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《午後 おやつタイム》
今日のおやつも、桜餅やって。
続くなあ。
「早苗、どうやったん」
「相手、結婚してたわ」
オカンに言うたった。
絶対絡めてくるから、あん人は!
「残念やなあ」
ため息をついてるなぁ。
「……で、お客さんの求めるお菓子わかったんか?」
ばあちゃんが、仕切るように言うたわ。
「実はな、あの人、下町らしいんやって」
「下町?浅草とかか?」
「まあ、そやろな。っで、私は田舎の人間です! やって」
桜餅を一口で食べながら、私は言うたって。
家の桜餅は、一口サイズなんやって!大口ちゃうで!
「大きな口やなぁ。さすが、早苗や!」
オカンのツッコミを私は無視しながら、ばあちゃんに言うた。
「実はばあちゃん、私少し和田さんにハッキリ言うたんやわ」
「和田さん?」
ばあちゃんは首を傾げてる。
私、名刺を見せた。
「へえー、こんな人なんかあ」
「無視しいなや!」
無視しいなや! は、無視するな! って意味や。
もちろん、オカンや。
「とにかく、和田さんのお菓子やけど……や! これでいこうと思うんや」
「別々なあれを作るんか?」
オカンが聞いてきたわ。
「それを作ることで、なんかがお客さんに生まれ、なんかを感じれそうなんか?」
ばあちゃんは、言うたわ。
「和田さんが悪いか、他が悪いか、そんなんわからん。他の……同じ地元の意見は聞いてないからや。だけど、コレを和田さんに渡したいんやわ」
正直言えば、コレが正確かはわからないんやって。
だけど、季節物でもあり、福井にはない! と言い切った和田さんにあることを、違いを知ってもらうことが重要やと思うし、思たんや!
さて、家の職人達の解答は……
「母さん、もしコレ造るなら鉄板も必要や」
「そうやな……よし、祥子、やってみようと私は思うわ」
「わかりました。早苗、やるわ!時間もある。今から道具を出すで、手を貸しや!」
よっしゃ、決まったって!
「ただいまや!」
沙織の声や、グットタイミングやって。
店番頼んどこっと!
《夕方 餡職人!餡造登場……私は……》
さて、時間は夕方や。
家族の性格なんか、決めたことにはばく進するんやって。
まあ、明日は定休日で、仕事を持ち越したくないってのもあるし……
「せっかくさっき洗たんに!これら使ったらまた洗わんと!」
オカンのボヤキや。
さっきは、やる言うたんにボヤキよるわ。
……とは言っても、気持ちわかるけどな。
今、家の職人は静かにしとるわ。
和菓子は餡が命や!
その餡を練り上げるプロが実は家には、いるんやって!
その名も、餡造さん!
スイッチ一つ入れるだけで、文句一つ言わず仕事をしてくれる職人の鑑や。
つまり、餡造さんは機械や。
弱点は一つ、自分で風呂に入れん。
つまり、お疲れ様になったら、一つ一つのパーツを洗ったらんとアカンのや。
だから、オカンは嫌がるんやって。
「……早苗、洗わせて貰える伴侶はおらんのかぁ?」
ニタニタとした顔で、オカン言うなやもう!
イヤらしいわ!
……おらへんし。
「つまらん事言っとらんと、制服着てきいな」
ばあちゃんは、白い羽咋にマスクと髪の毛を隠す帽子、手には業務用の薄いゴム手をして登場してきたわ。
そう言われると、私はいつもの格好や。
どうやら、今回はここまでや。
「母さん、今から着替えて来ますで」
オカンは身支度をしに、一度作業場を跡にしたわ。
「早苗、お前にはまだここは任せられん!そろそろ、出てってや」
「ばあちゃん、私、お菓子創りたい!」
直談判や。
「まだダメや、今回はワテと祥子と餡造さんに任せときや!早苗、必ずお前の腕も必要になる。しかし今はそん時でないわ。慌てない!」
……また、ばあちゃんに宥められた。
私、アカンのかな?
「早苗」
声の方向を向くと、そこには準備万端なオカンがいた。
「早苗、その気持ち!嬉しいよって……アンタもさくらいの娘や!」
オカンが私の目を見て言ったわ。
いつも茶化すオカンの目でないんや。
私は、何も言わず作業場を出た。
作業場をピシャリと閉められた……消毒をしてからお菓子作りに入り始めたわ。
餡造さんの唸り声が聞こえきたんや。
それが、全てなんやで。
《夕飯》
ご飯はいつも通りの、惣菜や。
今日は、刺身みたいや。
じいちゃん、オトン、沙織が食べとるわ。
だけどどこか不味そうにしとる。
震源地は、私や。
みんな、牽制しながら、無言で箸が動いとる。
「ごちそうさまや」
私は、夕飯を食べ終る。
ううん、食べ終わらしたんや。
私の雰囲気で、箸が進まんのはダメやで。
元凶は去らにゃ行かんのやって。
「早苗、わかるで」
オトンが切り出した。
味噌汁にご飯を入れながら、口にかき込んどる。
「俺も、悔しくてどうにもならん時がある。早苗、お前腐るなよ!堪忍してな、こんな事しか言えんで……」
オトン、再び飯をかっこんどるわ。
……ありがと。
私、腐らんでの!
《作業場廊下前》
私は膝を抱えて、待っているんや。
夕飯はばあちゃん、オカン以外は済んでる。
洗い物も済ませたわ。
後は作業場次第や。
「……」
私の横には、沙織が何故かいるんや。
私と同じく、膝を抱えて座ってる。
夜の廊下は、正直寒いって。
沙織が手にハーッと、息をかけてこすってるわ。
「沙織、勉強せな!」
「今、春休みや」
「部屋帰りなって」
「……」
沙織は無言で、俯いてるんやわ。
沙織、アンタがいようがいまいが……やめた、それなら私も同じやん。
沙織、バカ!
私、自分に情けないわ。
私って情けないんや、一番下の妹まで巻き込んでる。
頼んだ覚えはない。
勝手に巻き込まれたんや。
いい子や。
昨日のやんちゃな姿と今の姿どちらがアンタかは知らん!
だけど沙織、ありがとは言わんざ。
お節介……
ん?
作業場の機械の音、止まったって!
私は、とっさに作業場の扉に視線がいく。
……なぜか沙織も目かいってるで。
しばらく沈黙が続き、いきなり扉か開いたんや!
「お待たせや」
オカンが作業服で身を固める中、私に声をかけてきたわ。
目しか見えんけど、優しい目や。
「早苗、これで勝負や!和田さんに持ってたるやぞ」
ばあちゃんも完全武装しとるけど、目が笑ってるわ。
「……うん、ありがとや」
「……」
沙織も笑って、静かに見とるって。
「あははは、相変わらずの姉妹やって!」
「祥子、アンタの子やろ?」
「まあ、そうですけど」
ばあちゃん、オカン、ありがとや。
沙織は私の顔見たら、いつしか二階に上がってたわ。
沙織……
「早苗、後で味見や。二種類の出来映えをや!」
ばあちゃん、食べるまでもないわ!
美味しいに決まっるわ。
よし、明日はこれを和田さんに渡すわの。
ばあちゃん、オカン、餡造さん、ありがとや!