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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
十月下旬から十一月
56/120

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 人って呆気ないんやな。

 亡くなるって、呆気なさすぎや。

 孝典さんが、亡くなった。

 これを私は、幸隆と聞いたんは昨日のことや。

 今日、私は退院して家に帰ったんや。

 迎えには、オトンが来てくれたわ。

 家に着き、しばらくしてオカンから茶の間に来いと呼び出しや。

 ハイハイ、報告せなアカンでの。

 ……なんやろ? 不思議やなあ。

 孝典さんが亡くなったら、もっと悲しんで泣き叫ぶかと本当に思ったんや。

 しかし実際は、アッケラカンやざ。

 私は、薄情なんか?

 

 《茶の間 夕方前》


 「オカン、ただいま! オカンやろ? 孝典さんと同じ部屋に……もうええわ」

 「聞いたざ、残念やったな」

 オカンが言うたわ。

 お茶を飲み飲み、なんか辛気臭いなあ。

 不意に私は、仏壇に目がいく。

 少し線香臭いんやって。

 さっきまで、開けてたんか?

 福井は浄土真宗や。

 熱心な信徒が多いらしいざ。

 私は、興味ないけど。

 「今日は通夜やろ?」

 オカンが言うた。

 「うん、私が行ってええんかなあ。だって少しあったけど、部外者やろ?」

 私は、節目がちに言うた。

 「松浦さんからは?」

 「幸隆が来い! 言うてた」

 「だったら。はよ行けや! 男に言われたんやろ!」

 オカンが追い出すように言うたわ。

 オカン!

 あんたなあ……それに通夜は夜や。

 まだ時間あるざ!

 茶の間にオトンが入ってきた。

 今日は早く帰ってきたんやわ。

 いつもこんなんやったらなあ。

 「祥子、早苗、菓子やぞ。さっきまで、仏壇に置いたったコレやけどな」

 オトンが菓子を置いたんや。

 ん?

 コレは、落雁や。

 私は、少し嫌な顔をしたんや。

 落雁は嫌いやないんやけど、仏壇にあったことが問題や。

 おそらくは、線香を焚いてたんやろ。

 落雁を一つ取って、匂いを嗅ぐと……やっぱりなぁ

 線香臭いざ。

 「早苗、オトンな今日は、松浦さんのために仏壇開けて、お経読んどったやざ」

 オカンが厳しく言ったわ。

 宮本さんにデレデレしとる、オカンとは違うわ。

 このオカン、好きなあ。

 「落雁、食べや。線香の匂いがあるんは、松浦さんを桜井からも送らせて頂いた証やざ。それを食べてしまえや」

 オカンが言うた。

 落雁は菓子やから、食べて成仏させなあかん! そのオカンの教えを守るために口に入れな。

 落雁を食べることで、想う人を成仏させる……これはオカンの考えやけど、間違ってないわ。

 私は落雁の、大きな塊を手で割る。

 小さな塊にして、口に入れる。

 砂糖の柔らかい甘さに、線香の臭さがあるんや。

 なんだか美味しくないわ。

 落雁はお飾りみたいな菓子や。

 実際に落雁は、花に作られたりする。

 それを飾っているし……

 「落雁はな、昔は高級菓子やったんやざ。砂糖なんて高価は材料は、そんなになかったからなあ。今では敬遠されがちやけどな」

 オカンが一口、落雁を食べたわ。

 少し噛んで、お茶で胃袋に流したざ。

 「なあオカン、正直オカンも落雁は苦手かあ?」

 「早苗のヨモギ嫌いよりはましや」

 オカン! あんたも嫌いやろ!

 あんたも……止めよう

 「なあ、早苗、今は松浦さんに最後のお別れや、お礼言ってこなあかんざ」

 そう言うと、オカンが二口目を食べて、またお茶で流したざ。

 私も負けずに食べて、お茶で流しんや。

 これを繰り返しながら、全部食べ終えたわ。

 無言の時間やった。

 無言の時間を嫌うように、私は時計を見た。

 そろそろ時間や。

 「オカン、用意するわ」

 私は茶の間を出る。

 オカンは静かに、目線だけ追っていたんや。


 《茶の間 オカン ばあちゃん》


 「祥子、早苗には言わんかったんか?」

 「お母さん、今は言えませんざ。松浦とのことが片づくまては、これは封印や」

 「……そやな、ここは待ちやな」

 「しかし、大名閣が私らを、目の敵にするなんて!」

 「祥子、桜井は悪いことしとらん!」

 「当たり前です! しかし、大名閣は気に入らんようですわ」

 「早苗の柔らかい発想力が、一日も早く必要になる。祥子、時間はないざ」

 「わかってます。だからこそ、今は早苗を刺激しないんや。早苗のケジメが付いたら、言いますから任せて下さい!」

 「……」



 


 


 

 

 

 

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