94
《翌日 さくらい 店番》
外は見事な霙やの。
寒さが少し緩んだ証拠やざ。
羊羹対決までは一週間あまりに、なったざ。
何やろ?
緊張感がないんやって。
まあ私はもう役目おわりやでや。
オカンは今、高塚屋におるし。
それに昨日言うてたし……
「テレビには、私と高塚屋女将が出る」
そう言ったんや。
正直助かるって。
ところで、今日はいつもより暇やざ。
近くにある椅子に、腰を落として楽にしとるんやっての。
ようは座っているんや。
少し眠いなあ……
ん?
店の駐車場に、クルマが停まったみたいやの。
エンジン音が、してるざ。
ん? 家から足跡がする
「来たんやな」
じいちゃんが、いきなり顔を出したって。
どういうことや?
店に向かって、一人のじいちゃんが歩いてる。
ん?
あっ、あれは!
「よう、喜一兄ちゃん」
「いらっしゃい、幸一郎……いや、副議長さん」
じいちゃんが、言うたざ。
やっぱりや。
じいちゃんの従兄弟で、市議会の副議長で、大名閣の回し者が来た。
「いっ、いらっしゃいませ」
少し引きつりながら、私は挨拶をしたんや。
副議長は年老いた顔やけど、艶があって髪は真っ白で少し厳ついんや。
背丈はさほど高くないけど、肩幅は年齢を感じさせんのやって。
あん時の副議長、そのまんまや。
「……」
副議長が無言で、近寄って私を見とるざ。
それもすごい近い……
上から下まで、品定めしとるみたいや。
「……」
「あっ、あのう」
「喜一兄ちゃん、やっぱ美人やなあ」
……へ?
副議長が少し距離をとりながら、笑たんやって。
あっ、じいちゃんの顔にそっくりやざ。
「幸一郎、早苗がひいとる」
じいちゃんが、ここで助け舟を出してくれたわ。
「わっはは、すまんの」
豪快に笑てる。
ところで、お客さんなんやろか?
それしては少し変やの。
「幸一郎、家に入れや。それに店やなくて、玄関からやぞ」
じいちゃんが言うた。
「わかった、わかった」
そう言いながら、店中から家に入って行くざ。
なんなんやって!
「がさつなんは、今もいっしょやな」
《茶の間 副議長》
私とじいちゃん、そして副議長が卓袱台に座っとる。
ばあちゃんはスマホ片手に、店番にいったんやって。
スマホは止めな……無理やの
「香奈ちゃん、相変わらずやの」
「まあ、そうや」
副議長が、じいちゃんが、変な笑いやざ。
なんか少し意味合いが違うけどや。
副議長はスケベで、じいちゃんは愛想笑い。
そんな感じやざ。
「あの、なんですか? じいちゃんに用事やないんですか?」
私は率直に聞いたわ。
「あ、そうや、少しアンタと話したかったから、来たんや。そうやろ大名閣を手玉にしとる兄ちゃんの美人となれば、男として見たいやろ」
副議長が言うた。
けど理由になっとらんざ。
ただの冷やかしやろ。
「もちろん、土産も付けてや……欲しいやろ大名閣の情報を」
副議長の顔が変わった。
それ以上に、私の顔が変わったんや。
「リークですか?」
「いや、ちゃうざ。実は彼奴等が、情報を欲しがってる。もっと言えば貴史坊主や」
へっ?
ううん、少しわかるざ。
私もやはり気になるわ。
「リークは出来んが、情報を交換は出来るやろ? 大名閣の手の内を欲しいやろ」
確かにやな。
けどここに、オカンと女将さんはおらんざ。
「一つ言ったる、今回の話は大名閣は知らん。貴史坊主個人の頼みなんや、あいつのオヤジが入ったら拗れるからの」
なるほど……
つまりある意味、条件はいっしょなんやな。
「早苗、どうするんや?」
「副議長さん、口で固いかあ?」
私は聞いた。
「ああ、固い。絶対に、オヤジには言わん。ただ貴史坊主から漏れる可能性はあるんや」
確かにやな。
けど、私がオカンに喋ればいっしょやの。
「わかりました、話せる範囲でお願いしますざ」
副議長が深く頷いたって。
じいちゃんは、傍観者しとる。
見とるだけ……そんは風にや
さてと……聞いてみたれ!




