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4章 思い出

ラストスパートです

 結果から言うとどこにも無かった。

 私たちは木の部屋に戻り、色々と模索する。

 

「おかしい…絶対に何かあるはず…。じゃないとピースは揃わないし…」

 

 天 ―神様に助けを請うように上を見上げて悩む。

 すると、その行為が功を奏したのか、小さく木の頂辺りにぶらさがった黒い物が見えた。

 そこで黒い欠片についてのヒントを思い出す。

 一つは遥かなる空に

 

「シエル!上、見て!」

 

 言うとシエルは上を見上げ、その存在に気付いた。

 

「どうにかして取れないかな…?」

 

 シエルは悩む。

 と思っていたのに、何を思ったのかシエルは掌をポンと叩き、ギロチンのあった部屋へ駆けて行く。

 

「あ…バケツ投げるのかな?」

 

 真っ先に脳裏に浮かんだ案はそれだった。

 真っ二つにされバケツ本来の存在意義は潰えたと言って過言で無い。

 今となっては鉄屑のバケツであろうとも本来の形から逸脱した時点で本来の用途からも逸脱しているだろう。

 だが、果たして上手くいくのだろうか。

 シエルを疑ってる訳では無い…いや、そう言うと嘘になる。

 恐らく私は彼を疑っている。彼の力を根本的に疑っている。

 表面上の心情は疑心なんて無いに等しいが、表面上では無い心のどこかで疑っている。

 あぁ、私はなんと愚かなのか。何度か救ってもらった。そんな彼を疑うなんてどうかしている。

 そうやって葛藤のようなものを繰り返して一人ボーッと惚けていると、シエルは二切れのバケツを持ってきていた。


「あ…やっぱり、投げるんだね」

 

 シエルは私の目を見て頷くと切れたバケツの片方を持ち、投擲する。下投げでは無く上投げで

 切れたバケツは虚空を飛び、遂には欠片へ当たることなく地面へ衝突する。

 その音はただ虚しく響き渡り、シエルは棒立ちでそれを見ていた。

 

「ど、どんまい」

 

 言うとシエルは照れ隠しなのか私から顔を反らしてもう一投。今度は下投げで


「…………」

 

 それはもう、何とも言えなかった。

 勢いよく欠片へ飛翔したもう一つの半バケツはそのままの勢いで伸びた木の枝に当たると巻き付くようにクルクルと回転して乗った。

 ここまでくると最早運が悪いとしか言い様が無い。

 

「…バケツは諦めよっか」

 

 シエルは頷くが相変わらず棒立ちでそれを眺めていた。

 さぞ、やるせない気持ちになるだろう。私だってシエルと同じ事になればそうなる。

 他の部屋で使えそうなものを探すしか無い。

 

 * * *

 

 まず私はぬいぐるみのあった本棚の部屋に入った。

 図書館で脚立や梯子を見たことあるから、ここにもあるのではないかと思っての行動である

 だが、まさにこう言える現実は非情なりと。

 

「本とぬいぐるみだけって…」

 

 はぁ。と溜め息を溢し、ぬいぐるみに視線を落とすと最初来た時やさっき来た時には気づかなかった物が視界に映った。

 ぬいぐるみの下に手紙のような白い紙が見えた。

 ぬいぐるみをどけてそれを手に取り読んでみる。勝手に読むのは悪い気がするが、どうもこの手紙を他人事だと思えなかったのだ。

 

「『2.14のお返し、熊のぬいぐるみで良かった?ぬいぐるみ好きだったよね?チョコレートよりも君からの愛の方が何よりも嬉しく、甘美な物だった。改めてありがとう。そしてこれからもヨロシク by宇宙』…って何これ…なんだか恥ずかしい…これ、読んじゃダメなやつだったのかな」


 2.14と言えば…思い浮かぶものはバレンタイン。そうか、宇宙って名前の…人?が女性に貰ってそのお返しに熊のぬいぐるみにこの手紙を添えて渡したのか

 それにしても、君の愛って…告白?

