夏の風が運ぶもの、ですわ。
今ワタクシは、お姉様とランスの三匹でお散歩の最中ですわ。
「サマンサお姉ちゃんリリィお姉ちゃん、僕少し疲れました」
そう言って座り込んだランスにワタクシとお姉様は近付いて行きますわ。
「ふむ、ランスはまだ小さいからな、少し休憩するとしよう妹」
「そうですわね、では日陰に移動しましょう皆様」
ちょうど近くに大きな木があったので、ワタクシ達は木陰で休むことにしましたの。
吹き抜けるそよ風が身体を抜けて、夏を感じさせますわね。
「ん? お主は‥‥‥」
ワタクシ達がウトウトとしていましたら、急に声を掛けられましたわ。
目を開けて声の方を見ますと、浅葱色のダンダラ模様の羽織を羽織ったメインクーンのオス猫がすぐ近くでワタクシの事を見下ろしていましたわ。
「‥‥‥たしかトシゾウ、でしたわよね?」
「ああ、新鮮組副長のトシゾウだ」
何故新鮮組がロックモールの街に居るのでしょうか?
「俺がこの街に居る事が不思議そうだな」
あら、顔に出ていましてワタクシ?
「新鮮組組長のイサミさんから頼まれて、イサミさんの嫁さんに付け届けに来たんだよ」
そうなんですの、この街に新鮮組組長の奥様がいらっしゃるのですか。
「そうなんですのね、別にもっふもっふ団に喧嘩を売りに来た訳では無いのですか」
それならワタクシがとやかく言う事では無いですわ。
「‥‥‥今はまだ、な」
何やら思わせ振りですわねトシゾウ、ですわ。
「いずれ我等の上から命令が出るだろう、その時は手加減はしない」
「あら、ワタクシは手加減しますわよ、弱い猫に全力を出しては可哀想ですので」
ワタクシがにこやかに笑うと、トシゾウが口元を上げて笑いながら答えますの。
「ああ、そうして貰えたら助かるなサマンサ殿」
そのまま振り返り言ってしまいましたわ。
ですが、笑いながら殺気を駄々漏れさせるのはどうかと思いますわよワタクシ。
「サマンサ、あの猫強いな」
どうやら、トシゾウの殺気を感じて寝たふりをしていたお姉様がそう聞いてきましたわ。
「ですわね、果たして本当に敵なのでしょうか、新鮮組とやらは」
新しい風は、季節だけではなく不穏な空気まで運んで来たらしいですわね。




