和の香り、鉄の匂い
次の日
早速城の点検を行おうとしたマインはまず誰の部屋を訪れるかで悩んでいた
「なんていうか、接しやすい人がいないというか…いや人じゃないのかな…ってそれはどうでも良いかぁ」
などと考えつつ歩いていると気づけばマヴォヴの部屋の前にいた
ついでにその旨をマヴォヴに相談すると
「んー?俺は昨日寝てたからわからん」
とかなんとか言われてしまった
ただその後に
「シトゥージの部屋にでも行ったらどうだ?丁度そこにいるんだし、おーい!シトゥージ」
と問答無用でシトゥージの部屋に行くことになってしまった
(やっぱりレミィさんのところに行っとくべきだったかな・・・)
と思いつつシトゥージの後に続く
勇者が実質的にこの世界を掌握してるとはいえ実際この城は広い。
案内なしでは迷うのが関の山だ
「着きましたぞマイン殿、此処が我が部屋です」
部屋に入ったマインは
「えっ、和室!?」
その内面に衝撃を受けた
部屋の内面は日本の茶室といった出で立ちであり、外の雰囲気とは全くの別空間であることを演出している
しかしシトゥージ本人はマインのその反応にこそ驚いているようだ
「むむ?マイン殿…私の部屋のことを今なんと?」
「あ、あの!これ和室ですよね?」
「ふぅむ”ワシツ”ですか…その名前は聞いたことありませぬな、マイン殿の世界にもこういった部屋は存在していたので?」
「こういったも何もこのまんまです!僕のいた世界の僕の住んでいた国に伝わる部屋の雰囲気にそっくりです!」
「では私は知らず知らず好きな雰囲気を呈した部屋を作ってるうちにその”ワシツ”に辿り着いていたわけですな…しかしこういった部屋が存在する空間が他にあるとは、是非とも行ってみたいものです」
そう言いながら部屋の真ん中まで歩いて行き流れるように”座禅”を組んで座り始めた
「あのぉ…失礼ながら本当に日本のこと…知らないんですよね?」
思わず聞いてしまうマインにシトゥージは片眉を釣り上げ
「今の私の動きの何処かにマイン殿の暮らしていた国、”ニホン”に関するものがあったのですな?」
(座禅を知ってるって…ホントに知らないんだよな…?)
「非常に興味深いのですが…あまり長話をしてマイン殿をこの部屋に縛り付けるのも良くはないと思いますゆえ、本題に入りましょうか」
そういうと何処から出してきたのか巻物に筆を認め始めた
そしてそのまま顔を上げ口を開いた
「マイン殿は落とし穴はお好きですか?」
「はい、勿論です!古来より伝わる伝統的な罠の一として語られるのはやはり落とし穴ですから」
「なるほど、やはりそちらの世界でもシンプルな罠といった体は変わらないようですね」
「ではこちらでも?」
「はい、古来より伝わる伝統的なトラップとして非常に名が知れています。何せ落とすだけの1ステップですので」
さて、と巻物から筆を離し完成した様子の
その巻物をマインに渡した
「そこにこの部屋の罠の位置、作動方法、威力や種類などが全て書かれております」
「あのぉ…僕…字、読めないんですが」
「なんと、マイン殿は読み書きが苦手ですか」
その言葉を否定するように手を振りつつ、マインは答える
「いえ…この世界の文字がわからないんです」
「私とした事が飛んだ失態を…失念しておりました。マヴォヴ様にお頼みしてマイン殿がこの世界の文字を読めるようにして頂きましょう」
そういうが早いかシトゥージはマインの手を引きマヴォヴの下に駆け戻り始めたのだった
「マヴォヴ様、マイン殿は文字が読めないとのお達しでございます…これからのためにもマヴォヴ様の力をお借りしたいのですが」
部屋に戻ったシトゥージは早速マヴォヴにその旨を伝えた
「ん?ああ、ほらよ」
