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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
十月下旬から十一月
53/120

53

 私にどうしろと、言うんや?

 孝典さんは私の……

 幸隆は私がいないと……

 ……あれ?

 私、目を開けたんや。

 つまり寝とったんやざ。 

 「おはよう」

 ん?

 孝典さんが笑てる。

 「おはようや、寝過ぎたか? 私」

 「いや、こんなもんや」

 時計は午後近くを差しているわ。

 入院三日目、ようやく体が楽になったわ。

 やはり肺炎を起こしていたようなんや。

 雨に打たれただけなのに……体弱いなあ。


 診察の時間が過ぎた。

 私やないざ、孝典さんやざ。

 たくさんの先生が、孝典さんになんかしてたわ。

 なんだが孝典さんが可哀想やった。

 「ヤレヤレやわ」

 孝典さんがため息をついとる。

 「大変ですね」

 私が言うた。

 「ああ慣れんわ!」

 弱々しい笑い顔や。

 なんやろ?

 また痩せた?

 ちゃうざ、窶れたや。

 すごい窶れてるわ。

 幸隆と顔が違う。

 パーツは同じや、けど……

 「スマンな、早苗さん」

 いきなり孝典さんが謝ったんや。

 「どうしたんや? 私、何もしてんざ」

 「俺の母さんが、変なこと言ったんやろ?」

 孝典さんが言うた。

 「違うざ、お母さんには感謝や。ええ人やざ」

 「試してるとしてもか?」

 「うん、そうやざ」

 私はハッキリ言うたんや。

 だって嘘やないざ。

 お母さんに会って、いろいろ話して……試されて……なんやろ? 不思議な感じや。

 「そうか」

 孝典さんが言うたわ。

 点滴が痛々しいざ。

 痛々しいソレの針先は、孝典さんの左手に刺さっているんやろうな。

 ゆっくり落ちてるクスリは、ツライ薬とは違うようや。

 けど……あきらめたんか?

 「なあ、早苗さん」

 孝典さんが言うた。

 「なんや?」

 私が笑顔をみせたわ。

 笑わんといてや。

 「ええ笑顔やわ……お願いがあるんや」

 「なんやの」

 私は優しく言うた。

 「二日後、ユキが母さんと見舞いに来るんや」

 「へえ……それで」

 「早苗さん……ユキと俺と、どちらがええか決めて欲しいんや!」

 孝典さんが、真顔で言うた。

 私は……ビックリやった。

 「正直、俺は……時間がないんや」

 「そんな……」

 「だから白黒をハッキリしたいんや。俺かユキか……教えてや。俺とユキの前で、どちらが好いたんかを言って欲しいんや」

 孝典さんが大きな声を出したんや。

 その後、むせてすごい咳こんだ。

 「孝典さん……え!」

 布団に、血や!

 ブザーを鳴らして、血を吐いたことを告げたわ。

 向こうも、慌ててる。

 「孝典さん、辛抱や!」

 私が孝典さんに、声をかけると……再び孝典さんが言うたんや。

 「俺には時間がな……い、だから……どっちがええかを教えて……く……頼む、二日後……」

 部屋のドアが開き、医者と看護師が雪崩こんだできたんや。

 私は爪弾きにされて一人離れた場所から、孝典さんを見とるんや。

 ……ついに、ついに来たんやな。

 私の心の内を、言わなあかん時が……

 私の心は、実は決まっているんや。

 けど……

 けど……

 ケジメはつけなアカン!

 そう私のケジメを!



 《桜井家 和菓子「さくらい」では》


 「オカン、姉ちゃん、どうなるんや」

 「早苗しだいや、沙織」

 「ふうん……」

 「桜井さーん、書留です」

 「え? はい、ご苦労様です」

 「書留? 沙織、誰からや?」

 「え? だれ……え! え! 大名閣!」

 「え、大名閣!」

 

 

 私がケジメをつけなあかん時、和菓子屋「さくらい」は最大の危機が迫っているんやけど……



 

  

 



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