表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
三月終わり
5/120

5

 《午後 おやつタイム》


 今日のおやつも、桜餅やって。

 続くなあ。

 「早苗、どうやったん」

 「相手、結婚してたわ」

 オカンに言うたった。

 絶対絡めてくるから、あん人は!

 「残念やなあ」

 ため息をついてるなぁ。

 「……で、お客さんの求めるお菓子わかったんか?」 

 ばあちゃんが、仕切るように言うたわ。

 「実はな、あの人、下町らしいんやって」

 「下町?浅草とかか?」

 「まあ、そやろな。っで、私は田舎の人間です! やって」

 桜餅を一口で食べながら、私は言うたって。

 家の桜餅は、一口サイズなんやって!大口ちゃうで!

 「大きな口やなぁ。さすが、早苗や!」

 オカンのツッコミを私は無視しながら、ばあちゃんに言うた。

 「実はばあちゃん、私少し和田さんにハッキリ言うたんやわ」

 「和田さん?」

 ばあちゃんは首を傾げてる。

 私、名刺を見せた。

 「へえー、こんな人なんかあ」

 「無視しいなや!」

 無視しいなや! は、無視するな! って意味や。

 もちろん、オカンや。

 「とにかく、和田さんのお菓子やけど……や! これでいこうと思うんや」

 「別々なあれを作るんか?」

 オカンが聞いてきたわ。

 「それを作ることで、なんかがお客さんに生まれ、なんかを感じれそうなんか?」

 ばあちゃんは、言うたわ。

 「和田さんが悪いか、他が悪いか、そんなんわからん。他の……同じ地元の意見は聞いてないからや。だけど、コレを和田さんに渡したいんやわ」

 正直言えば、コレが正確かはわからないんやって。

 だけど、季節物でもあり、福井にはない! と言い切った和田さんにあることを、違いを知ってもらうことが重要やと思うし、思たんや!

 さて、家の職人達の解答は……

 「母さん、もしコレ造るなら鉄板も必要や」

 「そうやな……よし、祥子、やってみようと私は思うわ」

 「わかりました。早苗、やるわ!時間もある。今から道具を出すで、手を貸しや!」

 よっしゃ、決まったって!

 「ただいまや!」

 沙織の声や、グットタイミングやって。

 店番頼んどこっと!


 《夕方 餡職人!餡造登場……私は……》


 さて、時間は夕方や。

 家族の性格なんか、決めたことにはばく進するんやって。

 まあ、明日は定休日で、仕事を持ち越したくないってのもあるし……

 「せっかくさっき洗たんに!これら使ったらまた洗わんと!」

 オカンのボヤキや。

 さっきは、やる言うたんにボヤキよるわ。

 ……とは言っても、気持ちわかるけどな。

 今、家の職人は静かにしとるわ。

 和菓子はあんこが命や!

 その餡を練り上げるプロが実は家には、いるんやって!

 その名も、餡造さん!

 スイッチ一つ入れるだけで、文句一つ言わず仕事をしてくれる職人の鑑や。

 つまり、餡造さんは機械や。

 弱点は一つ、自分で風呂に入れん。

 つまり、お疲れ様になったら、一つ一つのパーツを洗ったらんとアカンのや。

 だから、オカンは嫌がるんやって。

 「……早苗、洗わせて貰える伴侶はおらんのかぁ?」

 ニタニタとした顔で、オカン言うなやもう!

 イヤらしいわ!

 ……おらへんし。

 「つまらん事言っとらんと、制服着てきいな」

 ばあちゃんは、白い羽咋にマスクと髪の毛を隠す帽子、手には業務用の薄いゴム手をして登場してきたわ。

 そう言われると、私はいつもの格好や。

 どうやら、今回はここまでや。

 「母さん、今から着替えて来ますで」

 オカンは身支度をしに、一度作業場を跡にしたわ。

 「早苗、お前にはまだここは任せられん!そろそろ、出てってや」

 「ばあちゃん、私、お菓子創りたい!」

 直談判や。

 「まだダメや、今回はワテと祥子と餡造さんに任せときや!早苗、必ずお前の腕も必要になる。しかし今はそん時でないわ。慌てない!」

 ……また、ばあちゃんに宥められた。

 私、アカンのかな?

