78
《午後 松浦商事 ロビー》
ここの会社のロビーは、広いわあ。
なんか一階の半分くらいは、ロビーみたいやわ。
上に小さく、横にだだっ広い会社には、余計なくらい大きなロビーやざ。
正直、寂しいざ。
肘宛のないソファーが、たくさんあってその端っこあたりに私は座って待ち人を待っとるんや。
待ち人は幸隆ちゃうざ。
ここで待っとる人は……
「おや、早苗さんやないけ」
……礼二さんやわ。
因みにこの人でもないざ。
「和田さんやろ、待ち人」
礼二さん言うたわ。
……あれ? 私、いつの間に、礼二さん言うてるんや?
ちょっと失礼やな。
ここは……
「宮本さん、こんちは、そうや」
これでよし!
このオッサン、面白い魅力の持ち主やから、染まらんようにせんと。
ん?
どうして、和田さんが待ち人知ってんやろ?
宮本さん、無言であちらを見とる。
宮本さんが見るあちらの方向に、二台エレベーターがあるんや。
一台のエレベーターのドアが開くと、幸隆と和田さんがいたんや。
「あの二人の話に、私も参加しとったんや。和田さんから、早苗さんのこと切り出して、ここで会うこと知って飛び入り参加やさ」
宮本さんが言うた。
なるほど。
「おーい!」
幸隆のアホ声や。
全く仕事中やぞ。
「早苗さん、目尻下がっとるざ」
宮本さんが笑てる。
……そうなん
「来ましたか、すみませんね」
和田さんが恐縮しとるざ。
なんか、ええ男やなあ。
宮本さんもなかなかやし……
幸隆が一番、負けとるわ。
「なんや? 変な目して!」
幸隆が言うたわ。
「もっと、磨けや」
「は?」
変な目しとるわ。
「仲のよろしい、さてと、昨日のことですが」
和田さんの言葉に、私は身が締まる。
さてアドバイスや。
「早苗さん、私の意見も参考にしてやざ」
え?
宮本さん!
「桜井さん、昨日の話を宮本さんにしましたら、どこか乗り気でしてね」
「俺もや」
……一人はいらんわ
全く仕事せいや。
ため息まじりに、窓から見える外を見たわ。
見事なまでの、鉛色や。
福井の冬の空やって。
「雷、なりますさ」
宮本さんか言うたわ。
宮本さんも、窓を見とる。
冬の空、そして雷……
「スッキリしないですね」
和田さんが言うたわ。
「それでは、和田さん、教えて下さい」
私は言うたざ。
「わかりました、私は福井の冬に食べる水羊羹は、驚きました。何故なら水羊羹は夏の……」
《三十分後》
空は雪になっとる。
パラパラやけどな。
そして雷が、鳴ってるざ。
冬の雷やわ。
和田さんの内容は、ある程度理解出来た。
まず味が薄いことは、わかった。
これはズーッと言っとったしな。
そして福井の生活水準の高さを、言っとった。
へ? 私はビックリしたけど、他県から特に都会から来た人には、一番の意外やったらしいわ。
国が訳わからん、幸福指数なんてやつ出したけど、和田さんはわかる気がしたって。
そして福井の閉鎖性もや、新しいモノは好きやけど、古いモノも結構守り、盛り上げ下手で……
けど……や
「和田さん、これと水羊羹とどう関係あるんやの?」
私はストレートに聞いたわ。
「つまり地域性です。正直、私は水羊羹のつくり方の知識はありません。食べるにしても、美味しい食べ方知りません。これは羊羹だけでなく、全てに置いてです」
「なるほどやざ、なあ早苗さん、和田さんは都会からの人や。都会の感性と私らの感性は、違うのはわかるやろ」
宮本さんが言うたわ。
「おい早苗、つまり方向性を考えやってことや、大名閣の今回のイベントはどう思った」
今度は幸隆やざ。
嫌み言うたろか、そう思ったけどマジメ顔やわ。
「アホじゃ、あんな時間に平日に、福井の人間が集まるかって」
「早苗、勝ちにこだわるなら、調査してみ。駅周辺のことをや」
「へ?」
「羊羹も大事や、しかしそれに、周りの環境も必要やざ、早苗さん」
私、三人に責められとるなあ。
暖房効きすぎなんか、汗が滲むざ。
「早苗、大名閣からも目をはなすなや。彼奴等、エキストラ使うかも知れないで」
幸隆が、変なこと言うざ。
「桜井さん、駅前の利用者に扮して、大名閣の関係者が何人混じることを松浦課長が心配してるんですよ」
「えー!」
私は大きな声を上げたって。
「桜井さん、もし勝ちたいなら、少し大袈裟でもいい、派手にやってみてはいかがでしょうか。もちろん、水羊羹はしっかりアイデアが必要です」
……言葉がないわ。
これはかなり大掛かりやって、少しみんなに相談せなあかんわ。
夜に家族会議やざ。
みんなに、今日のことを報告やって。
そしてみんなの、意見を聞くことにしよう。
なんやろ?
私が知らん所で、なんかが一人歩きし始めとる……そんな感じやざ




