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第九話 羊羹対決! 前編
《平日 午前 天候 晴れ》
高塚屋さんに、私は出向いとる。
今回は家の方や。
へえー、大きな家やなあ。
威厳のある家や、まるで松浦の家みたいやって。
正直、松浦よりは小さいけど、それでも桜井よりは立派やなあ。
「早苗ちゃん、ええ男捕まえたんかぁ?」
女将さんが笑てるんや。
おそらくはオカンからやろ。
「まあ私でええらしいと……」
「早苗ちゃんなら、男つまみ放題やろ?」
女将さんが真顔で、聞いてきたざ。
私は言葉に詰まったざ。
私、男好きやないんですけど……なんては言えんなあ。
「早苗ちゃん、本題に入るざ」
女将さんの雰囲気が、急に変わった。
空気が締まったざ。
「さてと、まずは、コレや」
女将さんが紙切れを見せてくれたんや。
ん?
『前略
七月のお菓子フェア、若鮎の三色菓子、見事でした。
今年は異常な天候で気温が上がらず、大名閣は天に見放されたようなフェアでした。高塚屋さんの若鮎は確かに素晴らしく、天候に左右されないお菓子でした。
さて、本題に入ります。
来年二月の終わり頃に行われる、福井羊羹フェアがあります。全国からの名だたるお菓子屋が集まります。
そしてフェア開催中にイベントが開かれます。
昨年は若手女性演歌歌手のコンサートでした。
それはそれで、盛り上がったと思いますが少し印象が薄かったようです。
そのため今回は、福井の美味しい羊羹決定戦としまして、羊羹対決をしようと思います。
対戦は主催者からの依頼で、大名閣と高塚屋が対決することになりました。
まずは対戦を了承していただきたく、書留にて手紙をしたためた次第です。
大名閣は今回の対決を、承諾しました。
福井の代表と考えている大名閣にとって、夏の勝負の借りを返したいと思っているからです。
高塚屋さん、羊羹対決は正直不利だと思います。
大名閣の羊羹は、福井の代名詞だからです。
そのために、西地区より一店舗をあたなへの補助として組んで参加することを私達は、許可をしようと思います。
その店と組んで、大名閣と対決しませんか。
私らに負ける要素は、全くありません。
それでも対決を望みます。
福井の菓子、羊羹を巡っての対決をしていただけると信じて、今回はここまでとします。
最後に高塚屋さん、大名閣は本気です。
負ける前から、負けないように、お願いします
大名閣』
「挑戦的と言うか、宣戦布告やな」
私は言うたわ。
「夏の菓子フェアに負けたのは、天候のせいで私らは負けてません!」
女将さんが呆れわらいしながら言うた。
「演歌歌手来たん?」
「羊羹フェア自体、大名閣の色が強くてなぁ。演歌歌手はそこの社長のお気に入りやざ」
「はあ?」
「問題はその後や、主催者とあったやろ」
女将さんが言うた。
「大名閣のモンやろ!」
「そや、自分の息子が市議会員で副議長でな、操っとるらしいざ」
「つまり……」
なるほどや。
「高塚屋は勝負したるわ! 大名閣は正直ムカつくんや! けどどうやら桜井にもその魔の手が行ったようや。手紙きたんやろ」
女将さんが伏し目がちに言うたわ。
大名閣は始めから、高塚屋と桜井に恥を掻かすつもりなんやな。
これは受けなあかんざ。
高塚屋さんは、正解や。
「やりましょう! これは、対決です。相手が何か画策したとしても、やりましょうや」
私は力強く言うたわ。
「ありがとう、心強いわあ」
女将さんが涙目や。
強がっている……なんか、そんな感じやもん。
ここは絶好に、何とかせんと!
桜井 早苗、意地見せたるわ!




