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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
十二月 雪の予感
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 《土曜日 幸隆とデート ポートハウスにて》


 「ぐーちゃん、久しぶり!」

 マスターからの一言目は、ぐーちゃんやって!

 それはないやろ? そんな顔をしてもたって。

 「こら! ごめんなさい」

 奥さんが宥めてくれたわ。

 マスターは相変わらずやけど……

 それにしても、ええ仲やわ。

 「早苗、海見えるテーブルにすわるか?」

 幸隆が聞いてきたざ。

 海かあ……

 私は窓の外を見た。

 この日は、朝から大雪やった。

 桜井は私ら女は、いつも通りお菓子造りに没頭しとった。男は雪掻きしとったんや。

 この時期の決まりやな。

 したくなくてもや。

 高台から海が見えるポートハウス、この地はあまり雪は積もらんのや。

 港町やで。

 けど……今日に限って言えば、すごい雪なんや。

 「ごめんな、今日は雪やから……」

 「海、見よう」

 私は幸隆に言うた。

 幸隆はビックリしながら、アハハと笑てるんやって。

 変なんヤツ!


 椅子に座って幸隆を見とるんや。

 正直、ええ男やざ。

 少しおどけてもた。

 「今日は吹雪やな」

 幸隆が視線を逸らし、窓の外を見たんや。

 ちょっと! アンタなあ

 つられて私も窓を見たわ。

 ……吹雪やった

 景色が見えんくらいに、激しいざ。

 「今年は大雪やなあ」

 私か手をさすりながら、景色を見とる。

 !!!

 なんや?

 いきなり幸隆の温かい手が、私な手を掴んだざ。

 「なっ!」

 私は驚き、声を上げようとしたら……

 「あかぎれ、やな」

 幸隆が私の指を見て言うたんや。

 「うん、お菓子造り出したからや。今は水が冷たいんやって。衛生用のビニール手袋はしとるけど、冷たさは手に感じるんや」

 私は幸隆に、言い聞かせた。

 幸隆はどこか、やるせない気持ちに見えたわ。

 「幸隆」

 「なんや早苗」

 「温かい手、ありがとう」

 私は笑顔で、言うたった。

 幸隆はどこか照れくさそうやった

 「はい! お邪魔しますよ!」

 マスターがニタ付きながら、ご飯を置いたんや。

 なんやって!

 ええとこやの……

 「カニ鍋、お待ちどうさま」

 …………か・に

 私はマスターを見た。

 マスターはコンロを持ってるざ。

 「コンロをセットしたら、鍋の登場や」

 ニタニタしながら……言うたざ

 私はそれ以上に、ニタニタしながら……

 「わかりましたざ」

 そう言うたわ。

 私とマスターのニタニタ顔を、幸隆が少し引きつった顔で見とるわ。

 私が幸隆の表情に気づいたわ。

 幸隆が急に笑い始めたって。

 「幸隆、カニ鍋ってまさか越前ガニかぁ?」

 「そや、奮発やざ」

 「……幸隆の家、お金持ちやけど、後でせびるんか?」

 「まさか! ボーナスや!」

 幸隆が真っ赤な顔して、反論したって。

 ……そうしとこ

 越前ガニ言うたら、福井の人間ですらめったに口に入らん高級品や。

 一匹、安くてもウン万はするんやざ。

 え? 知っとる!

 やっぱ、ここは説明不要やったか。

 「まあ、気にすんな! 訳ありガニやから」

 幸隆が言うたざ

 「訳あり?」

 「そや、つまり市場に出回れない訳ありのカニなんやって。確かこのカニ、水揚げしたときに片方の腕がもげてたらしいんや」

 幸隆が言うた。

 なるほどや、訳ありかあ。

 がっかりした気持ちと、ホッとした気持ちや。

 がっかりはやっぱ、訳ありなこと。

 ホッとしたんは、幸隆の懐はあまりダイエットしてないことや。

 「さて、食べよか!」

 幸隆が言うた

 「はーい!」

 私も素直に言うた。

 さて、ランチはカ・ニ!


 《食事中》


 カニの脚には、しっかり切れ目があり食べやすいわあ。

 カニ用スプーンが、大活躍しとる。 

 美味しいわあ……一つの問題を残してや

 一つの問題、それは……

 「……」

 「……」

 から始まって!

