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《夜 沙織の部屋》
私はおにぎりと、お味噌汁、お茶を持って沙織の部屋を目指してる。
小さい家に目指すなんて大袈裟やけどな。
何年か前までは、姉妹三人のオモチャ箱みたいな感じでいた部屋でな本当に狭いんやって。
楽しかったけどな。
「沙織、ご飯やざ」
「あっ、早苗姉ちゃん」
沙織が椅子の下に何か隠したって。
「沙織、何しとったんや? 勉強ちゃうなぁ」
ご飯置きながら、沙織を睨んだんや。
「少し休憩やって、スマホでテレビ見とっただけやざ」
そう言って、スマホを見せたざ。
画面を点けたら、何やろニュースになっとるわ。
「私、ニュース好きやでなあ」
沙織がほざくわ。
はいはい……
絶対に違うの見とったはずやざ。
まあええわ。
スマホのニュースが何か言うてる
「今年は新型のインフルエンザが流行しています。毒性は弱いものの発症すると激しい体に痛みが走り、高熱に襲われ、十日間は安静が必要となります」
インフルエンザかあ
私はスマホを見とるざ。
沙織もいっしょに見とる。
「この新型の特徴は、首筋に不快な違和感に襲われ初期の頃はあまり自覚がありませんが、数時間後に高熱にうなされて倒れてしまう患者が急増しています」
首筋の違和感?
確かオカンは……
まさか!
私は沙織の部屋を出ると、オカンとオトンの部屋に行ったんや。
二人の部屋は一階にあるんやけど……
私は二人の部屋の襖を、開けたって。
そしたらオトンが、オカンを揺さぶってる。
オカンはウーウーうなり声を上げて、辛そうにしとるんや。
「早苗! いきなり祥子が!」
「オトン、マスク持って来てや。これ新型インフルエンザや」
私は声を張り上げたんや。
オトンはビックリして、台所に置いてあるマスクの箱から、自分のと私のを持って来たんや。
私はマスクすると、駆けつけて来たじいちゃん、ばあちゃん、そして勉強ほったらかしとる、沙織にマスクを付けと言うたんや。
オトンが熱を見とる。
体温計のアラームがなると、まずオトンが見る。
オトンが驚いた顔で、体温計を見せたんやけど……
とんでもない、熱や!
私は青ざめたんや。
「オトン、救急車や!」
私は叫んだざ。
《総合病院 待合室》
私は救急車で、総合病院に来たんや。
ここは隔離病棟がある病院で、孝典さんが居た病院並みに福井では大きなとこなんや。
私が症状を話したとたんに、ここに決まった感じでどうやら新型インフルエンザで間違いないみたいなんやっての。
「しばらくは、隔離病棟に預かりになるんやけど……」
私はばあちゃんに、電話しとる。
握りしめるスマホから、大きな声を出しとるんや。
「そや、どうなるんやろ」
私は羊羹対決のことを心配しとった。
オカンは病院に任せてしまえるからや、少し余裕が出たんやの。
「あっ、一度切るざ」
私はスマホを切ったんや。
高塚の女将さんが、病院に来てくれたからなんや。
普段着の姿やけど、化粧はしとらんかった。
急いで駆けつけたことが、見てもわかるざ。
「お母さんどうや?」
「オカン、新型インフルエンザです。十日間はダメです」
私は即答したんや。
「えー! ほな、お母さんはテレビに映らんのかあ?」
女将さんが言うたわ。
まあ無理やな。
「オカンはあきません、女将さん頑張って……」
「何言うとるんやって、ここは共同なんやざ! お母さんアカンなら、早苗さん! あんたが出なあかんやろ!」
……へ?
「私と早苗さん、二人で出るんやって!」
うっ、嘘やあ!
「オカンに相談……できる状態やないな」
「そやざ! 決断やざ」
女将さんが言うたわ。
嘘やあ! 嘘やあ!
私、テレビに映りとうないざあ。
「とにかく、お母さんに会えるなら会ってくるざ。早苗さん、頑張ろうな!」
なんでぇ!
なんで、なし崩し的にこうなるんやあ!
ちょっと、誰かぁ、助けてぇー!




