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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
一月 雪は降る
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 《近くのスーパー 午前中》


 私はスーパーに来とるんや。

 今回は買い物やざ。

 夕食の用意やって、男出来たんやで花嫁修業の一つらしいざ。

 幸隆が男かあ。

 ……は!

 そや買い物、買い物やざ。

 「あら、久しぶりのう」

 ん?

 あっ!

 「北倉のおばちゃん」

 私は笑たわ。

 久しぶりの、おばちゃんに!

 え? 

 覚えとらんのか?

 西地区の、北倉のおばちゃんや

 つまりお菓子フェアーん時の、あのおばちゃんやざ。

 「聞いたざ、大名閣から目つけられたんやろ」

 おばちゃんが、吐き捨てるように言うたわ。

 「はい、でも、売られたケンカはやりますざ、相手が大名閣でも! 私らもプライドがありますざ」

 私は言うたって。

 「頑張ってや。そや、挨拶しとくわ」

 「挨拶?」

 北倉のおばちゃんが、姿勢を真っ直ぐにしたわ。

 少し曲がり気味やった腰が、伸びとるわ。

 「北倉菓子屋、春先に店終いにします。今まで、ありがとうございます」

 ……え?

 「北倉菓子屋な、息子はようやっとった。けどな、限界を言われたんや」

 「どうすんや?」

 「息子がな、なんかカフェをする。和菓子を食べれる菓子のカフェを出すんやって」

 北倉のおばちゃんが、複雑な顔しとるざ。

 北倉菓子屋は、人前昔は駄菓子屋で名を馳せとった。

 ほとんどが子供らで、小さな店の奥には鉄板のあるテーブルがあって、そこで焼きうどんを小遣いくらいのお金で、お腹いっぱい食べさせてくれたんや。

 駄菓子言うても、手作りやった。

 どら焼き、餡巻き、それに市販の菓子があったんや。

 歴史で言うたら、さくらい よりも古いざ。

 「御時世や」

 北倉のおばちゃんが、俯いた。

 ……また、一件減った

 「そうなんか」

 涙混じりの声が、悔しいざ。

 「ごめんやざ」

 おばちゃんのすがすがしい声に、泣きながら私は首を横に振った。

 アカンざ。

 気持ちが高ぶっとる。

 「また、桜井さんに挨拶いくでの」

 おばちゃんが背を向けて、歩いていくざ。

 私は声をかけられず……

 情けなかったんや。

 うん……


 《帰宅 玄関先は……》


 涙を抑えて、家に来たわ。

 泣かれた顔を見られたくないんや。

 雪が残る道を、トボトボ歩いていくと……

 家の玄関か開いとるざ。

 ん?

 私は玄関を覗き込む。

 オカンとばあちゃんと、小さな背中のじいちゃんがいるわ。

 「沢田さん、お疲れ様やったの」

 オカンが言うたわ。

 お疲れ様……まさか!

 「沢田のじいちゃん……」

 私は後ろから、声をかけたんや。

 じいちゃんが、振り向くと愛嬌ある顔がどこか晴れ晴れしとるんや。

 「早苗ちゃん、沢田菓子、店閉めますわ。今までありがとうございました」

 ……やっぱりやった

 沢田のじいちゃんは、餅屋やった。

 餅屋言うても、大福一筋で、塩大福、豆大福、大福だけで生活して来た人や。

 大福……沢田菓子

 それくらい、すごい店やった。

 ここも、さくらい よりは小さい店やけど、売上で言うたら高塚屋にも負けないくらいや。

 まさか……

 「早苗ちゃん、ウラには家族がおらん」

 「ウソや、息子さんと娘……」

 「県外にいたら、おらんのと同じや」

 じいちゃん、笑とる。 

 なんで?

 なんで……そんな笑えるんや

 「北倉のおばちゃんと言い、じいちゃんまで!」

 私は玄関を上がると、買い物を置いて部屋に戻ったわ。

 羊羹のことは、今はそっちのけや。

 気持ちの整理がついたら、考えるでの。

 今は……

 今はそっとしておいてや。



 「沢田さん、ごめんなさいね。なんや早苗は!」

 「祥子ちゃん、そして香奈ちゃん、早苗ちゃんを悪く思わんといてや」

 「けど」

 「おそらくやけど、北倉の婆さんにスーパーで合ったんやざ。あこも閉めるそうやで」

 「え!」

 「祥子ちゃんは、あこの焼きうどん好きやったなあ」

 「ワテもや、沢田さん」

 「そうなんか、意外やな。我がマドンナ香奈ちゃんが!」

 「ボケたか?沢田のじいさん」

 「相変わらずやなあ。ところで、羊羹どうなんや」

 「早苗は、甘さの追求と、歴史をやりたいなんてたいそうなこと言っとったざ……とはいっても、手詰まり感はあるな」

 「ええ、ええ、若いんやでな、勉強は財産やで……とは言っても」

 「はい?」

 「何でもないって、気にせんといてな、祥子ちゃん、それでは我がマドンナ香奈ちゃん、さいならや」

 「はいはい」

 「……」

 

 

 


 

 

 

 

 

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