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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
九月暑さ残る時間
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 《自宅 幸隆と会話 夜》


 「だから、これは私の仕事や! 帰ってや」

 「お茶出されとるけど……」

 「関係ないわ!」

 近頃、幸隆さんが家をよく訪れる。

 事件があったんや……あの孝典さんの病室にお見舞いに行った次の日やった。


 第六話 あの子にもお菓子を(前編)


 《回想 孝典見舞い 翌日》


 「スミマセン!」

 私、大粒の涙を流している。

 ガラスケースを挟んだ先に、孝典さんのお母さんがいたんや。

 「これはこちらが悪いんや。アンタが泣くことはないざ」

 優しい顔、優しい声、それがすごく痛い。

 私の心が、すごく痛いんや。

 あの日の夜、孝典さんに異変があった。

 緊急事態になったんや。

 そして、異変の理由が……イチゴ大福やったんや。

 人目を盗んで、食べたらしいんや。

 吐いて、楽になり終わった……

 そして、今日やお母さんから聞いた

 悪うない言うても、事情を明かすあたり、私も一枚あるざと言うてるのと同じや。

 「桜井さん、アンタは感がええ。だから、一部始終を打ち明けた。何回も言うたる、アンタは無関係や! ……ところでや、ここからは一人のお客様として聞いてほしいんや」

 優しい口調から、いきなり強い口調に変わった。

 「はい、なんですか?」

 「あの子な、美味しそうに食べとる、イチゴ大福を見て一つ欲しくなったらしいんや。俺も食べたい……そう思ったらしいわ。そこでや……」

 「はい」

 「孝典が食べれる、菓子を作ってくれんか?」

 「え?」

 私、驚いたって。

 これは……

 「制限が多いし、とても難しい注文かもしれん。せやけど、お願いするわ」

 「……はい、わかりました」

 私は受けたわ。

 これは私の落ち度もあるんや。

 オカンに説明して、製造室に入れてもらう。

 私、作る!

 「頼んだざ、期限は……あの子の時間が終わる一ヶ月前辺りや、つまり、十月半ばくらい……アカン、絶望すること言うと、涙もろくなってきたわ……桜井さん、お願いします」


  《自宅 幸隆と会話 夜》


 「だから、これは私の仕事や! 帰ってって!」

 「お茶出されとるけど……」

 「関係ないわ!」

 近頃、幸隆さんが家に来るんや。

 理由は、兄さんのこと。

 「お前の落ち度や!」

 そう言われて、お母さんにひっぱたかれたらしいわ。

 「手伝わせてくれ!」

 少し前に頭を下げられた。

 断ったわ。

 幸隆さんも仕事がある。たから、無理させられないと……しかし、や

 この男は、しつこいざ。

 「幸隆さん、アナタは昼の仕事に専念やって! 私が信用ならんかあ」

 「……手伝わせてくれ」

 伏し目がちに、幸隆さんは言うた。

 悔しいくらいええ表情や。

 けど表情で、菓子は作れん。


 《夜 布団の中》


 結局、今日も答えなしや。

 布団に入って、メエメエ数えてる。

 ……寝れんわ 

 あの日以来、あんまり寝れないんや。


 ピロ

 ピロ

 ピロ

 

 ん? 孝典さんからや、珍しい時間にメールや。

 病院生活になり、メール時間は夕暮れ時くらいが多くなってるんやけど、今日はこの時間や。

 回数も一日一回以上かは、二日に一回、三日に二回、少し間隔が空いてきとる。

 今日は、ないと思ったのに……嬉しい誤算やわ。

 


 『寝とったらゴメンや。

 太陽の日入りが早くなり、なんかセンチになっとるんや。センチな時のメールはどこかやるせないから、今日はこの時間にしたんや。

 話題は……ないわ。

 病院生活は、まるで山籠もりみたいやって。。

 便利な山籠もりやな。

 いつも、早苗さんのことを想うんや。

 やっぱり、好きや……うん。

 今日も、意味なしやな。意味あるのは……まだ、生きとるわ』


 生きとるわ……

 何やろ、この「生きとるわ」って。

 孝典さん……


                  


 

 

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