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宮本さんと来た場所、それは中学校だった。
この中学校は私の区域とは反対の場所に、あったはずやわ。
「ここの校長なあ、俺の知り合いや。そして松浦兄弟の担任教師でもあったんや」
「えっ!」
「小学生五年生、六年生、そして中学校二年生、三年生、合わせて四年間位の記憶はあるはずやざ」
宮本さんが言うた。
ポケットからスマホをとりだすと、電話をかけた。
「着いたわ……今日のあの時は、社長と会話中やったからや……わかったわ」
スマホを切ると、宮本さんがコクンと頷いたざ。
許しが出たんやな。
「さて、桜井さん入ろうや」
《校長室にて》
職員室に入って、先生達の変な目線を気にしながら校長室に入ったざ。
そこに体の小さな女性で、歳が宮本さんくらいの人がいたんや。
「久しいな」
宮本さんは女性に言うたわ。
「本当やね」
柔らかい物腰から、落ち着いた声で女性は言うたわ。
「あなたが、桜井さんですか?」
「はい、桜井です」
私は言うた。
「お綺麗な、お嬢さんやわ! 礼二に食われんようにや、紹介遅れました。私、校長の吉沢と言いますざ」
「おい、麗子!」
……へ? この二人まさか!
「恋人同士ですかぁ?」
あっ、声に出てもたわ。
「いや、元妻だ」
宮本さんが即答したわ。
なんや……て! えー!
「いろいろあったんや、今では別れてまいましたんや」
そうなんや。
なるほどや。
しかし、終わった後とは言え学校行事、そして学校とはなあ。
今日は学校に縁があるわ。
「さて、本題や」
「そや、座ってや」
校長室の来客用長椅子は威厳があり、座りやすいわ。
座りやすいけど、気分的に落ち着かんわ。
原因は場所や。
まあ、説明不要やわ。
「聞きました。孝典のことを聞きたいんやって」
「はい、本来の目的は、孝典さんが食べられるお菓子の作製です。しかし、難しい注文なんです」
「孝典のこと聞いてますわ。残念ですね、だけど……」
そこまで校長先生が言うと、視線を落としたわ。
なんか言葉を見つけているみたいや。
「麗子、言葉をさがすな! 本来の姿教えたれや」
宮本さんが言うた……
本来の姿?
「……そうやな、本当の孝典を言うわ」
校長先生が言うたわ。
ようやく、固まった!
そんな感じやわ。
「孝典はどうしようもない生徒やったんや。いつも授業を壊す。宿題はしない、家の権威を振り回す。ある意味、お坊ちゃんやったんやって」
……えっ
「孝典の横暴な行動に私は、いいえクラスの大半の子供達は彼を嫌っていたんや」
……ウソ
この後、孝典さんの事を悪く言うオンパレードが続いたわ。
信じられんかった。
「桜井さん、孝典は純粋な子供でした。しかし、純粋な子供であるが故に、それを傘に着ました。いつもひどい目を見たんは、幸隆やったわ」
節目な私の顔が、上を向く。
少し……ううん、かなり驚きの顔や。
「幸隆はないつも兄の尻拭いやったわ。あまりにも可哀想やった。幸隆は賢かったわ、そして兄をよく見ていたんやな」
「幸隆さんは、孝典さんと違ったんですか?」
「幸隆は孝典のために、いろいろ他の子供達と仲介役やった。かなりイジメられた。私も知っていました。顔も姿もいっしょやから、的としては最適でした。家が良くても、同じ学校に通う生徒達からみたら家の事は関係なかった。幸隆は家の傘に着ず、そして孝典を守ったんや。私は情けなかった! 幸隆からも、先生は悪ないと言われました」
……幸隆さんの一面に、なんかわかる所があったわ。
確かにアイツは子供ぽいけど、どこか孝典さんとは違う魅力がある。
わかっていた。
わかっていたけど……孝典さんを裏切れんかったわ。
……え? 裏切る!
……
……
「どうしました?」
「麗子、流石やなあ」
「え?」
「鍵を開けたようや」
「鍵?」
宮本さんがニッコリ微笑んだざ。
嘘や。
私、いつの間に……
「さて、本題や桜井さん」
宮本さんが言うたわ。
私は宮本さんに視線が行く。
「桜井さん、あんたが本当に頼らなアカンのは、私でも麗子でもない。わかるやろ? 頼る人間は誰かが!」
!!!
「今回の近道は、幸隆やざ。アイツを頼れ!」
……幸隆さんを。
「幸隆が待っとるざ、今から会社に送ったる。そこで、幸隆に会ってや」
宮本さんが言うたわ。
時間を見る。
仕事時間が終わる頃やろう。
つまり、私との時間が開く!
「クルマに戻っててや、少し元妻とプライベートな話をするで」
宮本さんが言うたわ。
……うん、ここは従う。
孝典さんのお菓子の答えは、幸隆さんが持っていることがわかったわ。
……ううん、わかっていたんや。
そやけど、わからんフリをしとった。
私の心の鍵、宮本さんに開けられたんや。
そして……
今は止めや。
「では先に待ってます」
「すぐ行くわ」
笑顔の宮本さんを置いて、まず先に校舎を出たわ。
後は宮本さん待ちや。
「ようやく、幸隆と向き合えるようや」
「……孝典の子供時代はひどかった。真実やから仕方ないざ」
「彼女は不器用やな。まるで、幸隆と同じや」
「今回のこと」
「出だしは連からや、そして一樹クンからの頼みでもあったんや! このことを一樹クンに話したら……」
「え?」
「さて、幸隆のとこに行くわ。幸隆、鍵は開けたぞ! 後はお前やぞ」




