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《図書館 午後》
福井市の町外れ、田んぼの真ん中に「福井県立図書館」があるんや。
本当に田んぼの真ん中で、ポツンとあるんやって。
かなり大きな図書館でな、食事できる所はあるし、自販機もたくさんあるんやわ。
利用者はかなりいるわ。
オトンから聞いた話やけど、福井の図書館利用率は全国でも上位らしいわ。
なんか自慢ならんけど。
図書館の書籍ブースの前に、何台かのパソコンがある。
それから、私は「福井 歴史」で検索をしたんは、今から数分前のことや。
《テーブル 読書中》
私はいまテーブルにいるわ。
イスに座って、ブースから取ってきた本読んどるんや。
その名も、「福井の歩み、五十年」やざ。
写真と文章がある資料書籍や。
眠れない時の、お供にと通販で言われそうな、本でな。
……眠いざ
昨日たっぷり寝たのに、眠いざ。
魔法がかかっとるんか? この本!
「全く、眠い」
私はつぶやき……
《十分後》
「……さ……え……ん」
ん?
なん、や?
「さな……ん」
はい?
「さなえさん」
……へ!
「早苗さん」
え? 連クン!
宮本さんの、一人息子さんや。
「ダメやざ」
へ?
……あれ?
周りにいる人らが、変な顔しとるざ。
はい?
……まさか!
「疲れてるやね、鼻息混じりに寝てたですよ」
……アハハハ
やっぱり……
暖房効き過ぎとは違う汗が、噴き出とるざ。
やってもた!
第十一話 羊羹対決 中編その二……その三はないざ
《図書館 食堂》
私と連クンは、そこでお茶しとる。
連クンは宮本さんの一人息子で、雰囲気が親譲りなクマのぬいぐるみに似とる可愛い大きな子やざ。
なんかうざったい、説明やな。
まあええ子やざ。
「沙織は、おらんのか」
「まいてきました」
連クンが言うたわ。
……ごめんの
変な妹やで。
連クンがコーヒーを飲んどるわ。
なんか食べんか? と、聞いたら……
「早苗さんの財布に優しいようにですざ」
やて……
「ところで、なんか難しい本読んでんやの」
連クンが言うた。
この子は、連クンでええやろ。
私のストライクゾーンを、掠っとるから……
お父さんは、下手したらストライクゾーン来るんやざ。
一応、探られるのイヤやし言っとくでの。
幸隆が魅力ないから……
付き合い出してから、魅力なくなるなんて……
「あの、早苗さん? 聞いてました」
「へ、あっ! き、聞いてるざ」
私は慌てて言うたわ。
愚痴はやめやめ。
「実はな、羊羹対決のためや」
私は連クンに言うたわ。
連クンが少し目の色変えたざ。
細い目から、キラキラと瞳が輝いとるって。
「早苗さんは、糸目ですざ」
「へ?」
「何でもないです」
聞こえたんか?
「とにかくや、大名閣がコラボするやろから、私は歴史と未来を想像したんや」
「創造ですか?」
「そんな大袈裟ちゃうざ」
これが私の答やざ。
福井の水羊羹の昔を知り、今を見て、未来に託す……
「ごめん、少し大袈裟やわ」
私は連クンに笑たざ。
「想像で創造ですか」
意外に連クンの食いつきがええわ。
「早苗さん、沙織はええ子ですざ。アナタのために、沙織なりに動いてます」
連クンが、言うた。
この子、沙織って、言うた。
何やろ、この感触は……
「早苗さん、沙織を俺に任せて下さい」
連クン……
「わかったざ、期待してます」
ピー
ピー
ん?
スマホが鳴いとるわ。
誰やって
……ん?
オカンやわ。
「もしもし、なんや……わかったざ。明日、高塚屋に行くんやな……はい、切るざ」
「そろそろ、俺も帰りますざ」
「私もや、クルマ乗るか? 店のやけど」
「……はい、外、結構降ってましたし」
少しの間、連クンとデートや。
沙織、ごめんやざ。
連クン、沙織はええ子やでの。




