年ときたら、どの班にいようがお構いなしに、全ての班全員に迷惑をかけていた。
現地へ向かう大型バスの中では座席の上で踊ったり、他の子に向かってお菓子を投げていたりして何度も注意されていた。
到着して最初に挑戦したツリークライミングでは、はしゃぎすぎて逆さ吊りになってしまったり、落ちそうになって付き添いの大人を大慌てさせた。
夕飯の飯盒炊爨では、火を使っているそばで走り回って大人から怒鳴られていた。
翌日、午前中の山登りでは木の枝を振り回しながら歩いたり、班ごとに並んで登るよう指示されているのに走って登って前の班を追い抜いたりして、周囲の子達に迷惑をかけていた。
彼らふたりには常に「危ないからやめてちょうだい」という周りからの慌てた声がかかっていたのだ。
彼らの班の班長さんは中学二年生の男子生徒だったけど、途中からぐったりと疲れていた。この分では高校生になってボランティアとしての継続参加はしてくれなさそうだと推察できるくらい消耗していた。
高校生のボランティアが数人と、付き添いの大人が数人いたけど、誰もが彼らを注意して、追い回して、首根っこをひっ捕まえて……彼らに対するお説教をしている間だけ、ようやく他の子達が息をつけて楽しめる、という図式になってしまっていたのだ。
そんな彼らふたりがまたまたおふざけをしたのが、キャンプ二日目の午後、湖の周囲で小石や木の枝や葉を拾い、写真立てを作ろうという企画の時だった。
写真よりふた回りくらい大きな木の板に張り付けられるような材料と、あらかじめ用意してあったビーズやリボンや毛糸を使って、皆、思い思いの作品を作り上げるのだが。
ノリヤの方が湖に、物を拾っては投げ入れ、拾っては投げ入れして、大人から度々注意を受けていた。そのうち小石で投げて水切りを始めてしまい、岳志とふたりでどちらが何回多く水面で石を跳ねさせられるか競争を始めてしまった。
周囲の者達は「写真立てを作らないのなら、もうそれで良いよ。勝手に遊んでいてちょうだい」という雰囲気で、自分達だけで楽しんでいたのだが。
河原と違ってそんなに平たい石がたくさんあるわけでもない湖で、ノリヤに負けたくなかった岳志は、他の子が集めた材料を漁りに来て、私の班の子の集めた箱の中から「これちょうだい!」と石をふたつ取って行ってしまったのだ。
白くてツルツルしていて、綺麗な石だった。
彼女がそれを見つけた時、周囲の子は「良いなぁ、私も欲しい」と辺りを一生懸命に探したが、ついぞ他には見つからなかったという物だった。
彼女の、石を見つめる嬉しそうなキラキラした目がとても可愛かった。
それなのに。
岳志はいとも簡単に、何のためらいもなく、彼女の箱からそれを持ち去ってしまったのだ。
「返して!」
大声で叫ぶ四年生の女の子の声に、私はぷっつんとキレてしまい。
気がついたら岳志の腕を掴んでガンガン叱り飛ばしていた。
何を叫んだのかはちっとも覚えていない。でも多分、石を返せとか、みんなに迷惑をかけるなとか、勝手なふるまいをするなとか、そんなことを怒鳴り散らしたのだと思う。
肩に手を置かれて振り向くと、キャンプのプロの人が「もうその辺で」と微笑んでいた。
大人になってから考えると、そうやって羽目を外す子も、それはそれで大自然の中での行動のひとつなのだと分かった。本当に危険なことをしなければ、彼らは適度な注意で済ませ見守っていたのだ。
あの場所は学校ではない。礼儀と礼節をもって臨まなければならない公共施設の場でもない。集団の中できっちりしっかり決められた四角四面の行動を求められているわけではなかったのだ。
私がブチ切れたショックで岳志はべそべそと涙を流して鼻をすすっていた。
