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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
十二月 雪の予感
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 《十二月 明け方 雪》


 静かな音に目が覚めた。

 時間は明け方、梅雨時期は明るい時間のことやざ。

 静かな音……これは福井に住む人間にしかわからん音なんや。

 私はカーテンを開けて、窓を開けたんや。

 真っ暗や、外は思ったよりも寒くないんや。

 その代わり、重い湿気と静かな音を聞いとんや。

 「今年の雪は、早いなあ」

 ボタ雪がふっとるわ。

 さてと、オカンらや。



 一階の製造室に、私は来たんや。

 相変わらず餡贈さんが、ブーンブーンと餡を練っとるんや。

 「オカン、ばあちゃん、おはよう」

 「あはようさん」

 「おはよう」

 今日は私にとって、大切な日や。

 ううん、これからが大切になるんや。

 「早苗! 今日からお前も、手伝いやざ」

 完全防備の服装に、頭にビニールの頭巾を被ったオカンとばあちゃん、そして私がいるんや。

 私にとって、今日は本当の始まりの日や。

 「早苗、今日からや」

 「はい!」

 オカン……違う、先生やな。

 先生に気合の挨拶や。

 「早苗、私は厳しくでな! 覚悟しいや」

 先生が言うた。

 私は大きく頷いた。

 「……始めよか。その前に、早苗、誕生日おめでとうや」

 先生が言うた。

 私はコクンと頷いたんや。

 さて……始まるざ!

 

 《朝 朝食》


 「姉ちゃん、おはよう! 今日からなんかぁ」

 沙織が言うたんや。

 私はコクンと頷いた。

 桜井家の家訓に、何故だが二十代半ばまでは菓子を作れんと言う決まりがあるんやって。

 始めは十代後半やったんやけど、今は二十代の半ばなんやざ。

 正直、不思議な家訓やなあ。

 因みに決めたんは、オカンとばあちゃんやざ。

 つまり私の世代なら、また変わるかもしれん。

 わ・た・し・の考え一つでや。

 「早苗、もし後継ぎが継ぐなら、現状維持やでな!」

 玉ねぎの味噌汁をすすりながら、オカンが言うたわ。

 「早苗、もう少し、クドくせい。ちょっと、水くさいざ」

 注文はばあちゃんや。

 「こんなもんやろ」

 私は言うたって。

 クドい……しょっぱい

 水くさい……味が薄い

 方言やでの。

 せっかく、お菓子造りの合間に作った朝御飯を!

 「こんなもんやろ」

 「はい、こんなもんや」

 じいちゃんと、オトンの援護や、嬉しいなあ。

 「お母さん、早苗の勝ちですざ」

 オカンもや。

 珍しいなあ。

 「早苗、顔に出とる!」

 オカンが変な目しとるざ。

 アハハハ……

 桜井家の笑い声がするんや。

 

 《午前中 店番》


 製造室の掃除をオカンらに頼んで、私は店番や。

 本当はいっしょに、掃除をしたかったんやけど、とばし過ぎ! と言われたんや。

  

 これからは、嫌でもせなあかん。

 だから全開はアカンざ。


 オカンの言葉や。

 私はそれに従った。

 外は一面、雪なんや。

 ボタ雪が音もせず、鉛色の空から落ちて着とる。

 道は雪が積もり始めたわ。

 まだ雪掻きまではいかん、けど明日は雪掻きやな。

 


 ピロ

 ピロ



 ……ん?

 メールや、幸隆からかあ。

 

 『誕生日おめでとうや、俺も冬が誕生日やけど、早苗は師走のこの時期なんやな。

 別に意味はないけど。

 今日からやろ、とばすな。

 俺も始めやり過ぎで、へばったからなぁ。

 今日の夜、桜井に行くけどいいかあ。

 羊羹対決の情報を、少しながしたるで。

 大名閣、かなりやっとるぞ! 気をはれや。

 じゃあ、これから会議の打ち合わせやで』



 幸隆……嬉しいなあ

 さてと、仕事や。

 夜は幸隆に、なんか食わしたらなあかんざ。

 さて……がんばろ



 《会社にて》


 「社長……いや、兄さん」

 「幸隆、なんや? 会社では……」

 「今度、大名閣と会うんか?」

 「ああ、孝典の四十七日のことで、菓子を頼むからや。桜井では数の用意が無理やろ」

 「……同行できんか? 家族としてや」

 「師走の忙しい時期やぞ」

 「兄さん、暇なんか?」

 「……わかった、少しだけやぞ!」

 「ありがとう、明日は一日中仕事するで!」

 「はいはい」

 

 


 



 

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