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《店の定休日 高塚屋へ》
私とオカンは、高塚屋の本店に来とる。
久しぶりやなぁ。
外は見事な雪や。
静かにボタ雪が、地面に落ちている。
味気ない歩道にアスファルトが、雪で冷やされてっざ。
「この降り方は、積もりますざ」
高塚屋の女将さんが言うた。
私も頷いたって。
「それはそうと、やり方がわかったざ」
そう言うと、一通の手紙を見せてくれたざ。
送り主は市役所からや。
オカンが、覗き込んどる。
しばらく動かん。
そして……私に見せたわ
「早苗、読んでみ」
オカンが言うた。
どれどれ
前略
今回の羊羹フェアーを開催するに、華を添えてもらうために、羊羹対決をしていただきます。
日時 二月十四日 午後五時
場所 福井駅前西口
対決方法 三種類の水羊羹による投票
票の多い方が勝ち
三種類の羊羹を、300セットを用意すること。
尚、今回は民放、「夕方ただいま福井」様の協力のもとに、羊羹フェアーのPRの一環として、放映させていただきます。
「民放!」
私はビックリしたわ。
まさか、そこまでするんか?
「まあ、異常や」
「それにしても、こんなん福井で受けるんか?」
オカンの呆れ顔に、女将さんのため息や。
確かに……福井はアカンやろ
福井の人間は、こんなことを好まんのや。
別名、アイドル殺し で、有名なんやぞ。
え? なんやそれって
まんまやざ。
福井の人間は、ノリが日本で一番悪いんやざ。
特にチャラチャラしたのを、毛嫌いするんや。
アイドルがチャラチャラしとるかは、私はよくわからん。
けどみんな白けた顔で、見とるらしいわ。
そのためか、福井にはアイドルが来んのやざ。
田舎やから……理由はそれだけではないんや
「バレンタインデーに、やるんか?」
女将さんが呆れ顔や。
「ある意味、大名閣の出方がわかりますざ」
オカンが笑てる。
女将さんも、頷いた。
「間違いないわ、大名閣はチョコとのコラボやな」
オカンが鼻息が、荒いわ。
まあ私はその前から確信しとったけど。
篠原と小民家カフェで、アイツが「俺はチョコ菓子得意や」言うてたやろ、そこからや。
篠原はコッソリ教えたつもりやろけど……
「さて、向こうの出方はわかった。私らはどうする?」
女将さんが言うたって。
するとオカンが、変な目で私を見たざ。
女将さんも満面の笑みで、見とるって。
やっぱり……
「頼むざ、早苗のやこい頭にかかっとるざ」
オカンが、言うたわ。
……はいはい
まあ、一つはヨモギ羊羹がある。
これと何を合わせるか?
それとも……
まあ今回は、私を試す意味でも、やっちゃるざ。
「オカン、勝とう」
私は言い切る。
オカンと女将さんが、笑てる。
美人の笑顔と、タヌキの笑顔、うーん……やめた
とにかく!
私はやるしかないざ!




