序章 邂逅
前作の裁判と同じで思いつきで書きました。
短く稚拙な小説ですが、読んでくだされば幸いです
― ここは、どこ?
ここは僕と君の記憶の中。君の夢。そして君の願い
― この声は何?
これは、君の記憶の欠片
― 貴方は、誰なの?
君は知っていた
― 誰なのか姿がわからないよ…
それは、君が忘れてしまった記憶
― どうしてこんなところに私が来たの?
目覚めれば全て夢となり消える
― どうゆうこと?
それは…と……
― なんて?聴こえないよ…
……………………
― ねぇ。応えて…何も聴こえない
…………
― 誰か…いないの?
……………………
― 私、ひとりぼっちだよ…
* * *
等間隔に、優しく誰かが私の頬を叩く。
「…誰?。……………あれ?」
目を覚ますとそれは、誰かの手ではなくただただ暗い空間に、静かに滴り落ちていた水滴だった。
「…どこ?」
全くの暗闇だった謎の空間は、私の意識が鮮明になるにつれて明るくなる。
だが、
「え…。モノクロ?」
見える景色は全てが白黒で、本来の色が解らない。
「ここはどこ?」
答える声は無い。
ただ、何か黒く塗りつぶされた影が私の声に気付いたのかピクリと動く。
「貴方は人間?誰?」
その影は私に近付いてきたが何も喋らない。いや、口のような物が無い。
白黒ではっきりとは解らないが、その影の目は白で、どこかの学校の制服のような服の柄は白黒で表現されている。
なら、口も白い線で表現されていてもおかしくない。
現にいつからかいた羊のようなモノはちゃんと白い肌に黒で目と口がある。
「喋れないの?」
影は悩んだように首を傾げてから首を縦に一度振る。
「何かに書いたら?」
影は首を横に振る。
「まさか、書くものが無い。とか?」
その通りだ、と言うように影は首を縦に振る。
そうした応答の後に影はついてきてと手で表現しながら歩き出す。
私は影につられて前へ進む。
一本道の空間には左右に扉が数ヶ所ついている。
試しに開けようとするがどれも開かない。
「貴方、名前は?指で空中に書いてよ」
歩きながら私は影に尋ねる。
影は少し悩んだように顎に手をついて暫くしてから首を縦に振り、ゆっくりと指で宙に文字を書く
「えーと…。君、は、知、つ、て、い、た。?」
「ごめんなさい。貴方の事、何も知らないんだけど…」
そう答えると影はもう一度指で宙に文字を書く
忘れているだけ
と。何を忘れているのか、彼が何なのか、何も解らない。
ただ、彼の服からほのかに香る匂いが少し、なぜだか懐かしく感じる。
私が困った顔をして下を向き考え込んでいるのを見た影は私の肩をトントンと叩いて私が顔を上げるとまた指で宙に文字を書く
「C、i、e、l…シエル?」
影は頷いてからもう一度書き始める
「H.C.Andersen…?あ、ハンス・クリスチャン・アンデルセン?」
シエルは頷く。
彼はアンデルセンなのか?ならばおかしい。
私はアンデルセンよりもだいぶ後世の人間だ。邂逅する事なんてまず、無い。それに、シエルなんて名前は彼に無かった。
なら、詩人か童話作家か、何かの作家でありアンデルセンに憧れているのか?
