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解放

後半から短編(小夏視点)と話がダブってきます。


 セラフィエルが一連の、『よく顔を見る奴ら』が何かを求めて行動していると気づいたのはそれからすぐだった。


 戦闘開始音がフィールドに流れると二班に分かれたプレイヤー達がラスティスとセラフィースを地面へと押し付ける。


【何やってるんだ? こいつら】


 別の戦闘から帰って来たラフィースがセラフィエルが見ていたモニタを見て首を傾げる。


「さぁ、でも……ラフィースが初めてアバターで暴れた時も似たような事していたぞ」

【そうなのか?】

「ああ、勇者が押し付けられていた」

【言われてみたらそうだったか……?】


 首を傾げて様子を眺めるとラスティスが魔法を放ち、周りのプレイヤーを吹き飛ばし、セラフィースにめがけて聖剣を振りかざそうとするが、魔王を押さえていたプレイヤーがタックルをし、ラスティスを押し倒し、吹き飛ばされていたプレイヤーが戻ってきて先ほどと同じようにラスティスを押しつぶす。


【……何をしてるんだ、こいつら】

「さあ?」


 先ほどと同じ質問をラフィースはして、セラフィエルは首を横に振る。

 プレイヤーの一人が聖剣を奪い、フィールドの遙か彼方へと投げ飛ばしたの見ると再度聞かずには居られなかった。

 その間ラスティスは魔法を使って再度吹き飛ばそうとしていた。

 それと同時にセラフィースも同じようにプレイヤーを吹き飛ばし、勇者と魔王がフリーになり、魔法攻撃の応酬が始まる。しかし一瞬の隙を突いてプレイヤー達が二人を地面へと押し倒し縫い止める。


 それは十五分という決められた時間が過ぎるまで起こった。

 なんだったんだ? とセラフィエルとラフィースは顔を見合わせた。

 その一団は次の魔王戦の時にも現れた。


『どっちだ!?』

『……普通の魔王だ! 魔法使いタイプじゃない!』

『よし! ラスティスを倒すぞ!』

『おー!!』



【「は!?」】


 モニターの中で行われた会話に二人は呆然としているとプレイヤー達は本当にラスティスに襲いかかった。

 ラスティスはそれを避けながらセラフィースに攻撃を繰り出している。

 しかしあまりにも多勢に無勢で彼は地面にうつぶせに倒れた。

 そして魔王セラフィースはというと、もちろんプレイヤー達に攻撃している。

 十五分後。セラフィースは転移して立ち去るという事でプレイヤーの負けが決まる。


 次の魔王戦。彼らはやはりまた魔法タイプじゃないと言いつつラスティスを倒し、そして魔王を倒した。


【よく分からんが、私をご指名というわけか】


 ふんっと黒い笑みを浮かべ、次の魔王戦、彼らがいる所に降臨した。


『出た! 魔法使いタイプ!』

『全員死ぬんじゃ無いぞ!』

『やるぞー! やるぞー!』


 彼らは大興奮であった。しかしラフィースの敵ではない。

 そもそも魔王セラフィースは、互いが互いに足を引っ張るという状況が内側で起きていたため、本来の強さはなかった。

 プレイヤー達もそれは分かっていたのだろう。彼らはセラフィエルの方がセラフィースよりもずっと強いと言っていたのだから。


(それなりに、対策してやってきたのか……)


 彼らの戦闘を見ながらセラフィエルはそう結論する。魔法防御をしっかりと固めてきているらしい。普段ラフィースが戦闘に出ると一分もしないうちに終わるのだが、今回はすでに二分は過ぎている。


 彼らは防御しつつも、倒そうと合間合間に魔法を放っている。

 ラフィースの魔法障壁があっさりと防いでしまうが。

 

(しかし、もう終わりだな)


 ラフィースが次に用意している魔法の構成を見て、セラフィエルは大人げないと思いながらため息をついた。


『気張れ! 気張れ気張れ! 魔王のハッピーエンドを見るんだー!!』

『おー!!』


「【!?】」


 彼らの叫び声を聞いてラフィースもセラフィエルも驚いた。

 どういう意味だ? とラフィースが問うよりも早く、地面が口を開く様に大きく割れて、真っ赤に燃えたマグマが吹き出して彼らを一瞬にして飲み込み、引きずり、口を閉ざすように地面が何事も無かったように閉じた。


