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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
十二月 雪の予感
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 《平日 午後 和田さんの会社》

 

 スタッドレスタイヤに午前は履き替え、午後は和田さんのとこへ配達やざ。

 和田さん、今では大切な常連さんなんやって。

 たまに注文が入り、事務所に行くんやざ。

 「今年は雪、早いなあ」

 天気予報は午後から雪の予報やったんで、急いで履き替えたんや。

 今年の初雪は例年より早めらしいって。

 確かにみぞれになってるわ。

 これが雪に変わるのは、明日やろか? 予報は午後やけどまだ変わっとらんし。

 嫌な季節やざ。

 でも、一番福井が似合う季節でもあるんやけど……似合わんでええから、雪降らんといて!


 

 「お疲れ様です、大変でしたね」

 和田さんが声をかけてくれる。

 事務所内は相変わらずや、少し暖房が入っとるようや。

 「朝起きたら、白い息してました。寒うなりますなぁ」

 和田さんが言うた。

 都会の寒さと、福井の寒さはどうなんやろか?

 ようわからんなあ。

 「はいお菓子です。丁稚羊羹!」

 私はそう言って、羊羹を出したんや。

 羊羹……アカン、今は考えんとこ。

 「はい、ありがとうございます……」

 「ん? どうしました?」

 和田さん、考えとる。

 「丁稚羊羹って、水羊羹ですよね。二つほどわかりません」

 「二つですか」

 私は聞いたんや。

 ある意味、やっぱりやなあ……なんて思いながらやざ。

 「一つは、水羊羹と呼ばないで、丁稚羊羹と呼ぶ理由です」

 和田さんが言うたざ。

 ハイハイ、お答えしますざ。

 「丁稚は丁稚なんやって。つまりどっかの商家に働きにいく、アレのことなんや。一説ですが、福井は京都や大阪から近い関係、そこに奉公していく小僧が多かったらいんや。それと福井でも今では、水羊羹の呼び方が主流ですざ。少し話が反れました、続きやけど……」

 「はい、手短を心がけて下さい」

 和田さんが言うたざ。

 ……手短かあ

 まあ、ええわ!

 「その丁稚奉公の小僧さんが、正月里帰りするんやけど、その際に練羊羹をお土産にお店の主人からもろた小僧さんが多かったんやって、理由は知らんけど……土産の羊羹、当時は贅沢品で量も家族で食べたらほんの少しやったらしいんや。その練羊羹を水で延ばして冷やして量を増やしてみんなで食べたらしいんやざ、そのままでは、少なくなるからや」

 はい、手短や。

 本気で話したら、しばらく続くでの。

 まあ、それくらい、水羊羹は福井では切っても切れんのやって。

 「なるほどです。その地方には、その地方の、理由があるんですね。二つ目の謎も解決しました」

 「嘘や!」

 「二つ目の謎、それは水羊羹が夏ではなく、冬に食べられることです」

 和田さんが笑いながら言うたって。

 「正月里帰りに、食べたなら……立派な理由ですから」

 「アハハ」

 私は丁稚羊羹を差し出すと、お金を貰って事務所を出たざ。

 長居は仕事の邪魔やし、私も忙しいんや。

 

 私はクルマにいる。

 師走やな、私も忙しいざ。

 ばあちゃんから、また配達依頼やわ。

 一度戻ってるとこや。

 ……大名閣の水羊羹は、代名詞やな

 私は本当に、大変な相手とやらなアカンわ。

 羊羹対決の羊羹は、必然的に水羊羹になるんや。

 つまり福井は、水羊羹が羊羹やからな。

 さてと、ばあちゃんから、菓子もろたら次の配達や。

 師走は忙しいって!

 みぞれは雪に変わってきたざ。

 明日からは、ボタ雪が始まるなあ。

 嫌な季節やわあ。

 

 


 


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