 「……」

 「……」

 なんや。

 つまり、会話がないんや。

 すべてカニに神経を持ってかれとる。

 私も幸隆も、そっちのけやざ。

 これ、デートとして失敗のような……

 「早苗、美味しいかあ?」

 幸隆がカニの甲羅をしゃぶりながら言うたわ。

 カニの甲羅!

 「あっ、アンタ一番美味しい所を!」

 「心配ないざ、コレはセイコや」

 幸隆が言うたわ。

 私はよく見る。

 確かに、小さな甲羅や。

 「本体は鍋に向かんやろ」

 「じゃあ、幸隆のソレは?」

 すると幸隆が、マスターを見たわ。

 なんかを造っとるのがわかるわ。

 「マスター、早苗にもセイコ上げてや」

 「はいよ!」

 マスターの声がしてすぐに、セイコガニ一匹が出てきたんや。

 「今日はこの時間、貸し切ったんや。客は来ないから、楽しんでや。ボンは金持ちやね」

 マスターが笑いながら、料理の続きにとりかかったわ。

 「……やっぱり、奮発したんやな」

 「心配ないざ」

 幸隆が、改めて否定したわ。

 今度、お母さんに聞いとこ。

 さてと……セイコガニやな

 まず、セイコガニって知っとる?

 メスのズワイカニなんやって。

 越前ガニって言うても、本来はズワイガニが正式な名前らしいんや。

 そのズワイガニのオスは、身体が大きくなりみんなが手が出ん越前ガニになるんや。

 ではメスのカニは?

 セイコガニは、身体が小さくいんや。

 食べるとこ少なくて、価格も手頃なんや。

 けど、セイコガニのミソもなかなか美味しいんやざ。それに卵は珍味やしなあ。

 さてと、食べよう。

 ……

 ……

 ……美味しいわあ!

 ミソは甘いし、卵はコリコリとしとる。

 塩気もええざ。

 少し食べづらいけど、その苦労もかき消す美味しさやって。

 「美味しいやろ?」

 「当たり前やざ、今度は財布に優しい美味しいをしてや。こんなんばかりじゃあ、アカンざ!」

 一応、釘をさしとこ。

 幸隆が、ハイハイって笑とるわ。


 《食後》


 美味しかったざぁー

 内容はこれ以上書かん。

 書いても、口に出来る人は少ないやろから、反感買うわ。

 さてと……吹雪は相変わらずやざ

 「やっぱり、今日は一日吹雪やな」

 幸隆が、コーヒー飲みながら言うたわ。

 私も紅茶飲みながら、頷いたわ。

 静かに激しく降る雪を、二人無言で見とるだけやざ。

 福井の冬……代名詞みたいな光景やった

 「早苗、気い付けや」

 幸隆がいきなり言うた。

 私は幸隆を見たわ。

 「どうしたんや?」

 「笹原は、本気やぞ!」

 幸隆が、言うた。

 私は顔から、笑顔が消えたんや。

 大名閣……

 「幸隆、変な肩入れせんといてな。これは西地区の私らと、大名閣の真剣勝負やざ。松浦の力は要らんでな!」

 厳しい目で、私は幸隆に言ったんや。

 幸隆も笑いながら、コクンと頷いたわ。

 ……幸隆との時間にも、羊羹対決の時間は迫っているんやな

 私は、浮かれていられんわ!

 そう、浮かれてれん。

 けど……今日くらいはええやろ

 「ええざ、ええざ」

 「へ?」

 「声になっとった!」

 幸隆が笑とるんやって。

 は、恥ずかしい。

 「さてと……少しドライブするざ」

 幸隆が優しく言うたわ。

 私はまな板の上のカニになるわ。

 あー! カニ! 美味しかったわあ。


 《幸隆、会計中 早苗はクルマの中》


 「ボン、お金大丈夫なんか?」

 「実はせびった!」

 「ええ歳こいて! ボン」

 「まあまあ……ところで、大名閣やけど」

 「守ってやるんか?」

 「ああ、篠原から守ってやらんと……早苗、大名閣は如何なる手でも使うぞ」

 「余計なお世話を、せなかあんみたいやな」

 「ああ、余計なお世話をしたるわ」

 



 




 

 

 

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