 人間達が禁呪に指定している魔法だ。


【……どういう……意味だ……?】


 一人フィールドに残ったラフィースが思わず呟く。

 意識が外れたのかラフィースはセラフィエルの傍に立っていた。

 呆然と。


「これだけ分岐が多いんだから、エンディングは一つじゃ無い。そう言って頑張ってる子達だよ」


 ラフィースに答えたのはこの世界の神。何故か白衣を着て。聴診器がアクセ代わりに肩にかけてあった。


【分岐?】

「そ、復活の魔王のクエはスタートとエンドは決まってるけど、間の話は色々変えられるからね。セラフィエルの過去を調べたり、邪神の過去を調べたりってね」

【……】

「そうするとね、一つしか無いと思っていたエンディングも条件を満たせば別のエンディングがあるんじゃないかって一部が頑張りだしたんだよね」

【……やたら……】

「そう、やたら、同じ顔のやつらが戦闘に参加するのはそのせい」

「あるのか? そんなエンディング」

「作ってないよ。基本的には『復活の魔王』は事実を元にしている。そんな偽の話を作るはずないじゃないか」

【うんえー……っていうのは】

「もちろん、俺達は有るとも無いとも言わない」

「なぜ?」

「俺は言っただろ? 俺は何も企んでないって。君たちをどうこうするなんて考えてないし、めんどくさいって。でも、俺の子供達は違う。阿呆で馬鹿な程の情熱の固まりさ。作り物の世界で、作り物だと思ってる話の、きっとある物語、誰もが幸せになれる話を探してる」

【…………そんなもの】

「今はない。としか言えない。でも、君たち次第でありえるかもしれない。だから。運営は黙秘を貫く」


 沈黙が落ちる。


「ま、そんな話は気にしなくてもいいよ。もしかしたら勝手に向こうが無いって諦めるかもしれないし」


 そう言って彼は消えた。

 ラフィースは何も言わず座る。噛みしめた唇がセラフィエルから見えたがセラフィエルはかけるべき言葉が見つからなかった。

 邪神である限り、彼らが望むエンディングは無いだろう。しかしだからと言って穢れを祓えるわけでは無い。

 彼の中には自分を騙した女への恨みがまだ根強く残っている。

 愛していると言いながら求めたのは自分が神へと至るための手段。

 毒を飲ませ胸を切り裂き、核を取り出して飲んだ。

 ラフィースはそれを見ていた。彼女の真意が分からず。そんな事されても彼女を愛しているという思いが強かったのだろう。

 女は誤解していた。核は力を司るものではあるが、ラフィースが神たる理由ではない。あくまで力を溜め込み使いやすくするためのものであり、それが取り出されたからといって死ぬわけでは無い。そしてそれを飲み込んだからといって神になれるわけでもないし、何より、正規の手順を踏んでいないそれは取り出されたとしても、ラフィースの一部であった。

 何故? というラフィースの当然なる疑問を、核は答えを知るために全て読み取った。

 醜い感情を全て。

 女の利己的で、他者を顧みない思いを。

 人の中で生活するラフィースが、神と知って近づいた。

 愛していると振る舞った。愛していると囁きながら、嗤っていた全てを。


 ラフィースは怒りと悲しみで狂った。


 何もかもがあざ笑っているようだった。

 女が核の力に耐えきれずあっさりと消滅してしまったのも悪かったのだろう。怒りの矛先が無かったためにそれが全てに向けられてしまった。


(……父さん達の対応も……、彼の人間不信に拍車をかけたのだろうな……)


