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《近くの小民家カフェにて》
私達と篠原は、四人席テーブルにいるんや。
どこの?
小民家カフェ、三国が丘にや。
捻りのないカフェやなあ。
聞いた話では、町がやっとるカフェらしいざ。
ネーミングセンスはないなあ。
「すまんな、本当なら風の道草でやりたかたんやけど、店員は大名閣からの派遣やから、危険なんや」
篠原が謝ったわ。
「風の道草?」
「俺が、やっとる洋菓子屋兼カフェ兼雑貨屋や、表すこし見たやろ?」
篠原が言ったわ。
確かに、外見は見た。
なんか店言うより、家やったんや。
店の横に大きな池があって、多分やけど店の後ろには林があったみたいや。
店中は見とらんから、よくわからんざ。
けどなんやろ、その一帯がええ雰囲気やったわ。
「いいカフェや、洋菓子も美味いし、雑貨のセンスもええ……雑貨は高いけどな」
幸隆が口を挟んだわ。
「ちなみに、母さんはここのファンでな、服もここで買ったことあるんやぞ、ちなみに一回ここの服着て行ったら、タヌキに万年ペンキ塗りたて言われたって、笑とったなあ」
え!
まさかあん時なんかあ。
……あん時やな
アレしか思い浮かばんざ。
「まあ、アレは県内の頑張っているデザイナー応援の品や、俺なりの後押しや」
ふうん、なかなかやるやん。
篠原を少し見直したざ。
「桜井、お前の家族には本当にスマンな。家のオヤジ、ちゃがちゃがにしおるわ」
篠原がため息をついた。
因みに、ちゃがちゃがは、方言やざ。
意味は、めちゃくちゃ、やざ。
「なあ、篠原一つ聞いてええ?」
「なんや」
「篠原の店入らんかったけど外見だけやけど、雰囲気良かったざ。場所もええし」
「あれな、死んだじいちゃんの別荘やったんや」
篠原が言うた。
えっ、別荘!
なんや篠原も、金持ちなんか。
「じいちゃんが、オヤジに店譲った時に買ったらしいざ」
「同居やないんや」
「そや、余生は静かに暮らしたい……じいちゃんの言葉や」
金持ちやなあ。
けど少し引っかかるなあ。
何で別居を、選んだんやろ。
これはプライベートやから、聞けんのう。
あっ、そや、本題に入らな!
「なあ、篠原、高塚屋と桜井、アンタの店とやりやうんやけど、それはとっくにアンタも知っとるやろ」
「ああ、知っとるわ」
「対決方法は知っとるやろ」
「……お前に」
「心配ないざ」
私は篠原を諌めた。
篠原が顔をしかめとる。
そこに袴風の制服を着た店員が、棒茶と付け合わせの菓子を持ってきたわ。
店員が三つの、それを置くと一列して放れていくわ。
「ええなあ」
幸隆が変な笑い浮かべとる。
コイツは!
はあ、話が反れるやめやめ。
「対決方法、少し知っとるわ。実はな……」
私は篠原に言い聞かせたわ。
十二月にあった出来事んや。
そして対決方法のやり方を、少し教えて貰ったことも。
「あの糞オヤジが、アホじゃ」
篠原が吐き捨てるように、言うたわ。
篠原と親父さん、何かあるんやな確か、幸隆も言っとったけどや。
幸隆をみる。
お茶菓子食べて、変な顔しとるざ。
不味いんか?
「俺な、オヤジのやり方が気に入らんのや。じいちゃんとは違うからや」
篠原が言うた。
「じいちゃんと違う?」
「俺のじいちゃんはな、菓子職人として厳しい人やけどな、義理と人情とは誰よりあった。じいちゃんのやり方は、厳しい中に優しさがあった。だがら大名閣が大きくなったんや」
篠原が力説しとるなあ。
コイツは、じいちゃん子なんやろか?
それに大名閣は元々、大きな店やろ。
「オヤジはな、そんなじいちゃんのやり方を、否定しているんやって。だから腹たつんや」
力説しとる。
相変わらずの、力説やって。
「このじいちゃんの別荘な、オヤジのやり方に愛想つかせたから、家を出るために買ったんや。じいちゃんの腕で稼いだモンやけどオヤジは気に入らんかったようや」
篠原の力説か続いているけど、正直ウザイから私が話をまとめるでの。
篠原はオヤジのやり方に嫌気さして、家を出たんや。
そん時にじいちゃんの遺言があって、別荘やったとこはコイツの遺産にしたらしいわ。
税金とかどうしたんかは、わからんけどな。
だから店を造れた言うとるわ。
それでも、家から借金したらしく、オヤジにカネを返しながら切り盛りしとるらしいわ。
「なあ、桜井、羊羹対決やけどな、日にち教えたろか?」
篠原が言うたわ。
コイツ知っとるんやな。
しかし私は……
「おそらく、二月半ばあたりやろか。ひょっとしたら、バレンタインデーに合わせるとか、アホせんやろ?」
私は答えたわ。
篠原の顔が、ビックリしとる。
私もビックリしたざ。
どうやらその日みたいやざ。
「桜井、当たりや。それでな、オヤジが俺に頭を下げにきたんや。理由はチョコと羊羹を合わせた新しい羊羹を、創れってや」
篠原がため息を吐いた。
けど目が笑とった。
つまり……
「篠原、アンタは乗り気なんやろ」
私はズバリ、聞いたわ。
「ほや、大名閣抜きにして、新しいモノの挑戦はしたいんや。じいちゃんも、挑戦は必ず自分の力になる言うとった。だから俺は参加する。勘違いすなや、お前らに勝ちたいちゃう。新しいモノに挑戦したいんや」
篠原が瞳を輝かせながら、言うたわ。
挑戦……か
コイツの言葉には、やたらじいちゃんが入るざ。けどいい教えやと思うって。
だって挑戦は必要や、それを無くしたら人間は終わりやと私も思うからや。
コイツのじいちゃん、なかなかええ人やったんかな。
「篠原、正々堂々やざ。詳しい詳細は、高塚屋さんから聞く。だからもういいざ」
私は棒茶を飲みながら言うたわ。
渋味と苦味の効き過ぎや!
一口味わって、変顔してお茶を見たわ。
「ここ、不味いやろ? すまんな」
篠原が私らの近くに、体を持って来て言うたざ。
私と幸隆が、思い切り縦に首を振ったて。
篠原がそれを見て、大笑いしたざ。
「ええカップルやな。俺も嫁さんとこんな時期あったなあ」
「え! 結婚してるんか?」
「ああ、今二人目作成中や」
篠原の目尻が、下がる下がる。
……なんやろ
負けたざ。
「早苗、俺等もはよ!」
幸隆が、変顔しとるざ。
……はあ
「とにかくや、桜井、正々堂々とや。負けんでな」
篠原が、笑てる。
笑顔に似合わない男やざ。
幸隆を見習えや。
「さてとそろそろ、仕事に帰るわ。最後に、俺はチョコ菓子は得意や。それだけ言うとくでの」
篠原が言うたわ。
私は……
「負けんでな」
短く言い返した。
《幸隆のクルマ》
幸隆が、福井にクルマを走らせとる。
今から夜ご飯を奢って貰うんや。
「今日は和食な」
「どこでもええざ」
お腹が減ったわあ。
それはそうと、篠原はやる気やな。
けど、私かて負けんざ。
正々堂々、勝負!
時間は刻々と、刻んでいる。
逸れまでに、いい羊羹ができるように、私も頑張らんと。
とにかく今は、ご飯や。
幸隆、任せたざ。




