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《クルマの中》
相変わらずの激しい雨が、松浦さんのクルマを叩いているんや。
この雨にさっき、お腹の音を聞き取られたのは、私のお腹の虫はたくさんおるかあ?
……ダメやわ
朝から今での思い出に、浸っているつもりやったけど、これからのメインイベントに胸が高鳴るんやって。
午後のスケジュールは、孝典さんのお見舞い。
久しぶりに、孝典さんに会える。
孝典さんと、いっぱい喋りたいんや。
病人やから、喋ることがあまり出来なくても、ただ居たいんや。
……だけど、コレはメインイベントではないんや
メインイベントで私が認められんかったら、孝典さんには会えないんや。
ひょっとしたら、二度と会えんようになる!
「心配ないざ」
松浦さんが、優しく言うたわ。
「心配やざ普通は」
私はポツリと応えたわ。
「松浦商事を影から支える人やもんな、仕方ないけど心配ないって、家の母さん少しおもろい人やから」
松浦さんが何だかんだ楽しそうにしとるわ!
コイツめ、他人事やと思って。
松浦さんが答えを言うた。
そう、答えをや。
……つまり、孝典さんのお母さんに会うんや。
「俺の母さんでもあるでなぁ」
「誰に言うとんや?」
「ほぐれたやろ、肩に力入り過ぎや」
……悔しいくらい松浦さんが、頼もしく思うわ。
優しい言葉と、表情……孝典さんとダブる。
松浦さん……ううん
「ありがとうや、幸隆さん」
私の負けや。
「ノリに追いついたわ」
幸隆さんのテンション上がり、アクセルを必要以上に踏み込んどる。
「スピード違反や。私、まだ死にとうないざ!」
負けて後悔やって!
《県立病院一階》
孝典さんのお母さんとは、ここで待ち合わせや。
すごく……
すごく……
心臓が痛い。
胸が……
「心配ないざ」
幸隆さんが言うた。
「気休め止めてや」
私、即答したわ。
今、私は一階の総合待合室におるんや。
大きい待合室に、人は疎らやわ。
まあ土曜日やもんな。
インフォメーション辺りを掃除しとるおばちゃんが、どこか目にいく。
お疲れ様やの。
こんな時も、あの人らは休みない。
大変な仕事やざ。
他にロビーの椅子の下を掃除機かけてるおっさんも、ロボットみたいにチャキチャキ動いとるって。
少し笑てまう。
ありがとうや、少し肩の力抜けたわ。
「さてと、母さんやけど……」
ぴー
ぴー
ぴー
ん、スマホなっとる。
私じゃないざ。
「ん? なんや? 兄さんや」
「兄さん?」
「俺らの、長男からや」
そう言うと、一度入った病院を出たわ。
兄さん……まあ、兄さんやな。
まあ……
「ちょっと、アンタ! 邪魔やざ」
え? あっあれ?
さっきのおばちゃんが、私の足元掃除機かけてるざ。
いつの間にや!
「スミマセン、そして、ごめんなさい」
私はとっさに、頭を下げた。
「スミマセン? ごめんなさい? 二つ存在しとるざ」
おばちゃんが、不思議な顔しとる。
うわ、このおばちゃん、色気あるわぁ。
若い頃は、男いっぱい泣かせたんやろな……じゃなくて!
「スミマセンは、おばちゃんの道を邪魔したことです。お仕事の邪魔スミマセン」
「……で、ごめんなさいは?」
「外はひどい雨でした。足元の水溜まりがお仕事の邪魔をしています。これは、本当にごめんなさい! ただでも、大変なのに……」
私は頭を下げたわ。
「……わかったざ、なあ、ここモップかけてくれんか? それにアンタ!」
「はい!」
おばちゃんの気迫に、私押されとるざ。
なんなんや
「……わかるわあ」
そう言って、仕事を続けだしたざ。
もう一人の掃除のおっさんが、モップがけしに来たわ。
「早苗さん、ごめんや……あら、おどかせんようになったなあ」
はあ? 幸隆さんが残念そうな顔しとる。
「幸隆、この娘か? 孝典の相手は!」
おばちゃんが……えっ?
……
……
……
えー! お母さん!
この掃除のおばちゃ……やめやめ
危ない顔に……
「思いっきり出とるざ」
掃除機をかけながら、お母さんが言うた。
よう、こんな展開のテレビはあるけど、実際にやられるなんて……
「奥様、今日はこの雨、来客数は少ないものの床の汚れが落ちません。残業を致しては?」
「そうやな、こんな消化不良はやな。アンタ、しばらく幸隆の相手や、二階のカフェ行っててや」
私、なんか動けへんわ。
「早苗さん、行こう。母さん、孝典に合わせくれるやろ」
幸隆さん、ストレートに聞いたあ。
「……わかったわ。後で合わせたるわ」
えっ、会えるんか!
体が動いるようになったあ。
それと同時に、変な疲れがドーッと出たぁ。
いやいや、これからこれからや。
孝典さんに会わんと……
さあ、孝典さんにあえるざぁ