マヴォヴはまた寝ていたのか寝起きの不機嫌そうな態度をしつつも左手の人さし指を光らせ始め、マインを手招きした。
マインがマヴォヴの側まで寄るとその手をマインの頭の上に置き謎の呪文のようなものを唱え始める
と、同時にマインの意識は薄れ…やがて床に倒れ伏してしまった
次にマインが目覚めるとマヴォヴから借りている自室だった
「いったい何が…頭がふらふらする…」
「それはマヴォヴ様がアンタの脳に負担掛けたからだよ」
部屋の角から声が聞こえる
「その声…レミィさんですね?」
声の主が小声でうんうんと頷く声が聞こえる
どうやら正解のようだ
「それで…負担ってなんですか」
「君、突然だけどこれ読めるよね?」
レミィは寝ているマインの前までくると、メモのようなものを渡してきた
内容は、先ほどマヴォヴがしたことの説明
そして最後はこの説明が読めてるなら成功と書かれていた
つまりマインはこの世界の文字が読めるようになったのだ
「そゆことだから、理解できたかな?」
レミィは待ちきれないといった感じの様子だ
何かを期待しているその姿にマインは心当たりがある
「レミィさんの部屋…見せて貰えますか」
この言葉選びも正解だったようで、レミィは笑顔を浮かべ
「そうこなくっちゃ!」
とだけ言うとベッドから降りたマインを先導し始めた
暫くするとある部屋の前に着いた
「これ…オイルの匂いですか?」
「その通り!燃料は罠の稼働に必須だからね」
扉を開け中に入ると鉄の匂いが鼻を突く。そこはシトゥージの部屋とは大きく違ったものだった
広さはシトゥージと同じで小さい体育館並ではあるがとにかく赤く、暑い。そしてどうやら2階建てのようにできているようで、制御室のようなものが見える
「さて、じゃあ私の部屋の説明始めるよ!」
そういうとレミィは入り口の隣にある小さな囲いに入ってマインを手招きした。
マインがその囲いに入ると同時に床が上昇し始める。
上りきると目の前に制御室の入り口があった
「とりあえずここが制御室で、勇者が入ってきたら私はここから勝負することになるの。私の部屋は自律型、基本的にはエラーが出ないようここで制御しながら成り行きを見守ることが多いかな」
そしてそのまま無数にあるボタンの一つ一つを説明し始める
「これを押せばターレット、つまりは銃が出てきて勝手に勇者を狙って勝手に撃つわけさ」
「これは自動修復装置、破壊された兵器の番号を打ち込めばその兵器が自動で修理を始めるて再起動するんだよ」
「こっちは遠隔式ブーメランポッド、勇者が射程に入ると回転するカッターを起動し、射出するわ。基本的には動きを止めるため脚から狙う用にプログラミングされてるけど勇者の状態を自律的に確認して急所を狙う用できてる」
「んでこれが勇者捕獲装置、弱ってる勇者を捕獲する文字通りの装置だね。弱ってるかどうかは自律的に判断してくれるからサインが出たらこちらから最終承認ボタンを押すだけ。電気ショックなりの15種類くらいの方法で勇者の捕獲を試みるよ」
その後もレミィは大量にあるボタンの説明を一つ一つしていた
どうやらよっぽど自分の自慢の部屋を見てもらえるのが嬉しかったようだ
制御室にはマヴォヴも入れたことがないらしく、「ここに入れた男は君が初めて!」という必要なのかわからない情報も手に入れた
その全て…を覚えることは無理だったが、大方を頭に叩き込み、要点を纏める
驚くべきことにマインの頭の中には既に改善すべき点はある程度見えていた
しかし、まだ吟味する必要があるため
レミィと雑談を交わした後、何事も無いように部屋を去ることにした
後ろを振り返ると扉から半身を出したレミィが笑顔で手を振っていた
少年は
「ここに来ることは多くなりそうだなぁ」
心の安定のためにね…とだけ呟き、笑顔を浮かべた後元来た道を戻り始めた