その横でノリヤが一緒になって口をへの字にして目元を赤くし、肩を震わせていた。
そんなものが私達の最初の出会いだったのに。
なぜかコイツは、いつの間にか私のテリトリーの中に入り込んでいたのだ。
** ** **
「まったく、まだ十七……こないだ十八歳になったか……でも未成年でしょ!? お酒なんて飲んじゃダメじゃない!」
私がプリプリしてそう言うと「うん、こないだ誕生日会、そっちの家でしてもらったでしょ」と岳志はあくびをしながらそう言った。
「お酒は二十歳になってから!」
この不良め、と頭をポカリと叩くと、岳志は「酷いよ、夏湖」と笑った。
「頭パープーになったらどうすんの? 俺、受験生よ?」
「元々パープーだから大丈夫よ。これ以上馬鹿になんないでしょ。って言うか、十八歳でお酒飲んでる時点で大馬鹿者よ! 恥を知りなさい!」
「だって……文化祭の打ち上げ行くぞー!って、クラス中で盛り上がっちゃって……行かないって選択肢、なかったんだよねぇ」
「もう、アンタの学校、不良ばっか!」
私がぷんすか怒っていると、岳志はくすくす笑いながら、再び私のお腹におでこをぐりぐりとこすりつけてきた。
「あ、そうだ、離れなさいよ! なんだってこんな格好してるのよ! はい、どいた、どいた」
玄関前の狭い廊下で尻もちをついたままの私は、なんだかお尻が痛くなってきたので岳志をどかそうとぐいぐい押してみるも、コイツはいっこうに離れようとしない。
「もう、岳志、お尻痛いってば!」
そう訴えるとようやくゆらりと起き上がってくれた。
まったく、なんでまたそんな風ににこにこしちゃってんの。
ちっとも訳が分からないよ。
むっつりとしたまま口をへの字にしていると、岳志はへらりと笑って「夏湖、可愛い」と言った。
騙されてなんかやらないんだから。
そんな調子のいいこと言ったって。
お酒の力を借りて口にしたことなんて、明日になったら忘れているに決まってる。
「夏湖……俺、夏湖の彼氏になりたいよぉ」
「意味分かんない」
「今までずーっと、アピールし続けてきたつもりだけど……分かんない?」
分からない……訳ではなかった。
中学三年生の時、受験勉強をするからとキャンプに行かなかった夏。
九月一日の始業式の帰り、校門で待ち伏せされたのが最初の気づき。
小学生のくせに二学期最初の登校日をサボってまで、私の中学校名だけを頼りに校門前で私の下校を待ち続けたのだ、コイツは。
速攻で住所と電話番号と携帯連絡先を聞かれ、どれもノーコメントでその日は追い返したけれど、気づいた時には後をつけられて自宅を知られていた。
それから待ち伏せされて話しかけられたり、手紙を送ってきたりして、気持ち悪いと思ったけれど、しょせん相手は小学五年生。大したことはできまい、と放置してしまった結果。
コイツは、いつの間にか私の母と仲良くなっていやがったのだ。
うちの居間でちゃっかり母の手作り菓子をもらって幸せそうにモグモグ食べている子供を、追い出せる中学生がいたら鬼だよね。
しかも。
「うち、父子家庭で母親がいないから、夏湖ちゃんが俺のこと、親身になって叱ってくれると嬉しくって」
などと、はにかみながらつぶやかれた日には。
両親号泣、いつでも遊びに来て良いからね、といつの間にか家族団らんの輪の中に入り込みやがっていた。
無事高校生になり、何事もなく大学生になって、ひとり暮らしを始めた今でもこうしてコイツは事あるごとに私の元へとやってくる。
そこまでされて、コイツの私に対する好意にひとつも気づかないという訳がない。
だがしかし。
「よっつも年下だし」