 「早苗」

 声の方向を向くと、そこには準備万端なオカンがいた。

 「早苗、その気持ち!嬉しいよって……アンタもさくらいの娘や!」

 オカンが私の目を見て言ったわ。

 いつも茶化すオカンの目でないんや。

 私は、何も言わず作業場を出た。

 作業場をピシャリと閉められた……消毒をしてからお菓子作りに入り始めたわ。

 餡造さんの唸り声が聞こえきたんや。

 それが、全てなんやで。


 《夕飯》


 ご飯はいつも通りの、惣菜や。

 今日は、刺身みたいや。

 じいちゃん、オトン、沙織が食べとるわ。

 だけどどこか不味そうにしとる。

 震源地は、私や。

 みんな、牽制しながら、無言で箸が動いとる。

 「ごちそうさまや」

 私は、夕飯を食べ終る。

 ううん、食べ終わらしたんや。

 私の雰囲気で、箸が進まんのはダメやで。

 元凶は去らにゃ行かんのやって。

 「早苗、わかるで」

 オトンが切り出した。

 味噌汁にご飯を入れながら、口にかき込んどる。

 「俺も、悔しくてどうにもならん時がある。早苗、お前腐るなよ!堪忍してな、こんな事しか言えんで……」

 オトン、再び飯をかっこんどるわ。

 ……ありがと。

 私、腐らんでの!


 《作業場廊下前》


 私は膝を抱えて、待っているんや。

 夕飯はばあちゃん、オカン以外は済んでる。

 洗い物も済ませたわ。

 後は作業場次第や。

 「……」

 私の横には、沙織が何故かいるんや。

 私と同じく、膝を抱えて座ってる。

 夜の廊下は、正直寒いって。

 沙織が手にハーッと、息をかけてこすってるわ。

 「沙織、勉強せな!」

 「今、春休みや」

 「部屋帰りなって」

 「……」

 沙織は無言で、俯いてるんやわ。

 沙織、アンタがいようがいまいが……やめた、それなら私も同じやん。

 沙織、バカ!

 私、自分に情けないわ。

 私って情けないんや、一番下の妹まで巻き込んでる。

 頼んだ覚えはない。

 勝手に巻き込まれたんや。

 いい子や。

 昨日のやんちゃな姿と今の姿どちらがアンタかは知らん!

 だけど沙織、ありがとは言わんざ。

 お節介……

 ん?

 作業場の機械の音、止まったって!

 私は、とっさに作業場の扉に視線がいく。

 ……なぜか沙織も目かいってるで。

 しばらく沈黙が続き、いきなり扉か開いたんや!

 「お待たせや」

 オカンが作業服で身を固める中、私に声をかけてきたわ。

 目しか見えんけど、優しい目や。

 「早苗、これで勝負や!和田さんに持ってたるやぞ」

 ばあちゃんも完全武装しとるけど、目が笑ってるわ。

 「……うん、ありがとや」

 「……」

 沙織も笑って、静かに見とるって。

 「あははは、相変わらずの姉妹やって!」

 「祥子、アンタの子やろ?」

 「まあ、そうですけど」

 ばあちゃん、オカン、ありがとや。

 沙織は私の顔見たら、いつしか二階に上がってたわ。

 沙織……

 「早苗、後で味見や。二種類の出来映えをや!」

 ばあちゃん、食べるまでもないわ!

 美味しいに決まっるわ。

 よし、明日はこれを和田さんに渡すわの。

 ばあちゃん、オカン、餡造さん、ありがとや!

 

               


                   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