二日目 魔王と昼飯と飼い猫のタマ
それは平日の昼下がり。
まあ魔王はニートなので休日も平日もテレビ番組しか関係ない。
「おーいソフィア?いないのかー?」
魔王はスマホを片手に持ち、ソフィアを探していた。
家のどこを探してもいないのだ。
「これは……出かけているのか?」
リビングの机の上を見ると、書き置きが残してある。
こう書いてあった。
『今日は人間たちの街の会合があるので、出席してきます。
私がいないからと言って、ハメを外さないでください。
Ps,冷蔵庫にご飯があるのでチンして食べてくださいね』
「街のなんか役職やってたのか? ソフィアのやつ。曲がりなりにも神だろうに」
やらせたのは魔王なのだが、そんな事は既に記憶から忘却されていた。
魔王直属の幹部は四柱の神から構成されており、そのどれもが人間の勇者と比類する力を携えている。
ソフィアは叡智を司る神として、魔界ではかなりの信仰を会得しているのだ。
そんな大物が今では人間の街の会合に出ている……哀れなものだ。させたのは魔王なのだが、そんな記憶は忘却されていた。
「しかしどうしようこれ。保護者の同意がなけりゃ買えないやつなんだよなぁ……仮面騎士の新作ベルト」
例えソフィアがいたなら、ここで「そんなもの買う余裕があるなら仕事をこなしてください!」と言うだろう。
「仕方ない、私は数百年を生きる魔王。保護者の同意くらい偽装させてもらおうっ!」
人間の作るスマホはよく出来ており、指紋認証に加えて魔力のシグナルを読み取り本人確認を行うことができる。
保護者確認はそのシステムを用いて事前にスマホ(キッズ用)に登録してある魔力を認識するのだ。
「魔力をこう……ちょちょいとソフィアと同調させて、指もソフィアのに変えてっと。あっ、ちょっと難しいなこれ………んにゅんにゅんにゅ……よしっ、にんしょうかんりょーう!」
あっという間に指の形が細長くなり、完全にソフィアのものになった。
スマホからは『ピロリン♪』と音が鳴り、認証が完了した。
「ひと仕事終わったし、飯でも食うかー! っと?」
冷蔵庫を開けると、そこには何も入っていなかった。
食い散らかされた皿が無残にも残されている。
「落ちているこれは毛……白い動物?」
魔王は毛が皿の周囲にあるのを確認し、冷蔵庫を閉じた。
すっと目を瞑り、魔力を家の中に張り巡らせる。
魔力波動が、一つの心音を捉えた。
そこに向かって進んでいく。
「索敵魔法もたまには役に立つよな!あんまり使わんけど!」
視線の先には、魚をくわえた猫の姿があった。四つん這いで階段を昇ろうとしている。
しかしその猫は、まるで人間のような形をしていた。
っていうか猫耳つけた人間だ。
ご丁寧に尻尾まである。
どこか見覚えのある顔だ。
「誰だお前!」
「にゃにゃっ!?」
猫は尻尾を揺らして飛びのいた。
階段の上に陣取り、警戒している。
「にゃーは魔王のペットにゃ! 忘れたのかにゃ? 悲しいにゃー……」
「いや俺が魔王なんだけど。飼った覚えないぞお前みたいな猫。タマっていう猫なら魔界に置いてきたんだけど」
「にゃーがタマにゃー!!」
「はぁっ!? おま、マジか!?」
「人間の体ってむつかしいにゃ。上手く変身できなかったのにゃ……」
しょんぼりと肩を落とすタマ。
ちなみに猫といっても魔界の生物であるため、そのへんの動物よりも非常に高い戦闘力を持っている。
変身魔法も覚える種族だ。
本当にタマか疑わしいので、少し質問してみることにした。
人間がここに魔王が住んでいると気付いて放った間者かもしれないからな。
「Q,魔王城には隠し通路があります。その数は?」
「5箇所にゃ、魔王の部屋のタンスの裏のところはよく通ったにゃ」
「Q,四天王の一人アモンガには秘密がある。それはなに?」
「ベッドの下に隠した趣味の美少女フィギュアを、裸身に改造して毎夜眺めていることにゃ。変態にゃ」
「最後の質問です。Q,タマを拾った場所は?」
「こわれた世界の隅っこにゃ、やぶれた世界が繋がって怖かったのにゃ」
すべて正解だ。
ここで一発、頭にチョップを叩き込んでおく。
「な、なにするにゃ! 本物というのはわかったはず!」
「俺の昼飯、なんで食ったし」
「それは……おなかがすいたから! にゃーは主の飯であろうと容赦にゃいのにゃ! にゃにゃーん!?」
もう一発どついておく。
はー、昼飯どうしよ。
と、ここで玄関の鍵が開いた音がした。
「ただいま帰りましたー」
「おおっ、ソフィア!よく帰ってきた!」
「会合が思ったより早く終わりまして。それよりその子、タマじゃありません? どうしてここに?」
「話が早くて助かる。こいつ俺の昼飯食いやがったからなんか作ってくれ。あと折檻しといて」
「くっ、このままではやられてしまうにゃ。かくなるうえは……にゃ!」
きゃるん♪
と、タマは魔力を発している。
かなり高純度の美少女オーラだ。
しかし魔王とソフィアには効かなかった。
「主に魅了魔法かけて許してもらおうとか……お前ほんとーに俺のペットか?」
「まあ昔からアホの子ですし、許してあげてください。それより魔王?」
ソフィアは肩さげバッグからスマホを取り出すと、その画面を魔王に見せつけた。
「もう通販は禁止って言いましたよね……?」
もはや鬼神の表情で怒っており、背後からは威圧オーラ(魔力による)が可視化できるほど強く放たれている。
おそらく指紋認証されるとメールが届く設定がしてあったのだろう、と魔王は悟った。
タマは気配を消して、やつ当たりされないようにこっそりとその場を逃げ出した。
「罰として、一週間おやつ抜きです!」
「そ、それだけは許してくれ!」
「許しません。今日の晩御飯はカップ麺です」
「えへへ……」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか!?」
「嫌いじゃない、むしろ好き……って、タマがいねぇ! 逃げたな!」
「家の中に気配はありませんね」
魔王も索敵魔法を使用する。
反応はなかった。
「まあいいか、そのうち帰ってくるだろ。飯作ってくれよソフィア。腹減った」
「カップ麺じゃ生ぬるいようなので卵かけご飯にしましょうか」
「えへへ……」
「だからなんでそんなに嬉しそうなんですか!?」
「うまいじゃん、かつおぶしとオクラと納豆と醤油も追加しよう」
「トッピング禁止!」
ぐーたら魔王、四天王のソフィア、猫のタマ。
俺たちの王国生活はここからだ!
※まだ終わりません。