口から出た言葉は、この七年間、ずっと言い続けてきたどの時よりも、小さい声になっていた。
「まだダメなの? ……そりゃそうだと思うよ。夏湖、次の春には就職だもんね。社会人と学生って、ものすごく差があると思う……でも、でもさ、あと四年、俺が就職するまで夏湖は待っててくれるの? 夏湖が大学入る時だって、ものすごく焦ったよ。中坊と大学生の差はあまりに離れすぎてるからね。俺、毎日泣いてたよ。不安で仕方なかったよ。夏湖に大人の恋人ができちゃったらどうしようって。でも俺は、誰からも文句言われないように勉強だけは頑張りながら、夏湖の家に通い続けることしかできなくって……そして、今もまた、同じ不安を抱えてるんだ。夏湖が社会人になって、大人の男が、夏湖に気づいちゃったらどうしようって。夏湖の気の強い振りして実は気弱なところとか、型通りの美人ってわけじゃないのにふとした表情が妙に色っぽいところとか、いつも真剣で真っすぐ正面から見つめる瞳がふとした時に眼鏡の奥で柔らかい笑みを見せるところとか、きつい言葉かけてるのに裏でとっても優しいところとか、子供には分かんなかったかも知れない夏湖の魅力に、大人なら気づいちゃうかも知れないって。こんなに可愛い夏湖のこと、知られて、スマートにエスコートなんかされちゃって、夏湖もよろめいちゃってたりなんかして…そんなの、俺、耐えらんないよ!」
ガッシリと両肩を掴まれて、正面からひたと見つめられる。
いつでもコイツは駆け引き無し。
――逃げているのは私だけ。
「ねぇ、夏湖、俺を選んでよ。よっつも年下だけど、錯覚だと思われない程度には長い間そばにいたでしょう? この気持ちを嘘だとか、少年の憧れとかの、そんなものじゃないって信用はしてもらえるでしょう? 俺が……夏湖の立場に追いつくまでにあと四年、その間の確たる立場が欲しい。夏湖にちょっかい出してくるヤツがいたとしても、俺がいるから駄目だって相手の男に言えるだけの地位が欲しい。夏湖、俺を選んで。うんって言って」
視線を落としそうになって、コイツに顔をガシッと押さえられ、そのままぐいっと持ち上げられた。
「目、そらしちゃ駄目」
強い、強い瞳。
お酒のせいか、目元がちょっぴり赤く染まっている。
その潤みでより真剣さが伝わるようで……。
「今日こそ逃がさない。夏湖、覚悟を決めて」
彼の視線から逃げられない。
目を離すことができない。
「夏湖はさ、自信満々の笑顔で皆を仕切っていても、実は夜が怖いよね。暗闇とか、葉擦れがガサガサするのとか、窓にべったり張り付いた大きな蛾とか。そういうギャップがとっても可愛い。きゃんきゃんうるさく叱ってくるけど、それが俺のことを思って言ってくれてるのがすっごく伝わる。八つ当たりとかイライラしたからとか、そんな理由で怒られたことないもん。しかもさ、言い方キツイけど、後でこっそり俺の顔色うかがってるの知ってるよ? 俺がちょっと落ち込んだ感じだと、一生懸命フォローしてくれるよね。そんなところもすっごく好き。初めて夏のキャンプで叱られた時……あの湖のほとりで『他人の大切な物を取っちゃダメ!』って言われた時、この人は、きっと俺の大事な物も守ってくれる人だって思ったんだよ。そしてその予想は九年経っても外れていない。だから、夏湖、俺の大事な物を、俺と一緒に守って。俺の一番大事な……大好きな、俺の夏湖を」
なんだか胸が熱くなって。
言葉が何も出なくって。
そのまま、岳志の胸に飛び込んだ。
しっかりと背中に回される腕。
きつく、きつく、それでも苦しくないように気遣われた力強さに、岳志の大人の男としての気遣いを感じた。
いつの間にかとっくに追い抜かされた体格。
重い荷物もいつも持ってくれる。
