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《オカンが茶の間から消えて……》
ようやく静かになったざ。
疲れたって……
何を考えとんや?
「スミマセン、お母さん」
私は謝ったって。
「アハハハ、気にせんからええざ。あんなタヌキ女の鳶が鷹を産んだようなオバチャンは!」
……話がそれるわ、オカンの話は出さないようにせんとこ。
ヤギも首を振っとるわ。
アカンざ、アカンざって!
……さてと、本題やざ。
「お母さん、聞かせてもらえんですか?」
「ん? 何をやの」
お母さんが笑いながら、言うたわ。
「幸隆のこと、そして私をどう考えているかです」
「まず、早苗さんは、美人やなあ。孝典、幸隆を翻弄しただけのことはある。孝典は聞いとるとは思うけど、あんな子やった。あんな子が、一目で好きになったって言うとった。そして、後悔もしたんや」
お母さんがここまで言うと、お茶を飲んだわ。
ふーっとため息を吐くと、続きを喋り始めたんや。
「後悔ってなんやと思う? 孝典が幸隆に代行したことなんやわ」
「代行!」
「美術館の時や、孝典なあ、その時は体調が良くなかったんや。ひょっとしたら、この頃から信号が出とったんやろな」
私は視線が下に向いとった。
お母さんの、湯のみ茶碗をみていたんや。
「その時に孝典は、幸隆に代行を頼んだ。幸隆は嫌な顔しとったなあ、いつも貧乏くじばっか孝典から貰っとったからや。渋々と承諾したけどな」
それが私と幸隆の始まり……
「デートから帰って来た幸隆に、私はビンタしたって!」
「え?」
私は大きな声を上げたって。
自然に視線が、お母さんを見たんや。
「幸隆な、「ノリは間違いなく死ぬんか?」なんて言うたからやざ」
「えー!」
「早苗さん、幸隆なあ一目惚れしたんやざ! そしてなあ、「幸運が巡ってきた」なんてはしゃぎおるから、目を覚ましたったんや」
はーっ、そんな感じでため息を吐いたざ。
けど、どこか笑とるんや。
「八月のあん時、早苗さんと初めて会った時や、私が「わかるわあ」そう言うたの覚えているかぁ? これな、幸隆をビンタした時にな、この子はなんてアホな! と思たんやけど、理由がわかったからやざ」
そうやったんか。
なんか、わかったんやって。
「幸隆は正直、松浦の跡取りには向かんのや。正直過ぎてや。お人好しなとこもあるしな。けど努力は惜しまない子や。早苗さん、幸隆を認めてくれんかぁ」
「認める? 何をですか?」
「幸隆をや……後は、幸隆に会って……やざ」
ニッコリとお母さんが笑ったわ。
ええ笑顔やざ。
後は私なんやなぁ。
廊下から足音がするざ。
ドタドタした足音は、間違いなく……
「さてと、お菓子ですざ!」
やはり、オカンやわ。
タイミングがええなあ。
まさか! 計ってたか!
オカンが私を無視して、お菓子を置いたんや。
置いたんやけど……ん? なんやこれ
お多福の形した、クッキーみたいな菓子や。
「今日はな、高塚屋の女将からもろた菓子や。これは敦賀の仲ようしとる和菓子屋から貰う菓子でなぁ、豆落雁やざ」
オカンが言うたって。
豆落雁かぁ。
聞いたことはあるけど、始めて見たって。
「細かい詳細は、せんから早よ食べてや。お連れのアンタも食べてな」
そう言うと、新しいお茶が来たわ。
じいちゃんが、挨拶して置いてってた。
「あら、おいしい!」
「そうやろ、豆落雁ええやろ」
「タヌキが好みそうやなあ」
「ゆっくりしててなぁ、剥がれ落ちても大丈夫やで」
……また、始まるんか
止めた止めた、キリがないわ。
それよりも、今は幸隆や。
私は幸隆を愛した……と思うんや
幸隆の気持ちを、もう一度見てみよう。
そして……やざ




