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《土曜日 デート 福井市内のカフェ》
幸隆と洒落たカフェに来とるんや。
新しく出来たカフェで、越前焼にこだわっとるらしいわ。
カフェは昔の武士屋敷らしいんやけど、そんな屋敷は聞いたことはないって。おそらくは、小民家やな。
二人テーブルの窓際で、外には大きな桜の木が見えるんや。中庭に桜の木なんて、武家屋敷は嘘やないかも。
時期的に桜は葉が散り、寂しい感じや。
空は曇り、雪の足音が聞こえてくるざ。
幸隆はコーヒーを飲んでいるわ。
その横にモンブランのケーキがあるんやけど、なんか不思議やわ。
和菓子屋の娘にケーキなんてなぁ。
ケーキが悪い訳ではないんや。
私も実は好きなんやで。
「ええ店やろ、俺わりとこんな店好きでな」
幸隆が笑とるわ。
カフェ好きは、間違いないかもや。
八月に入ったカフェにしても、今回のカフェにしてもセンスがええざ。
「誰かと来とったんか?」
私が言うたって。
「一人や、俺はノリとは違って社交的やないで」
幸隆がコーヒーを飲みながら言うた。
少し苦そうや。
コーヒーが苦いんか?
それとも……
私もコーヒーを飲む。
厚みのある緑色の越前焼カップに、ミルクの入ったコーヒーが踊っとるざ。
「美味しいわ」
私は言うたって。
幸隆の顔に、満面の笑顔やざ。
なんやろ?
なんか……普通やな。
今までは、普通やなかったんか?
「どうしたんや」
幸隆が不思議そうや。
「別にや」
笑たわ。
うん……
「もうすぐ冬やな」
幸隆が言うた。
「……幸隆、私でええの?」
「早苗も俺でええんか?」
コイツ、オウム返しやなあ。
「まずはアンタからや!」
「早苗、俺のそばに居てくれ」
幸隆が恥ずかしそうに笑うわ。
オイオイ……
けど、孝典さんとは違う。
幸隆やなあ。
「居させていただきます」
頭を下げた。
私、こんな謙虚な人間やたんかあ。
自分が、自分に、驚いたって。
「……ありがとう」
幸隆が笑う。
笑顔の弾ける日やざ。
幸隆とのケジメは……これから、こんな感じなんやろな。
幸隆と私のケジメは、これから死ぬまで続くんやって。
そう、死ぬまでや。
幸隆と私はしばらくカフェでコーヒーして、その後は……ひ・み・つ やざ。
おわり
「姉ちゃん、上手くやってるかなあ。オカン」
「沙織、早苗は結構決める時は凄いでなあ」
「えー! 私も連と早くぅ」
「……ところで、咲裕美からスマホがあったわ」
「へ? 元気しとるんか?」
「大名閣のことで、心配らしいわ」
「……咲裕美姉ちゃん、知らんまに亮さんと!」
「高塚屋さん、大変らしいでな」
「対決やもんな」
「そや、羊羹対決や!」