 そこまで考えて私は深く深呼吸をして落ち着く。

 余計な詮索をするよりも先に役に立つものを探そう。

 私は足早に部屋を出た。無意識にポケットに手紙を入れて

 

「さっきの…どうも他人事の気がしないなぁ。私だって熊のぬいぐるみ好きだし…。でも、私に彼氏っていたっけ?そもそも、宇宙って誰?…つまり勘違いだよね多分、うん。」

 

 一人でボソボソと呟きながら暖炉の部屋へ入る。

 調べるところと言えば…暖炉や机の下だけ、そう思っていた。

 心なしか部屋が茜色に染まっていた。そう感じて横に目をやると、扉とは反対側の壁はただの壁と思っていたのだが、どうやら窓のようだった。

 

「窓…?じゃあ、この明るさって…陽の光?」

 

 私はその外を覗き込む。

 遠目には何も見えなかったが、いざ近付いて見ると、しっかりとした景色があった。だが、少し異様で、ここより現実味のある景色だった。

 窓の外は両側に白いカーテン、その奥に白い壁とまた窓。その外に昼下がり、夕方に近い空と数本の木の先端(恐らく高所だから下が見えないのだろう)、それとどこかの町なのか、空の下木の先には幾つかの高層の建物が見える。

 白い壁もカーテンもどこか病室を彷彿とさせ、その景色は奥行きのある立体的な物だった。

 見えた感想は…まるで寝てる誰かの視界を借りて窓に映し見ているようだった。

 

「なんだろこれ…あっ!」

 

 声が出たときにはその景色は消え、ただ真っ白な空間を描いただけに変わってしまう。

 その景色は暫く見ても全く変わらず白だった。先ほどのものは見間違いにしては具体的でとてもそうとは思えない。

 奇妙な事もあるものだ

 

「もういっか…。他に使えそうなものとか無いし他の部屋…って言ってもあの黒い二部屋は絶対使えないから、あの広間しか無いか…」

 

 私はそそくさと部屋を出ると寝ていた空間へ向かう。

 すぐそばだったので着くのに時間はかからなかった。

 着くとシエルが私が起きた時にいた羊のような生き物を撫でていた。

 

「シエル、そっちは収穫あった?」

 

 シエルは振り向くと白丸の目を閉ざして首を横に振る。

 私は思った一つ疑問をぶつけてみる

 

「外の景色って…あるの?」

 

 訊くとシエルは何の事かさっぱりと言いたげに首を横に振る。

 だったらやはり見間違いだったのだろうか。

 

「どうする?あの欠片取れるかな?」

 

 そうは言えども手段なんて皆目見当もつかない。いわゆる詰みに近い

 だがシエルは違ったようだ。シエルはゆっくりと立ち上がると何か思い付いたのか、頷く。

 

「何か思い付いたの!?」

 

 そう思って期待に胸を弾ますが、それは期待を大きく裏切った。

 シエルは白丸の目を細めて、清々しくも憎らしく首を横に振る。

 万策尽きた、お手上げだ。そんな負の感情がその姿からは滲み出ていた


「……………だよね」

 

 私が溜め息をつきながら羊に触れると、羊はその優しく抱擁してくれそうな毛を強ばらせ、驚いたのか一度その場で跳ねる。

 それに私が反応するよりも速く羊は目の色を変えて一直線に木の部屋へ電車が如く猛スピードで駆けて行く

 私もシエルも気付けばそれを追って走っていた。

 

「ま、待って!どうしたの!?」

 

 無論、私たちが追い付ける筈もなく、凄まじく重い音が響き渡る。

 私たちが木の部屋へ着いた時には羊の姿は消えていた。代わりに欲していた黒い欠片が地面にポツンと置かれていた。

 シエルが触れてもどうとも無かったのに、なぜ私が触れたら高速で走行したのか。謎は深まった気がするが結果オーライ。終わり良ければ全て良し、だ。

 私はそうやって考えることを放棄した。

 

「よし、取るね?」

 

 伸ばした手が少し戸惑ったのか、直前で止まる。

 前々回はほんの少しの時間、予想を越える痛みを伴い、前回は一瞬であるがさらに予想を越える痛みを伴った。ならば次は気絶する程の痛みを味わうかもしれない。

 

