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《高校 放課後 沙織 連》
「沙織、どうや羊羹」
「連クン、大丈夫やざ」
「ふーん、どうするんや」
「決まっとるって、友達連れて押しかけるざ」
「確かに一つの方法やけど」
「なんやの、あかんかぁ」
「沙織の豪腕なら、やれるやろけどほどほどやでな」
「ほどほど? 大名閣がエキストラ使うたら大変やざ! お姉ちゃんが松浦さん、動かさんやろ!」
「普通はうごかせんざ」
「お父さんにお願いしたんか」
「沙織の提案したけど…… 早から尻に引かれたか…… 笑てたんや」
「失礼やの! 私は尽くすざ! お布団好きやし」
「羊羹の話は?」
「反らしたんは、連クンやーん」
「違うけど…… 幸隆さんは幸隆さんなりに動いとるやろな」
「それはあるざ」
「ん? 言い切ったやん」
「イチゴ大福買いに来たんやけど、この前の話や。どうやら動いとるみたいなんやって」
「ふーん」
「なんか軽いなあ」
「そうか? とにかく、帰ろうやって。少し寄り道するけど」
「連れ込まんといてや」
「目が光っとるのは何でや?」
「じゃあ!」
「はいはい、帰ろう」
「あっ、待って連クン」
《夕方 松浦商事 幸隆 礼二》
「幸隆君、どうや仕事」
「順調ですわ」
「そうか、女の力やな」
「早苗の……やな」
「ハハハハハ…… 羊羹対決するんやったな」
「そう聞いてますざ。さくらい は高塚屋のフォローらしいですけど」
「早苗さんは、矢面に立たされるやろな」
「早苗の生まれ持った宿命が、発動したら」
「変わった言い回しやなあ、わかるけれども! 高塚屋もかなり大きい菓子店やけど、大名閣からみたら小さいでなあ」
「だからと言って、さくらい と早苗だけでは荷が重いですざ」
「そうやな」
「大名閣が変な動きせんか、こちらからも監視しますざ」
「……ある意味、大名閣は大変な敵と戦ってるなあ。早苗さんを見くびっとるの」
「はい、礼二さんも知っとると思いますが、早苗の魅力は顔とスタイルだけじゃあありませんから」
「目尻が下がっとる! やれやれ」
《おやつ 茶の間 早苗 オカン》
私はオカンと、おやつ食べとる。
今日は……ヨモギ羊羹や
オカンはヨモギ嫌いやけど、これは食えると食べてもたざ。
私はゆっくり、ゆっくり、食べている。
甘い中に、ヨモギの刺激があ……
「なあ、早苗、高塚屋がテレビ局入ったらしいざ」
オカンが言うた。
「え? 早いなあ」
「アホ、反対側のや」
オカンから、アホ言われたって。
福井って、民放二つしかないんやざ。
だから反対と言うと、私らはすぐにわかるんやざ。
福井の家は、ほどほどケーブルテレビを引いとるんや。
理由は石川県の民放も見れるからやざ。
まあ、ずるいかも。
あっ、話がそれたざ
「で、高塚屋さんどうやった」
「淡々としとったなあ。反対側民放やから、羊羹対決には触れんかったしな」
私はお茶を啜る。
暑くて苦いお茶やなあ。
「三国屋のお茶、切れたらしいざ。お母さんが買いに行ったわ。お父さん連れて」
オカンが言うた。
なるほどだから、ばあちゃん、じいちゃん、居らんのや。
「早苗、もう十日ないざ」
「わかってるざ」
少し緊張してきたっての。
テレビ放送やもん。
「明日、高塚屋に私行くざ。そこで打ち合わせらしいから」
「うん、がんばってや」
私は言うた。
オカンは頷いて、笑たわ。
「すみません」
あっ、店からお客さんの声や。
さっ、仕事仕事!
またまた、今日もがんばるざ。




