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《家中 午後》
松浦のお母さんを家に通したんや。
始めは、「え?」としておったけど、オカンからも進められて入ってもろた。
今はお茶を飲んでもろとるんや。
「ええ感じやな」
お母さんが、不思議そうにしとるわ。
「奥様!」
ヤギもいたんやった。
「とって付けんといて下さい」
あれ?
「口に出てましたざ」
ヤギが呆れてるわ。
お母さんも笑てるし……
えへへ……
「可愛いわあ」
「はい奥様」
……あっ!
褒められたって。
なんか嬉しいざあ!
「ハイハイ、早苗、そこまでや」
オカンが変な顔して、部屋に入って来たんざ。
「早苗なあ」
オカンが言うたざ。
私が悪いんか?
「松浦さん、初めてお目にかかります」
「いいえ、お店で……」
「こんな向き合った形ではですざ」
オカンがお母さんの言葉を切る。
ちょっと、失礼やざ。
二人を見たわ。
見比べた。
……美女とタヌキや。
勝ち負けはついたわ。
……ん?
「それにしても、ええ化粧品ですな。私も逸れくらい塗れば見映えようなるやろか?」
お、おい、オカン!
「違いますざ、地がええんですわ。桜井さんもなかなかポチャポチャして、たくさん養分ありそうやで、頑張ってみなはれ」
……へ?
「あらー、すみませんねえ、肉付きようて特にお腹が」
「何言うてんやの、それは贅肉やろ」
この人ら、初めて同士なんか?
私はヤギを見る。
『しばらく見てませんか』
小声で言うたって。
ヤギも頷いたわ。
「ええ服やなあ。私も欲しいわあ」
「そんな事ないでざ、福井産の織物でブランドの低いモンですざ。市販のブランド品に勝てませんわ」
「えっ! 高いやろ!」
オカンが驚いてる。
いや、私も驚いてるんや。
福井の繊維業界は海外からの荒波に呑まれながら、何とか生き残ってきたんや。
確かに廃れてしもた企業も多いんやけど、言い方悪いけどしぶとく生きとるんやざ。
ブランド品としては、確かに知名度は低いけど物は負けとらんはず……やと思うんや。
「はい、高いです。桜井のお母さんの、体脂肪より高いと想いますざ」
……お母さん、オカンを煽らんといて、この言葉が出てこんざ。
理由は……オカンが……
「あら、厚塗りなら松浦さんの方が得意そうやろ」
やり返したー!
「お腹の脂肪ですよね」
「万年、ペンキ塗り立てのお顔ことですざぁ」
……二人に変な空気が流れとるわ。
私はヤギと、冷や汗かきまくっとる。
こんな時に、婆ちゃんも沙織もおらんざ。
じいちゃんは店番しとるんやけど、変わって欲しいわあ。
「なかなか、やりますのう」
お母さんの言葉や。
「あら、もう参りましたんか?」
……触らぬ神に祟りなしやざ。
私はそーっと、部屋を抜け出そうと思うわ。
そーっと!
そーっと!
「早苗、お前何逃げてるんや?」
「早苗さん、逃がさんでの!」
二人が私に、的を変えたぁ。
「ちょっと!」
私はたじろぐざ。
「早苗、アンタの事で「塗り立て」が来とるんや、しっとるんか?」
「早苗さん、話があると言うから、タヌキに化かされにきたんやざ」
そこは同じ空気なんやな。
「早苗、逃げたらあかんでな! だいたい礼二様まで奪いよるバカ娘が」
「オカン、誰が宮本さんを取ったんや!」
「えー、早苗さん、幸隆と言う存在が……」
「もう、ええやんかぁ」
益々、収集つかんざあ。
ヤギが一人、面白そうにしとるって。
話がすすまないー!
誰かー
助けて下さいぃ




