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《翌日 午前中 配達》
久しぶりの、配達をしとるんや。
昨日は泣いてもた。
北倉さんと、沢田さんとは、仲良くやっとったから。
どこか寂しいって。
仕方ない……この言葉が、悔しいざ
雪は少しおさまったわ。
道も除雪されとって、走りやすいざ。
……ところで、やって
羊羹、どうしよう?
過去、未来……ちょっと大袈裟やなあ
けど、私はあることを思っているんや。
その思いは、私のテーマでもあるんやっての。
テーマ……それは
甘さの追求
なんやっての。
これもある意味大袈裟やなあ。
とは言え、一つは決まってる。
ヨモギ羊羹やざ。
あれは代用出来る。
甘さの追求はヨモギが昔から使われていることを踏まえての歴史、そして羊羹にしたことへの、発想力を見てもらえるでや。
これは使えるや!
……けど
けどあれは凄い色しとるんや。
ヨモギの濃い緑色に、小豆の黒が混じったからや。
つまり見かけが、少しキツイかもや。
三種類の羊羹……私は、これを色でわかるようにしたいんやっての
色は二つ決まっとるんや。
一つは黒やざ。
コレは私らが普段食べている、羊羹や。
もっと言ったら、水羊羹な。
ついでに私が羊羹言うてるんも、本来は水羊羹のことやで。
福井では、羊羹は水羊羹を指すんやで。
すべてではないけど、間違いでもないざ。
ごめんの、少し話がそれたの。
話を戻すざ。
今、二種類の色は決まった。
一つは黒、ここまでは言うたな。
二つ目は、ヨモギ羊羹色って言うか……まあ深緑や
この二つの色は……重たいんや
つまり「軽さ」が欲しいってことなんやけど……
そうすると色は二つに絞られるんやな。
一つは透明、もう一つは白やざ。
けどここは、白を選択やな。
理由は透明は、涼しげな清涼感がある。
そして見栄えもええ。
中に栗やら、小豆の粒を入れても、様になるんや。様になるんやけど……
こっちは使えんのや。
季節が悪いざ。
今は冬や。
冬に透明な羊羹は清涼感よりも、「寒さ」が強調されてまうんやって。
だから……使えないんや
そうなると、後は「白」になるんやけど……
色自体は難しくないんや。
小豆の代わりに、白いんげん豆を使えばええからやざ。
よう白い羊羹があるやろ、あれは小豆を白いんげん豆に代えとるんや。
ヨモギ羊羹を閃いた時、一瞬はこっちを想像したんや。
けどやはり、羊羹は小豆やわ。
だから小豆と合わせたんやけど、今回は白いんげん豆を使う。
色合わせには、仕方ない選択やざ。
だけど……や
ただ白い羊羹では、印象が薄いんやなあ。
ここになんかを入れたいんやって。
なんか……って、なんや?
答え、これが甘さの追求や。
甘さの追求……つまり、砂糖の代用になる何かを使いたいんやざ
砂糖と甘いモノは、切っても切り離せんのは、わかると思うけどここを私は切り離したいんやなあ。
切り離す代わりに、代用品は?
砂糖の代用品……かあ
サツマイモ……いや、これは使えんわ
サツマイモと水羊羹は相性が悪そうや。
普通の羊羹なら、わからなくない。
けど水羊羹は、合わないはずや。
……じゃあ、何やろ?
砂糖の代用品になるモンは……
あれ? いろんなこと考えてたら……道間違うたって
もう!
配達終わって帰る所やで、まあええけど。
どうやら裏道に入ったみたいで、凄い細い道やざ。
季節がらクルマ二代は、厳しい場所やっての。
あーあ……待てよ
この道の近くに、沢田さんのお菓子屋があったはずや。
もっと言ったら、お餅屋があるはずやざ。
なんやろ、私、無性に沢田さんの所へ行きたくなったわ。
確かまだ餅屋はやっとるハズや。
少し顔出して見たろかな。
とは言え……用はないざ
ただの冷やかしになるんや。
……行ってみよ
あの店は流行っとるかも知れんけど、お邪魔してみよう。
沢田のおじいちゃん、どうしてるやろ。
少し冷やかしてくるざ。