 ラフィースの姿を見ながらセラフィエルは過去を振り返る。

 振り払われた感触を思い出し、自分で自分の手を握る。

 裏切られた。その事が苦い味となって口の中に広がるようだった。


 ラフィースはそれから魔王のアバターを使い暴れることはなくなった。

 この世界で目覚めた時ほどの勢いもなく、ただ、プレイヤー達を眺めていた。


【……何故、諦めないのだろう……】


 それは独り言だったのだろう。小さく、唇の上を滑っただけのようだった。

 あれから新しいクエも増えて、いっこうに見えないエンディングに、嫌気がさして見なくなった顔もある。

 でも、ずっといる者達も居る。流石に顔は覚えた。

 中には戦闘中に声をかけてくる者も居る。


【なぁ、セラフィエル……。彼らを突き動かすのはなんなんだろう】

「……分からない」


 セラフィエルは首を振るしかなかった。

 何故。とセラフィエルも思う。

 家族ですら、信じなかったというのに。家族ですら、助けてくれようとしなかったのに。

 なぜ、まったく関係の無い彼らが頑張るのか。


 苦しい。そう、彼らを見ていると苦しいとすら思う。


 謝りたくて、情けなくて、見捨ててくれと言いたくて。それなのに、助けてくれとも言いたくて。自分の感情すら分からなく、ただただ苦しい。


 ふと気づけば。

 諦めの悪い面々が集まっている場所があった。


 セラフィエルの意識がそこに引き込まれ、気づけばアバターの中にいた。

 ここは、熊のモンスターが出る場所。


(そういえば、前にもここで何かあった気が……)


 そうセラフィエルが思っている時、崖下でかけ声が上がる。

 少女を肩車をして走る。男。


(あれは……小夏とカタストロフだったか?)


 彼らが向かう先には、スキンヘッドのレッドマンが居た。

 何をしているんだろうと思ったら、助走を付けたカタストロフをレッドマンが流れるように崖上へと向けて飛ばす。

 カタストロフが一番高い所まで来たタイミングで、小夏がカタストロフの肩からジャンプしてさらに高さを稼ぐ。風魔法を使ってまで。


 自分と同じ目の高さに来た小夏にセラフィエルは言葉もなく瞠目する。

 自分を捕まえようと右手が迫ってきて、見えない障壁に当たり、小夏はバランスを崩して、「うぎゃあ」だか「うみゃあ」だか分からない悲鳴を上げて落ちていく。


『小夏~!!』

『こなっちゃーん!!』


 二人の焦りの声が聞こえる。下で上手くキャッチできないと落下で死に戻りだろうか。とセラフィエルはそっと下を覗くと風魔法でどうにか事無きことを得たようである。

 ほっと息を吐いてセラフィエルの意識が外れるとアバターのセラフィースはさっさとそのフィールドを立ち去る。


 何時のも場所に戻るとラフィースが見ていた。首を傾げるとラフィースは首を横に振り、なんでもないと言った様子だ。しかしなんでもないという事はない。

 ラフィースも思うところがあるのだろう。

 穢れが強くなったり弱くなったりしている。自分の中で何かしらの葛藤があるのだろう。


【彼らを解放したい……】

 