「ねぇ。アンデルセンに憧れているからH.C.Andersenって書いたの?」
そう訊くとシエルは顔をこちらに向けて頷た。
私はアンデルセンに憧れたというか、作家として尊敬していると言ってた人を知っていた。
だけど、誰だったか、なぜか思い出せない。思い出そうと思考を巡らすが思い出せない。
ふと思うと私も誰だったか思い出せない。自分の事なのに
「もしかして…H.C.AndersenのCの所だけをクリスチャンじゃなく、同じCから始まるシエル(ciel)にしたの?」
シエルは激しく頷く。
つまりはChristianという名前だけをまず切り取り、そこから同じCから始まるもので思い付いたのを名前にしたのか
シエルが歩みを止めた。私も止まる。
するとシエルは体を横に向け、私にその景色を見せるように私を見ながら指を前へ向ける
「何、ここ…」
目の前に広がるモノクロの景色に私は見とれる。
殺風景なほとんど何も無い一つのそこそこ広い部屋。
その中央のくぼみにポツンと何かの種がある。
その周りにはガラスのように砕けた何かの欠片が3枚転がっている。
シエルは私に見せるようにそれを繋げる。
すると欠片は優しく輝き、光の粒子となって種へと注がれる。
その綺麗な光景から数秒の間、辺りが静寂に包まれ、種から白い芽がでる。
それが芽生えた瞬間に私が高校生である事を思い出した。
「今の欠片って、私の…記憶だったりするのかな?」
シエルは多分と言いたそうに首をかしげてから頷く。
「欠片全部集めるとこの木が成長して、成長しきったら帰れるのかな?」
シエルはまたもや首をかしげてから頷く。
それから私とシエル二人だけで私の記憶の欠片(ガラスの破片みたいなモノ)を探し始めた。
* * *
私はさっきの部屋の隣にある部屋に入った。
そこには本がまとめられて沢山置いてある。
シエルはここで何か作品を書いてるのかな?私は周りの本棚に見惚れて下を見るるとを忘れていた
「きゃっ!」
私は本につまずき何かにぶつかる
「ごめんなさい!本でつまずいて…」
私は前を見る。
それは人ではなく、ぬいぐるみだった。
ただ、どこかで見たことあるような…ぬいぐるみだから、似たのを持っていたのかも知れない。
私はぬいぐるみに対して謝った事に気づくと段々恥ずかしくなる。
ぬいぐるみの横に落ちていた欠片を拾って颯爽と部屋を出る。
部屋を出るとシエルが1枚の欠片を持って来た。
私の持っているものと合わせるとピッタリと合わさったが、2枚程足りない。
私はさっきの部屋の本棚の上にあるんじゃ無いかと思い、シエルの服の袖を引っ張る。
部屋に入り本棚を見るが上が見えない。
シエルも私とさほど変わらない背丈の為、見えないようだ。そこで私は
「ねぇシエル。私を持ち上げれる?」
そう彼に頼んでみる。
シエルは頷いてしゃがむ。肩車…というのも高校生になっている私からすると少し恥ずかしい。
が、仕方無い。私はシエルに肩車をしてもらい本棚の上を見る。
「…あった!」
奥の方に1枚だけ。
ギリギリ届かないのでシエルにもう少しだけ上げてと言って上げてもらい、目一杯手を伸ばして欠片を取る。
「やった!取れた!」
私は嬉しくなって安堵する。
そして案の定バランスを崩してしまって倒れ、シエルを下敷きにしてしまう。
「ご、ごめんなさい!」
立ってから謝るとシエルは気にしてないと焦ったように手と体を使い一生懸命レクチャーする。
「怪我は無い?」
シエルは頷いてからさっきの欠片を取り出す。
私はそれに今さっき取った欠片をはめる。が
「…合わないね」
シエルも残念だったねと慰めるように肩をポンポンと叩いてくれる。
普通に考えればそうだ。
都合良く形が合うピースだけのパズルなんて無い。全てを繋げていき、最後にやっと全てが揃うもの。
この欠片についてをパズルで例えるなら端っこのピースと中央のピースを無理矢理合わせようとしている。
一応そのピースを手に持ちながら私たちは他の所を探し始める
次に私が向かったのはさっき来た道。扉の数を数えてみる
「3…4…4つか。」
私は種のある部屋から遠い順に開けていく。なにか変化があるかもしれないと思いたっての行動だった。
すると奥から2番目の扉が不思議と音もなく開く。
そう言えばここにくるまでも、私の声以外は全て無音だったな。
開いた部屋に入るとそこはやはり全て白黒だが西洋の館にでもありそうな長い机と絨毯、煉瓦作りの暖炉、大量の椅子が並べられており、食堂を彷彿させる光景だった。
ふと暖炉を見ると火が薪の上で燃えている。白黒で。
不思議と温かさを感じないので手を伸ばしてみる。火のすぐ近くに手がいっても全く熱さを感じない。
もしや燃えないのでは?と疑問に思いそのまま手を近付ける。
が、後ろへ強い力で引っ張られて手が炎に触れることは無かった。
振り向くとシエルがいて、その体と目は焦りを示していた。
「熱く無いの。変じゃない?」
怪しくないか?とシエルに疑問をぶつける。
シエルは私を下がらせ多分僕が試すと言ってるようなレクチャーしてくる。
シエルの指先が少し近付くとシエルは熱がったように手を火から遠ざける。
「…熱かった?」
聞くや否やシエルは何度も激しく頷く。
…まさか、私、温度へ対する感覚を失ってる?