私がぽんぽん怒っても、ぽかぽか叩いても「酷いなぁ、もう」と笑顔で流してくれるところも、いつの間にかすっかり彼は大人の男性になっていたんだ。
よっつも年下、と思っていたけれど。
それを埋めるだけの努力を、きっと岳志はしたに違いない。
岳志の胸の中で肩を震わせ、そして大きく息を吐くと、なぜか岳志まで大きなため息をついた。
「あああ……やっとだ。やっと、夏湖の彼氏になれた」
そして身体を左右にぶんぶん振るので、私は彼の腕ごと右に左にと振り回される。
「ちょ、ちょっと、危ないっ」
「あはは、ごめん。でも、嬉しくって、さ」
満面の笑みの岳志に、思わず私もそっと背中へと腕を回す。
途端に、ピキン、と固まる岳志。
顔を真っ赤に染め上げ「あう」とか「うお」とか意味の通じない声を出した後、全体重を私に預ける勢いでのしかかってきてこう言った。
「夏湖、俺、すっげー幸せ……今日、勢いで押しかけて来ちゃったけど、まさかこんな風に恋人認定してもらえるとは思わなかったから……現実だよね? いつもの妄想じゃないよね? キスしようとしたら覚めちゃう夢じゃないよね?」
そう言って「まさか、こ、これは夢!?」と急にわめき出し、突然ガバッと私を自身の体から離してギラギラする目でこちらを射抜いてくるので。
なんだか急に怖くなった私は、ちょっと焦ってふざけたように「んじゃ、夢じゃないか確かめてあげよう」と、頭をスコーンと叩いた。
すると。
「やばいです……夏湖さん、ト、トイレ……」
「えっ! 気持ち悪い? 吐く!?」
一瞬で体中の汗が噴き出た。
まずい、とばかりに岳志の腕を取り、すぐそばのトイレに押し込む。
閉めた扉の向こうから苦しそうな息遣いとうめき声が聞こえ、ハラハラしながら待っていたが『飲んだ後に飲む』という胃腸薬の存在を思い出して部屋へと駆け込んで行った。
しばらくしてトイレから出てきた岳志は、予想に反してスッキリした顔をしていて、薬を差し出すも「要らない」と笑顔で断ってきた。
「大丈夫なの……?」
「うん、出すもの出したらスッキリしたから」
にこやかに答える岳志に「汚いヤツ」と眉をしかめる。
「ああ、夏湖のその目つき、癖になる……」
「はぁ!?」
「俺さぁ、夏湖に叱り飛ばされたり、しばかれたりするとさ、なんかすっごく嬉しいんだよねぇ。幸せって言うか、快感って言うか……これはきっと、母親がいないせいだと思う」
「えっ……違うと思う……」
「そぉ?」
にっこり、と見えない文字が浮かび上がるほど顔中で笑う岳志に、たらりと汗が伝った気がした。
そう言えばコイツは、五年生の時、ストーカー紛いのことをしたんだっけ。
気づいたら携帯の連絡先も全てゲットされていたし、私の交友関係もいつの間にか把握されていた。
変態、という二文字が点滅しながら頭の中を駆け巡る。
「愛してるよぉ、夏湖。一生、夏湖だけだから、ね?」
眼鏡をすらっと取り外されて、満面の笑みで唇を寄せてくる岳志に、早まったかも、という気持ちが胸の中にひしひしと押し寄せてくる。
けれども彼の腕の中が温かかったので、そのまま流されてまぶたを閉じようとし。
はた、と気づく。
「こらーっ! うがいしてからにしてよね! って言うか、お酒臭いから今日はやめてーっ!」
「ええーーーっ!」
「文句なら、未成年の癖にお酒を飲んだ自分に言いなさい!」
「はい……ああ、でも、そんな風に叱ってくれる夏湖ちゃんが好き」
どことなく変態くさい言動に、ひとつだけため息をついて。
仕方がないので、ひしっと抱き着いてきた岳志の頭を、わしわしとかき回すように撫でてあげた。
end
最後まで読んでくださってありがとうございました!