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《松浦商事にて》
ずんぐりむっくりしたビルやなあ。
第一印象やざ。
ビルは四階建でそんなに高くはないんやけど、横幅広いんやって。
ショッピングモールみたいやわ。
いや? それよりは小さいか?
こんな場所があったのは知ってるけど、実際来てみると印象が違うんやわ。
「緊張してるんか?」
宮本さんの問に、首を横に振る。
「じゃあ、いくざ」
「はい」
中は広々したスペースやわ。
ビルな入るとまずは、案内に行く。
綺麗なお姉さんが、私と宮本さんを見る。
お姉さんは宮本さんをみると、深く一列をしたわ。
「宮本相談役、営業の松浦課長がお待ちしています」
「幸隆……失礼、松浦主任……これまた失礼、松浦課長をロビーへ来てくれるように言ってや」
「えっ?」
「お嬢さんいるざ! そう言うてみや」
受付のお姉さんが、半信半疑に頷き電話で呼び出しをかけてるわ。
「松浦課長がすぐに来るそうです」
「そか!」
宮本さんのが言うと、近くのソファを見る。
まあ、座ろうや。
心の声が聞こえて来たわ。
よう考えたら不思議なおっさんやわ。
少し聞いてみたいなぁ。
ただ、時間がないわ。
一度、沙織に聞いてみよう。
……とは言え、連くんの話ばかりになるかも知れんなぁ
そうこう考えてるうちに、幸隆さんが来たざ。
この前見た、背広姿といっしょやわ。
洒落た背広と言うよりも、動きやすい背広を選んだみたいや。
つまり安っぽいんや。
先程見た社長のあの背広姿の長男さんは、高そうな威厳のある格好やったけど……
「なんや礼二さん、それに早苗さん」
幸隆さんが言うた。
「さて、お嬢さん任せるざ。こっちは社長にまた会いにいくわ」
「え?」
私と幸隆さんが同時に言うた。
俗に言うハモったって。
私と幸隆さんは顔を見合わせて、私は赤くなった。幸隆さんは笑ってるみたいや。
「何しに来たんや?」
幸隆さんが言うた。
「明日の土曜日、家に来てや! 孝典さんのヒント欲しいんや。難解なんや」
私は言うた。
「デートは自宅か!」
「違うわ!」
「デートみたいなモンやろ? 例え孝典のことでもや」
幸隆さんが言うたわ。
視線は真っすぐ前を見ている。
私に視線を送ることはなかった。
「俺な、営業しとる。松浦の血があっても、その血を利用することは出来んのや。俺が今、この歳で課長までなったんは、自分の実力やと思うし思いたいんや」
「聞いた。孝典さんは」
「荒井が孝典のことを、ボンって言っとるのを聞いたやろ。あれな、孝典兄さんが何もせんかった証や」
そういうと、幸隆さんは私に視線を送る。
瞳の輝きは、二人共同じや。
同じやけど……
「とにかく、私を助けて下さい。お母さんの課題は難しいんや。身内の手助けが必要や。孝典さんは時間がないんや」
「わかった、しかし仕事優先やぞ! 手助けは二の次やでな」
決まったわ。
決まった……何が決まったか?
この課題は、幸隆さんとの共同作業や。
一つ言うけど、共同作業はケーキにナイフモドキで切ることばかりでなないざ。
それにまだまだ、そこまで私は考えとらんし。
けど、なんか心強いんや。
嬉しいんや。
「とにかく、明日は朝から行ったるわ! 十月やな明日で、急ぐぞ!」
「うん!」
「さて、戻るわ」
幸隆さんは戻っていく。
一度、私を見て軽く挨拶してえれに消えたわ。
もう明日で、十月なんかあ。
いたずらに時間使ったなあ。
はじめから、こうしていれば……
孝典さんの時間は少ない。
十月は取り戻すざ!
それにしても、宮本さんどれくらいかかるんやろ?社長との話は。
《宮本さんと一樹》
「礼二さん、幸隆はようやってます。孝典とは大違いや!俺からしたら、孝典は要らん奴や」
「そういうな、お母さんにも言われとるやろ」
「まあ、今となっては……ところで、礼二さんも遊び好きやなあ。あんな娘に」
「綺麗やないか」
「そうではなく、まあええわ!」
「アハハ……さて、話は終わった頃やな」
おわり




