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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
とうとう二月 雪から雨に
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 《二月十三日 夕方》


 運命の決戦までは、あと一日……ううん、もう何十時間になったんや。

 朝からたくさんの事で、女将さんとやりとりしとったって。

 まず、三種類の羊羹のチェック、ここまで来たらチェックと言うよりも、どうやってよく見せるかになったんや。

 味は全てええ。

 これは高塚屋さんに、全てお任せやった。

 さくらい はオカンがアウトやから、どうしようもないから任せてもた。

 「構わんざ、さくらい との仲やし」

 女将さんが、こころよく受け入れてくれたって。

 ここで三つの羊羹の味見になったんや。

 

 まずは、バナナ羊羹や。

 見た目は白色で、正直いきなりの虚を突いた一品やざ。

 バナナのフルーティーな甘さに、豆の甘さが交わってるんやけど、意外に甘さ控えめになっているんや。

 バナナの黒ずみが深くならない、それでいて青臭くない時期を高塚屋さんのスタッフが探して、洗練したもんで高塚屋の技を見せられたんや。

 「これくらいで、ええやろ。発信源の早苗さん」

 女将さんが笑てる。

 「ありがとうございます」

 私は頭を下げたざ。


 次はヨモギ羊羹やざ。

 ヨモギ羊羹も、高塚屋さんに大量に作ってもらったんやって。

 これもオカンが……ちゃう、私がまだ半人前やからやざ

 半人前やから数の用意が出来んかった。

 「早苗さん、心配いらんざ。このヨモギ羊羹のこさえ方は、高塚屋は使わないで!」

 ありがとうございますやざ。

 さて少し食べよう……やっぱ、ヨモギやから少し勇気いるんやわ。

 ……うん、ヨモギの匂いが、ええ具合に広がってきたざ

 この広がりは、嫌みっぽくない。

 小豆の甘さに、よく合っとるんやって。

 「これ、私は一番好きなんや。ヨモギの味を損なわない本当に、上品な甘さやざ」

 上品な甘さかあ。

 そう言ってもらったら、私も嬉しいざ。

 

 最後に三つ目の、私らの昔、今、未来を託すこの羊羹や。

 見た目で言えば、普通なんや。

 けど、これには北倉さんや、沢田さんのように、時代に流されることが出来なくなった店の想いと、厳しい時代に流されて生きていく私らのメッセージのこもった羊羹なんや。

 その人らの想いを受けて、未来に託す羊羹はこの大甘羊羹なんやって。

 「うん、これは凄い甘いわ! でも嫌みがない。黒砂糖のアクの強さを水飴が抑えて、水飴の甘さにグラニュー糖が乗っかってるみたいやざ」

 女将さんがはしゃぐ、はしゃぐ、まるでグルメリポーターみたいやって。

 「早苗さん、あんたも食べね」

 女将さんが言うた。

 女将さんが言わんでも、私はしっかり食べますざ。

 さて、私の未来の味は!


 …………あれ?


 なんや? 味が……ない

 「早苗さん、どうしたん?」

 女将さんが、私を見て不思議がるざ。

 「なんでもないです」

 そう言って、もう一口……あっまーい!

 凄い甘いわ!

 これはある意味、常識離れやざ。

 福井の甘さの薄い羊羹からは、想像つかんざ。

 けどその時代その時代に、甘さは交代するんやの。

 福井の甘さの薄い羊羹は、どんどん甘くなってるんや。

 だからこれくらいの甘さなら、受け入れてくれるはずやざ。

 うん、信じる。

 もう一口、やっぱりあまーい!

 

 よし! これで勝負や!


 ピロ

 ピロ


 ん?

 電話やスマホが鳴いとるざ。

 幸隆やざ。

 なんやって。

 「早苗さん、誰からや」

 「えー……」

 「今日はここまでや、早よ帰んね」

 女将さんが言うた。

 「え!」

 「誰からかはわからんけど、顔出してきね」

 女将さんが優しく言うた。

 ……うん

 ここは女将さんに、甘えよう。

 少し緊張してきたみたいや、肩が凝ったざ。

 私にしては、珍しいんやって。

 さて、幸隆に会いに行ってくるざ。

 


 

 

 

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