そう言えば目が覚めたとき、覚まされたときの水滴も冷たいなどと感じなかった。これも記憶を取り戻せば治るのかな?
私とシエルはその部屋をくまなく探してみる。
すると、テーブルクロスで隠れている机の下に2枚の欠片が落ちていた。
片方は2枚繋がっているやつにはまり、もう片方はどれにもはまらなかった。
「ねぇシエル。欠片をさ、あの部屋に置いておこう?これからも合わないピースばかりだと手に持ちきれ無いから」
シエルは頷き同意する。
この空間には私とシエルしか今のところ人のようなものはいない。なので盗まれたりすることは無い筈だ。
私たちは一度種のある殺風景な部屋へ戻り全ての欠片を分別して置く。
そこで気付いた。
種の下にもピースがあることに
「シエル…もしかして、これって」
シエルはその欠片を取りだし、3枚揃った欠片にはめ込む。
ピッタリと形が合い、欠片は一つの塊として完成した。
欠片たちはまたもや光の粒子となって種へと注がれる。
種から出ていた芽の葉が増え、靴ほどしか無かったものが膝ほどまで大きくなる。
同時にその植物の色、部屋の色などがカラフルになる。失われていた記憶は色彩に対する記憶だったようだ。
「わぁ…」
光の当たり具合による僅かな色の変化などまで瞳へと鮮明に写されて私は感動を覚える。
欠片にもそれぞれ色がついていて、多分色分けされている。
同じ色の欠片は繋がるのだろう。目の前にある2つの欠片は合わなかったし、色が違うからこの仮説は正しいのだろう。
片方は青、片方は緑だった。
「ねぇ!シエル!この部屋ってこんなに綺麗…」
振り向いてそこまで言うと言葉をつまらせる。
シエルは変わらないままだから。
彼が、彼だけが白黒のままで、とても虚しくなる。
頬に何かが伝う感覚を得る。なぜだか私は涙していたのだ。
彼のことを何も知らないのに、彼だけがモヤがかったように白黒なままなのが、なぜか悲しくて…なぜか切なく思えて涙が流れてしまった。
「あれ、なんで…」
理解が追い付かない、なぜ悲しんでいるか解らないのに片目から流れた涙をシエルが優しく親指で拭ってくれる。私を慰めるように。
私の目からこぼれた雨は一瞬でやんだ。
「ごめんね。ちょっと迷惑だったよね」
私はいきなり涙を浮かべた事で迷惑をかけただろうと思い謝るがシエルは首を横に振ってくれる。
「優しいね。シエルは」
笑顔でシエルに返答するとシエルは恥ずかしがったように私から顔をそらした。
相変わらず白黒のままなので照れたのか恥ずかしがったのか、真意は解らない。
けど、根拠は無いけど恥ずかしくて顔をそらしたんだと思う。
「じゃあ、他のもこの調子で見つけていこっか」
私は他に開いた部屋が無いかを探しに行った。
フランス語でCielは空を意味します。
次に続きます