 そう口にしたのはどれくらい経った頃だろうか。

 もはや、魔王のハッピーエンドを見ると頑張っているのは三人しかいない。その内二人はリアルが忙しくなったからとやってくる時間が極端に減った。

 それでも時間があればやってくるのだから、諦めたわけではないのだろう。


「解放ってどうやって?」

【……分からない。まだあの女に対する憎しみはあるがそれでも、本来は関係ないこの世界の子供達をいつまでも煩わせるのは嫌なのだ】

「…………そう……だな」


 セラフィエルも頷く。しかし、どうしたらいいのかラフィース自身も分からなかった。

 もう終わっても良いと思っていても、解放されない。

 聖剣に貫かれても穢れが落ちる事はない。

 どうすればいいのか分からない。

 そう途方に暮れた時だった。


『パラライズ!』


 その言葉が聞こえた時、セラフィエルとラフィースの意識は強制的にアバターの中にいた。


『『な!?』』


 戸惑いながらセラフィエル、いや、あの頃の様に邪神ラフィースを内包した、魔王セラフィースは自分自身と勇者ラスティスを見る。


 先ほどの呪文は確か麻痺の呪文だ。元の世界には無い、ゲームの中の呪文。

 実際には有る呪文らしいが、それを受けて、地面に横たわっているのは魔王の自分達ではなく、何故か勇者ラスティス。


『『な、何故?』』


 問うのは魔王と勇者の二人。そして質問して気づいた。立っているのが小夏だと。

 そして自分達が強引にアバターに入れられたのは、まだ実際の戦闘が開始されておらず、アバターが自動戦闘モードに入っていないせいだと知った。


「ごめんねー。もう、今日以外こんな風に私だけが魔王戦に参加できる日って、早々ないだろうからさー」


 なんの気負いもなくこちらに向かってくる小夏。そして気づいた。彼女以外居ない。

 復活の魔王クエストは、ラフィースのストレス発散に、途中から別のパラレルフィールドにいても一カ所に集める仕様になったらしい。

 つまり、この時間この魔王戦をしているのは小夏一人なのだろう。


「あ、そんなに警戒しないでください。聞きたい事があるだけで、攻撃とかはしないから」


 警戒はしていなかったが、そう見えたのだろう。ならば、とセラフィースは昔のように魔王として振る舞う事にした。


『ほう? お前は俺が憎いからここに居るのではないのか?』

「違うよ。貴方と話がしたくて来たの」


 知ってる。そう二人は思った。他のプレイヤーがいる時でも彼女は必死に話しかけていたから。


『……お前の顔はよく覚えている。何度もいるのからてっきり俺が憎いのだと思っていたが?』

「いやいやいや、セラスと話したくて頑張ってただけよ? 他のユーザーの手前補助とかはしてたけど、それしか、しなかったっしょ」

『セラス?』


 誰の事だ? 誰と勘違いしてる? と、ぴりっとした感覚がラフィースから感じる。

 嫉妬に似た感覚に違い。


「あ、ごめん。セラフィースって言いにくいから勝手に略してた」

『なるほど。好きにしろ』


 名前を省略しただけだと分かり、ラフィースの嫌悪が消えた。

(ラフィースは女には当たりが強いよな)

(【放っておけ】)


『それで? 人類の希望である勇者を麻痺させてまで俺に聞きたい事とはなんだ?』

「貴方を救う方法を教えてください」

『…………』

「いや、頑張ったんだけど、全然駄目で! 色々ネットとかでも調べたんだけど見つからなくて……」


 知っている。そう答えてもいいくらい、彼女達が頑張っていた事を知っている。

 それがラフィースに、元に戻りたいと思わせるくらいでもある事を。


『……勇者が魔王を殺せばそれで終わりだ』


 それ以外、セラフィエルもラフィースも知らなかった。


「……世界はそれで救われるかもしれないけど、セラフィースは違うでしょ?」

『それ以外に方法は無い』

「……本当に? 全然? これっぽっちも!?」

『無い。神ですら無理だったのだ。お前に何ができる』

「……じゃあ……、魔王にならない方法とか……」


 言いつつ彼女の言葉が小さくなっていく。


「……邪神……。邪神を浄化する方法って本当に勇者に倒される以外ないの?」


 何かにすがる様に彼女が聞いてくる。その表情は今にも泣き出しそうだった。


『無い。それが出来ているのなら神々がそれを行うだろう。無いから邪神は俺の魂に封印され、そして、肉体を持ち、破壊される時のエネルギーを使い、穢れを一気に祓うのだ』

「……本当に……無いの?」

『無い』

「……」

『……邪神自身、自分の身に付いた汚れを祓う方法は他に無いと知っている』


 そう告げると彼女、小夏は泣き出した。

 セラフィースは泣かせたかったわけではないが、彼女にとって、これがいかに辛い事だったか分かる。

 知っている。と内心思う。

 小夏達の思いを知っている。

 助けたいという必死さを。

 こうやって、対面すると特に感じる。


(……泣いてくれるんだな。この世界の人間の方が……)


 セラフィースの脳裏に浮かぶのは魔王となった時の光景。

 大切だと思っていた家族が恐怖に怯え、敵意や殺意を向けてきたあの顔。


『……名は?』


 思わず尋ねた。


「水月……あ、キャラ名前は小夏」

『ミヅキ……。【ありがとう……】』


 そう礼を告げた。

 気づいた。なぜ、ラフィースが戻りたいと思っても戻れないのか。


 礼を言って、彼女を通り過ぎ、ラスティスの左腕を掴み、彼を立ち上がらせていた。


「あぶない!」


 水月の悲鳴のような声が聞こえる。


 ラスティスの右手にある剣が彼に迫ってくる。

 それを自らの意志で受け入れた。


 ラフィースはもう、戻っても良いと思っていた。

 彼らを彼女を解放したいと言って。

 それが出来なかったのは、半身となっていたセラフィエルのせいだと、気づいた。

 大事な家族の裏切りが、彼の心の深くを傷つけた。抜けないトゲとして存在していた。

 必要だったのはラフィースの思いだけではなく、セラフィエルの思いも必要だったのだ。


 聖剣から眩い光が放たれ、体がその光に溶けるように消えていくのが分かった。

 でもあの時の様な痛みはなくあったのはむしろ暖かさだった。



8日はお昼頃かと。

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