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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
十月下旬から十一月
55/120

55

 《夜間 特別個室》


 私は個室の隅に追いやられていたんや。

 何故?

 孝典さんの、容態が急変したんや!

 夕方頃はよく笑い、よく話かけてきたんやざ。

 病気が嘘みたいやった。

 嬉しくなったわ。

 そして……苦しかった。

 明日になれば、私は真実を言うつもりやった。

 

 幸隆のアホたれを、愛しとる……


 嘘を付くのがええかもと、思ったんやけど……

 幸隆のアホたれが、変なメールを入れてきたんや!

 

 『早苗、お前は俺の全てや。こんなハズいことはメールでしか言えんわ。小心者や俺は。

 一つ頼みがあるんや、

 ノリは結構、白黒をハッキリさせる奴なんや。

 俺にはわかるんや、いずれ、どちらが好きなんかを聞いてくるはずや。 

 その時、ノリを好きと言うてくれ。

 ノリが永くないことを知っとるからって、例え本当に早苗がノリを好きやとしてもお前を俺が貰うつもりなんや。

 早苗、好きや。

 こんな俺でも、好いてくれんか?  

 じゃあ、またな         幸隆』


 こん時に決めたんや。

 私は嘘を付かん! って。

 幸隆のアホたれ! それが……孝典さんの慰めになるわけないやろ!

 孝典さんに感づかれてまうわ。

 オカンに、「不器用な娘!」と言われた。

 その通りや、私は……

 上手い嘘は出来んのや!

 出来んから、本当を言うんやって決めたんや。

 決めたんやけど……

 少し前や、孝典さんが急に苦しみ出したんや。

 近くにいた私は、部屋の看護師を呼びナースコールをした。

 そして今、私は部屋の隅で見とる。

 孝典さんを囲んで、慌ててるお医者様と看護師さん達をや。

 ドアが開く。

 お母さんと、長男さん、そして幸隆や。

 三人が孝典さんを覗いている。

 「松浦さん、孝典さんを集中治療に移します」

 お医者様が言うと、お母さんは大きく頷いてた。

 

 《夜中 幸隆と》

 

 私と幸隆は特別個室の部屋に居るんや。

 二人きりやざ。

 お母さんは、集中治療に行った。

 長男さんも行った。

 幸隆も行こうとして、お母さんと長男さんが止めたんや。

 理由は私がいたからや。

 「女と、居たれ」

 長男さんの言葉や。

 お母さんも、賛成しとったみたいやった。

 「ノリは、死ぬんやろか?」

 幸隆が言うた。

 「縁起でもないこと言うなって」

 私は俯いて、応えたわ。

 ほや! 縁起でもないんや。

 けど……孝典さんに真実を言わんでもええ!

 可笑しな安堵感があるやって。

 「私な……」

 「なんや」 

 「悪い女や。明日な、幸隆とお母さんが孝典さんを見舞いに来たら、言わなあかんかったんや」

 「……」

 幸隆は黙っとるんや。

 おそらく、知っとるやろな。

 宮本さんか? 

 ……今はもう関係ないか

 「幸隆か、孝典さんか、どちらが好きかを。どちらを愛しとるかをや」

 「メールで……」

 「アホたれ! 私の心はお前や!」

 大きな声で、言うたった。

 幸隆がビックリしておる。

 「孝典さんに、嘘は付けんのや。だから……」

 涙が流れ落ちた。

 一粒……二粒……一杯や。

 一杯、落ちたんや。

 「私は最低や、重い病で苦しむ孝典さんに、嘘一つ言えない私は、ダメな女や。苦しむ相手に、想いを踏みにじる女やざ! 私でええんか?」

 幸隆、私でええの?

 幸隆、私で……

 「最低女やと思う。ノリはもうダメや、もしここで踏ん張ってもいずれは……そんな兄に、ノリに希望を踏みにじる早苗は最低や! けど、俺を選んでくれると言った時、嬉しかった。例えノリでも、勝ったんや! そう、嬉しかった。俺は最低男や……好きを譲っておこぼれで、満足しとったんや。いずれは俺のモンになる! こんな卑怯者でええんか?」

 幸隆が言うた。

 そしてわかった。

 幸隆も……

 「苦しいな、私ら苦しいバカ同士やな。似合ってるわ」

 苦しい気持ちを確かめあったんや。

 私と、幸隆が……


 不器用な人間


 それを知ったんや。

 私は……

 「幸隆、受け入れてくれるか?」

 聞いたんや。

 「早苗、俺を知ってくれ! これから、もっと知ってくれ!」

 幸隆が笑いながら、言うたんや。

 この瞬間!

 私と、幸隆は……

 いきなりドアが開いた。

 開けたのは、長男さんや。

 「幸隆、お嬢さん、孝典が亡くなった!」

 私と、幸隆は……驚いたんや。

 そして私は、後悔しとる。

 孝典さんに、気持ちを伝えれなかったことにや。 ……私は最低やわ。  

 天国へ行った相手に、今ごろ伝えられんかったなんて言うんや。

 こんなんは、生きとる時に言わな!



 


 


 






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