三日目 ソフィアとぬか漬けと招集
「金がない。小遣いをおくれ」
「朝一番から何言ってるんですか」
月曜日のよく晴れた日。
ソフィアの怒鳴り声から始まった。
「自分で稼いでくださいよ! 書類仕事たくさんあるんですからね!」
魔王はその「確かにその通りだ」と頷くものの、「だが」とつけ加えた。
「俺は人の金で漫画が買いたいんだ……!!」
「馬鹿なんですか?自分のお金で買ってください。ないなら稼いでください」
「上司に向かって馬鹿はないだろう馬鹿は……もういい、帰る」
魔王はヘソを曲げて部屋に戻っていった。
流石に心配になったソフィアは魔王部屋の隠し監視カメラを確認する。
いつもならばテレビゲームやパソコンで遊んだり、漫画を読んだりフィギュア撮影なんかをしているのだが……今日は様子が違った。
ふと、部屋の本棚に目がいく。
ソフィアがよく見ているドラマの漫画原作がそこにあった。
(あ、あれは読みたい、でも魔王様にああ言ってしまった手前言いづらい……漫画欲しいって言ってたな。あの漫画のことなのかな)
気になって調べてみると、丁度最新刊が発売したばかり。
今回だけだと思いながら、ソフィアは本屋へ向かった。
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そして昼になると、ソフィアは昼食を持って魔王の部屋を訪れた。
「まだ拗ねてるんですか?はいご飯ですよー」
「拗ねてないもん。意地悪なソフィアが悪いんだもん。新しく出た漫画欲しいだけなのにお小遣いくれないから。ぁっ、このきゅうりうまいなポリポリ」
「それは拗ねているというのですが……ていうか仕事すればいいじゃないですか。このぬか漬け上手くいったんですよ、大根のもよく漬かってますよ」
「今度ナスも漬けといてくれ。でも仕事って言ったって金稼げないじゃん?見ろよこの美少女ワガママ幼女ボディー、人間の国はどこも雇ってくれないぜ?あっ、大根もうめぇ」
「自分で稼げって言ったのは!魔王の仕事してくださいってことですよ!してくれたらお小遣い出しますから!はいこれ今日の書類です!ナスは漬けてあるので来週出しますね!」
「おお、期待しとくー。この紙の束、5センチはあるぞ……ソフィア芋持ってきて、さつまいも」
「なんですか突然」
「この書類燃やして、庭で焼き芋すんだよ!」
ぷちん。
流石に怒ったのか、いつもは温厚なソフィアも目を細めた。
「……あなたをアルミホイルで包んで蒸し焼きにしましょうか?」
「す、すみませんでした」
さすがの魔王でもこうなったソフィアには敵わない。
その後、真面目に仕事した魔王はお小遣いをもらえたのだが、残念ながら欲しかった漫画は売り切れだった。
家に帰ると、ソフィアが欲しかった漫画を手に入れてくれていた!
最高の部下よ!と抱きつく姿は正に愛し愛された親子のよう。
その後食べたナスのぬか漬けは、とても美味しかった。
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その日の夜、魔王は夕餉のハンバーグを食べながら、不意に心の声が漏れてしまった。
「ソフィアの肌、最近荒れてきたな。加齢?」
「ストレスですっ!」
魔王の世話という仕事は大変なのだ。
くる日も来る日も毎日まいにち、家事洗濯掃除をこなし、近所づきあいもほどほどに地域の会合に出たり……魔王のワガママに付き合ったり、勝手に通販で玩具買われたり、大変すぎるのだ。
「まったくもう!私がどんなに苦労してると思ってるんですか」
「ばあさんや、いつもすまないねぇ」
「誰がばあさんですか」
「ふむ、まあゴロゴロしてるだけというのも悪いしなぁ。ちょっと本気出すか」
「わあい、それじゃあまた溜まっている書類整理を」
「いや、それ以外のやつ」
そう言うと魔王は半分残っていたハンバーグを一口で平らげると、ご馳走様と言いながら部屋に戻って行った。
部屋に置かれたパソコンを起動し、メッセージを何人かに送る。
メッセージにはこう記されていた。
『よう、魔王直々の招集だ。次に月が満ちる時、魔王城へ集まるように。来ないやつは死刑な。待ってるぜ!』




