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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
肌寒い夏 八月
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 《お盆 曇り空 夕方頃》


 家から少し離れた大きめのお寺、ここに私の家の墓がある。

 今日は、墓参りや。  

 店を早めに切り上げ、夕方頃にみんなとクルマに乗ってきた。

 クルマは二台や、そこに全員……あっ、咲裕美は大学帰ったから一名抜いた全員が、早いもん勝ちで乗って行くんや。

 貧乏くじは私とオトンや、何故なら運転手に指名された。

 沙織以外はみんな免許もちやけど、歳いっとるやら自信ないやらで廻ってきたんやわ。

 まあ、クルマの運転嫌いやないで、私的にはええわ。


 クルマは順調に、道を走ってる。

 家からお寺まで、数分くらいの距離、本当に短いドライブや。

 歩くには遠いんやけど、ドライブには味気ないなあ。

 「お義父さん、後ろで本当にええんですか?」   

 オカンが言うた。

 私のクルマには、オカン、じいちゃん、私や。

 後はオトンのクルマや。

 「構わんわ……来年はクルマを待ってることになるかも、クルマ事故で壊れてや」

 じいちゃんが、笑たわ。

 失礼やざ、もう!

 「その前に、早苗と三人事故って……」

 「何でやの!」

 全部言わせん間に、突っ込みいれたわ。

 オカン、もっと失礼やな。

 何でこのクルマ乗るんや。

 「今日は、曇り空。日暮れも早よなってきた」

 じいちゃんが、外みて言うとるわ。

 黄昏てるんか?

 この空を、孝典さんも見とるんかなぁ。

 寂しそうな空や。


 《墓参り》


 この寺に来たのは、一年前やわ。 

 その前も、一年前や。

 簡単に言ったら、お盆は必ず墓参りしとるわ。

 「ご先祖さん、綺麗にせえなアカンなあ」

 ばあちゃんが、箒を手に言うた。

 うん、まずは清掃やな。

 一年分の埃や汚れを、洗い流す。

 近くに小さな林があり、蝉の鳴き声がする。

 暑くない今年であっても、蝉は泣いているって。

 「そろそろ、ええんちゃうか?」

 オカンが言うた。

 顔から、たくさんの汗を流しているわ。

 一番仕事したみたいに、見えるのは何故やろ?

 「わかった」

 ばあちゃんの一言で、清掃は終わりになった。

 あとは水をお墓にかけて、お供え物置いて、線香と蝋燭を焚いて手を合わせるだけや。 

 ……

 ……

 相変わらず、蝉の鳴き声はうるさいわ。

 夏の終わりを、演出しとるんや! そんな感じに聞こえるわ。

 「さて、今年も参れたわ。来年も参るほうに居ますように!」

 ばあちゃんが、自虐的になっとるざ。


 《帰り際》 


 「賢治! 弥生! 早く帰ろう!」

 ん?

 聞き覚えのある声が、お寺の境内から聞こえるわ。

 家のみんなは、しばらく時間潰ししとる。

 早よ帰りたいんやけど、オトンとオカンが住職さんに話があるとかで、しばらく時間潰しなんやわ。

 「パパ、ここにいる」

 「私も、いる」

 子供二人の声が聞こえるわ。

 「二人共、帰らないと明日、東京に帰らせません、久しぶりの東京のおばさん所連れてきません」

 お母さんらしき、声もするわ。

 私らとはあまり距離のない所にいるんか、話声がよう聞こえるざ。

 境内にいってみたる。

 沙織とばあちゃん、じいちゃんは、ベンチに座ってなんか盛り上がってるわ。

 さてと……あっ!

 そこには、春先に店に来た東京の人、たしか和田さんがいた。

 和田さんは、奥さんと子供二人といっしょやざ。

 「……あっ! 桜井さん」

 和田さんが、私に気付いたわ。 

 「春先はどうも!」

 私は頭を下げた。

 子供二人と奥さんが警戒しながら、私を見とるわ。

 「福井に家族呼んだは、本当なんけ?」

 私は聞いたわ。

 「はい、妻も子供も快く……とします」

 和田さんが、言ったざ。

 ……快くですね。

 「ねーちゃん、どうしたん……あっ、桜餅の都会の人や!」

 沙織が顔を出すなり、笑顔で言うたざ。

 その瞬間、何か溶け落ちたように、みんな笑顔になったざ。

 沙織? アンタ何したんや?

 

 沙織が子供二人と遊んでいる。

 ばあちゃん、じいちゃんは奥さんとお喋りしとるわ。

 オカンらはまだ、気配なしや。

 しばらくは、このままか?

 和田さんが、ここに来たんは遊びにらしい。

 このお寺、なかなか有名らしくて福井の町歩きマップにもあるんやて。

 和田さん、子供の思い出の一つとして来たらしいざ。

 それにしても、子供さんら気に入るなんて……座敷わらしでも居るんやろか?

 ……っあ、ここお墓やった。

 ……考えんとこ。

 「桜餅、おいしかったです。あれ以来、少しずつ風向きが変わりました。今でも、躊躇いははりますが何とかなってたすよ」

 和田さんが、私に喋りかけたわ。

 奥さんと子供が私の家族と親しくしとるから、話しやすくなったんかぁ?

 まあ、ええけど……

 「そうなんですか、良かった。あんなお菓子でも、お手伝い出来て嬉しいわぁ」

 挨拶がわりに、言うとこっと。

 「なかなか良いところですよ……でも、はやく帰りたい」

 和田さんが、言った。

 わからなくないわ。

 だって、生まれた場所が一番やもん。

 そこに自分の記憶と、匂いが染み付いてるんや。

 和田さんの記憶と、匂いは福井にはない。

 ……うん。

 蝉の鳴き声が、さっきより大きく聞こえるわ。

 うるさい鳴き声に、暑くない夏でも汗が滲んでくるんや。

 ……そう言えば

 和田さん、都会の商事会社の人やった。

 もしかして、松浦商事のことを……孝典さんのことを何か知ってるかもや!

 ……ここは、聞いてみるざ。

 「和田さん、一つ教えて」

 「はい」

 驚いた顔で、私を見たわ。

 「和田さん、会社は松浦商事とはつき合いあるんか? 実はな、私そこの人と……や」

 「なるほど! しかし、それは彼氏に聞いてはどうですか?」

 「教えてくれません。松浦商事の四人兄弟のことなんです。すごく怪訝な顔になるんです」

 私は言うたわ。

 「答えられる範囲で、答えます。私達と松浦商事さんはつき合いありますから。この前のお礼に少しだけサービスします」

 ありがとうや。

 さて、遠慮なく聞くざ!

 「和田さん、松浦商事の息子さんは四人居ますけど、双子の兄さんは具合どうなんですか?」

 単刀直入に聞いたわ。

 そう孝典さんのことを!

 「……孝典さんですよね。あの人は、来年この世にいません……余命三ヶ月です!」

 ……え? え?

 「去年の今頃、大病を患ったと聞いてます。そして少し前に倒れて……死の宣告がありました。本人は知らないらしいです。しかし、気付いているかも知れないとも……」

 ……

 ……

 ……

 「あっ、桜井さん!」

 「え? あっ、ね、ねえちゃん! 和田さん、何か言ったんか!」

 「実は……」

 「!!!」

 「どうしたんや、早苗は」

 「ばあちゃん! ねえちゃん、知ってもた! 彼氏の余命を知ってもた!」

 「なんやて!」

 


                

 

 

 

 

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