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終章 泡沫の夢

脳というか感覚の件についてはイマイチな出来という感じが否めないです…


 目が覚めると夕日で赤く染められた病室でただ一人泣いていた。

 白いシーツに鳥の雛が如くくるまれていた体をゆっくりと、確実に起こしながら辺りを見渡す。

 白いカーテンやベッド、窓の外には針葉樹の樹頭と沈む太陽、その先に幾つかのビルなどが雑木林のように林立している。

 夢の中で、あの記憶の中で同じ景色を見た覚えがある。窓の外に一瞬見えた景色はまさしくこれだ。

 私はと言えば、服は病衣、頭には包帯が巻かれて点滴も打たれている。そんな状態の私は、たった一人、外を見て感傷に浸る。

 

「…宇宙そら

 

 あれが夢でも、彼のことは絶対に忘れない。彼の為にも生き続けよう。

 どんな苦難があろうとも、カッコ悪くても必死にもがいて生きていこう。

 そう胸に誓って少し痛む腕をプルプルと震わせながらも伸ばし、ナースコールを押す。

 押せると一気に脱力し、ベッドに倒れるように寝る。横を見るとベッド隣の台に見舞いだろうかフルーツ等が置かれている。

 ただ、もう一つ全く見舞いの品とは異なる服がある。私のものだ

 置かれた服のポケットからはおよそ1ヶ月前に熊のぬいぐるみに添えて渡された手紙が顔を見せていた。

 これも大切な宝となるだろう。それをみて私は、夕陽に当てられ高揚したように赤く染まった顔で、力無くも微笑んだ。

 

 * * *

 

~7年後~

 

 

「茜ちゃん!初ライブ、頑張ってね」

 

 監督や同僚、演奏家の人達が私を励ます。

 

「はい。頑張ります。」

 

 私は去年あたりから作詞家兼歌手としてデビューし始めた。と言っても、歌手として世にでるのは今日が初めてだ。

 

「ところで、その歌一人で作ったの?」

 

 同僚の人が訊ねる。

 その曲というのは私が今手に持っている歌詞のことだろう。

 ―題名は泡沫うたかたの夢。

 

「…泡沫の夢は、私一人で作ったのはありません。今は…何と言うか、近くとも遠い所にいる大切な人と一緒に作った想い出の曲です」

 

 大切な人。

 それは、あの夢世界で別れた宇宙のこと。

 今ではあの夢の事は不思議な夢としか覚えていない。だがこれだけはっきりと覚えている。

 覚えているのは彼との約束。彼の涙ぐみなからも作った笑顔。ただそれだけが、瞳を閉ざすと昨日の事のように鮮明に、脳裏あるいは閉じた瞳の瞼裏に上映される。

 この曲は7年前の私と彼が初めて一緒に作った楽曲。切なくて儚い、そんな恋愛をモチーフにした曲がこの歌、泡沫の夢だ。

 当時はまだ無題だったが、あの不思議な夢があったことで私の心境も少し変わった。

 だからこそ彼との思い出は大切にしていかないとと思い少し歌詞にアレンジを加えて泡沫の夢という題名がついた。

 7年前の事故があった日、あの日以降私は感覚が少し失われた。

 熱さや寒さという熱をあまり感じることができなくなった。

 要するに体温調節が少しだけ難しい体になっている。結局これだけは完治までに至らなかった。

 少しだけと言うのは一応少し汗はかくのでそこまで重症では無い、と言うことだ。

 若くして身体に異常を持ちつつも歌手になり、皮肉にも観客をノルマ数は寄せられたし、…最後に感じた彼の温かさを、人の温もりを私は知っている。

 だから不幸とは思っていない。

 

「それでは!東雲 茜さんの入場です!」

 

 アナウンサーの声と観客の歓声が響く。

 私は深呼吸をして心を落ち着かせゆっくりとステージへ一歩一歩噛み締めながら歩み出す。

 大丈夫、私には彼の声が聞こえなくても、彼の姿が見えなくても、一人じゃない。だから


 安心して彼へ届くようにこの歌を歌おう

 

 

 

 

 

 美しい歌声が聴こえる。

 聴いている限りでは彼女と作詞し、事故にあった日に僕と共に散った曲のアレンジだろう。

 僕は茜が立派に生きている事を知れて安心する。

 だが同時に少し寂しい。僕の途切れた記憶にいる茜とは少し変わってしまったみたいで。

 でもそれで良かったのだろう、良い変化だ。

 僕個人としては彼女の体調から、作詞家で止まって欲しくはあったのだが。そう思いつつ彼女が見つけることの出来なかった温度に対する記憶の欠片を握り締める。

 これが見つからなくとも、彼女が望んで失った物ではないため、彼女はこの夢から追放された。

 彼女がここから居なくなってから残滓ざんしとして存在できている記憶の中の僕が見つけてしまった事を少し後悔した。


『でも、その弱点をもおのが美点に変えようとするのなら、心配は要らないかな。完全無欠の人でない事を皮肉にも体現している。だから、その美点と言う弱点、それはそれで良い調味料かもしれない』

 

 何はともあれ、これで安心して消えることができる。

 あんな事言っときながら心配で消えないように未練がましくこの夢世界から彼女を見守るなんて我ながら女々しいよ。

 でももう安心だ。彼女を支える人もいる。これで彼女は名実共に一人じゃない。

 歌はサビであろう所に差し掛かる。

 

― 私が愛したのは

きっと始まりから貴方だけ

 

『…!』

 

 それは僕が彼女に言った言葉。少し変えてはあるけど…覚えてくれてたんだ。

 

『聴こえているよ、君の声。誰よりも近くて遠い、夢という曖昧な存在の中で、僕と君の残した記憶という歴史の中で。これで本当にお別れだ。今度はSee you ageinでは無く…Goodbye 茜』

最後の最後まで思い付きの稚拙な小説にお付き合いいただき、真にありがとうございます!

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