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《翌日 運転中 》
今、私は北倉のおばちゃんの店に、クルマを走らせてる。
オカンを連れてやって。
「北倉さん、店辞めるんやろ?」
オカンが言うたざ。
「そや、そのおばちゃんが閉める前に、挨拶したいんやって」
「挨拶ならこの前、来たざ」
「オカン、若いころよう焼きうどん食べたんやろ? おばちゃん店辞める前に、常連やったオカンにご馳走したいんやって」
私は言うたわ。
出所は、ばあちゃんなんや。
ばあちゃんが、なんか企んどる。
それに北倉のおばちゃんが、乗っかっとるんやろうな。
ひょっとしたら昨日のあの時、二人は結託したんやろか?
……とにかく、今はおばちゃんを目指そう
北倉のおばちゃんが店を構える場所は、大きな幹線道路がある場所やった。
人通りはなかなかある場所で、近くに大きな市民会館がある。
その市民会館の裏側に、ひっそりした町があり住宅地になっとるんや。
住宅地の市民会館の一番近い場所に、「北倉屋」と看板のある菓子屋があった。
古臭い建物で、すこし住宅地からは浮いてはいた店やざ。
「変わらんなあ」
「ん?」
「ここな、私が小さい時は、こんな家が密集しとらんかったんや。いつしか住宅地みたいになっとるけど、北倉屋さんはその頃からの雰囲気そのまんまやざ」
オカンが懐かしむように、言うたんや。
私が聞いた話やけど、ここは便利になるやろうからって不動産屋がたくさん土地を、購入したらしいんや。
それまでは空き地が多かったんやて。
その空き地で、みんなが遊んどった。
オカンもその一人やろか?
「北倉屋さんに行くよ」
私がオカンに言うた。
オカンは頷いたざ。
《北倉屋駄菓子店前》
クルマを北倉屋さんに停めると、北倉のおばちゃんが出てきたざ。
「北倉のおばちゃん、久々やって」
オカンがニコニコしながら、クルマを降りたんや。
私もクルマから降りて、おばちゃんに頭を下げる。
すると私の来た道の反対側から、ワゴンタイプのクルマが北倉菓子店に横付けしたって。
大きいクルマやなあ。
誰や?
私は運転席を見た。
……あっ!!!
亮さん! ん、隣に誰か居るって。
……え?
……えぇ!!!
お、女将さんや。
「なんでアホが」
オカンが言うたざ。
「ワテが呼んだんやぁ」
おばちゃんが、ケラケラ笑てるわ。
私とオカンが、おばちゃんを見た。
亮さんのクルマ、中でもなんか揉めとる。
おそらく女将さんが、クルマを動かせ言うとるんやろな。
「あらあら、全く! 祥子ちゃん待っててや、逃げるほど弱くはないやろ」
おばちゃんが挑発的に言うたざ。
オカンが、ムッとしとる。
「ええ子やな……さてと」
おばちゃんがゆっくりと、亮さんのクルマに近づく。
歳が歳やで仕方ないけど、足取りはしっかりしてるって。
クルマの女将さんに近い場所から、おばちゃんが何か言うとる。
フロントの窓ガラスが開いとる……ううん、亮さんが開けたんやろな。
運転席から強制的にや。
おばちゃんと女将さんが、少し話しとる。
話しとったんやけど……女将さんがクルマから降りて来たんや
おばちゃんはニコニコしとる。
おばちゃんが女将さんを連れて来ると、私に話かけたざ。
「はい、早苗ちゃん、さいなら!」
……へ?
「早苗ちゃん、お迎の電話あるまで、さいなら」
えー!
「亮ちゃんも、快くさいならするで」
「おばちゃん」
女将さんがなんか言いかけて……止めたざ
オカンもどこか、しどろもどろしとる。
なんやろ?
私はおらんのがええんか?
……うん、ここは
「おばちゃん、お願いしますざ」
「はいはい」
おばちゃんは相変わらず、ニコニコやって。
「さて、お二人さん! 中へや。ここが息子らに壊される前に、密やかな三人だけのパーティーやでの」
「……」
「……」
おばちゃんの言葉に、オカンと女将さんは少し顔をしかめとるざ。
けど……ここは任してみっざ
おばちゃんが店中に、二人を入れたわ。
もしかしたら……
《店外 私 亮さん》
「亮さんお疲れ様やの」
「いえ、北倉さんから電話で、『お別れの挨拶したいんやけど体が悪いから、連れてきてや』言われたんです」
「……亮さん、知っとるやろ。高塚屋と さくらい が揉めとるのをな。もしかしたら、おばちゃんは……」
「そうやろな」
「はい、亮さん、ここはおばちゃんに任せようの」
「……そうやね、俺はいったん、店に戻りますわ」
「じゃあ、私もや。おばちゃん、まかいたざ」