「今更怖じ気づいても仕方無いよね…。ええい、ままよ!」

 

 私は力強く目を閉じ、舌を歯で挟み、気絶を何とか免れようとしてそれに触れる。

 だが、そんなものは全くもって無意味だった。

 

「…痛く…ない。どちらかと言うと…気分が楽になった?」

 

 そう、痛みは無かった。

 それはもう全くの皆無で、肩の荷が降りたような、無理に抱え込んでいた悩みを彼方かなたに捨て去ったように心が軽くなった気がした。

 感覚的にはコンクリートの壁が風通しの良いミザラへ変わったように、それほど気分が軽くなったのである。

 心底疑問に思うがこれも別に変では無い。確かに二つは痛みを伴った、が全てが全て同じじゃない、そうとは限らないのだ。良いところがあれば悪いところもあるように、痛みがあれば、痛みが無いこともある、そう言うものだろう。

 

「よ、よかった………。じゃあ揃ったわけだし、めに行こっか」


 私は少し足早に黒い部屋へ向かう。

 しかし、なぜか足取りは重い。それと同時になぜか急ぐ気持ちがあった。

 

 * * *

 

「シエルは待っててね」

 

 シエルに待つよう言うと、相変わらず私ぐらいの小柄な人が一人通れる程しかない道を通ってプレートに一枚ずつ嵌めていく

 その嵌める一枚一枚に痛みは伴わず、ただ謎の心苦しさ、それと裏腹に謎の安心と愛しさの3つが同時に沸き上がった

 

「よし…!終わった、けど…」

 

 私が急ぎすぎていたのか、私が思うより少し遅れて変化が現れる

 だがそれは時間にしてはごく僅かであった。

 頭の中と目の前で硝子の砕けるような錯覚をし、同様に耳には硝子の砕ける音が響き渡る。

 次に目の前のプレートに嵌められた黒い欠片たちが青白く光を放ち、風が吹いたのか、髪がなびく。

 欠片たちは輝きながら圧縮されたように縮んでゆき、青白い光の中から掌サイズの小さな青い欠片が月の重力を彷彿させる程ゆっくりと落ちてくる。

 私は半無意識に掌を仰向けにし、それを手に取る

 取った瞬間は硝子では無く、光と白い羽毛が降り注いだ。しかしこれも幻覚、イメージである

 それに私の体は触れることなく透過する。

 振り向くと少し心配そうにこちらを覗く白丸の目が二つ、周りの黒と同化した黒い影のシエルがいた。

 

「…大丈夫だよ。うん」

 

 その青い欠片は丁度余っていた欠片に合うだろう。だが、これを持ってからなぜか無性に悲しくも虚しくも感じ、心が空になりそうだ

 この色のせいなのか?

 進展があったのだ、普通なら喜ぶだろう。なのに私の心は泣いているようだった、気分が沈む。

 無意識に顔に影を落として歩く私の様子から余計に心配したのかシエルがおどおどしながら私に触れようとする。

 恐らくどう接すれば良いのか解らないのだろう、どう慰めれば良いのか解らないのだろう。

 私はそんなシエルをよそに、ここに来たときよりも重い足取りで木の部屋へ帰る

 

「ああ…心が鬱だ、憂鬱だ。こんな気持ちに駆られたのは初めて」

 

 木の部屋へ戻ると青い欠片を合わせるのに私という存在そのものが躊躇する。

 それは心も体も魂という三位全てが本当にそれで良いのかと訴えかけて。

 その気持ちを汲み取ってか否か、シエルが優しく私の頭を撫でる。

 今まで心安らぐ行為だったのに、今では少し胸が締め付けられるように苦しくなる、悲しくなる。

 

「私は…」

読んで下さりありがとうございます

本当は「私は…」の後で嵌めるか嵌めないかのsideA、Bに分けてそれぞれエンディングを変えようと思ったのですが、片方が完成して、これどうしよう…もう片方どう収拾つけようと思って諦めました。なのでエンディング分岐は起こせません

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