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《午後 店番》
今年は雨かひどいんや。
長雨なんやって。
いつもの夏より、雨が続いてる。
梅雨明け宣言をした後なのに、この有様やって。
天気予報は信用ならんわ。
「早苗お姉ちゃん、ただいまや」
アニメ声がなんか言うてる……
傘を畳みながら、店から入ってくるわ。
玄関あるやろが。
紹介やな。
今のお姉ちゃん、言うたんは次女の咲裕美や。
県外の大学が夏休みやから、里帰りしとるんやわ。しばらくしたら、戻るそうやけどな。
少しつり目気味、アニメ声で何よりも……後であかるから言わんとくわ。
「……なんや、お姉ちゃん! 私の顔になんか書いたるんか?」
「別に……っあ、少しだけ店番たのんでええか?」
私、咲裕美に頼んだわ。
「えっ……まあ、ええざ! 別に、お姉ちゃんのためじゃなくて、私の勉強のためにかわるんやでな」
……後でなく、今出たわ。
「咲裕美……それ、高校生までやざ」
「なんやって?」
「二十歳になったんやで、ツンデレは卒業やでな」
「二十歳とツンデレの関係がわからんざ! って言うか、誰がツンデレやの!」
咲裕美の目がつり上がるつり上がる。
「ただいま」
そこに、沙織が帰って来たわ。
「早苗ねえちゃん、ツンデレ咲裕美ねえちゃんがなんかしとる」
沙織かなんか言うとるなぁ。
私と咲裕美が、同時に睨む。
「うるさいわ、お喋り娘が!」
やり返したのは、咲裕美や。
始まったって、ヤレヤレ……
「咲裕美ねえちゃん、ツンデレ、はやらんざ。止めたら」
「ツンデレ、ツンデレって、私のどこがツンデレや!」
「……別に、沙織が可愛いそうとは思てないで、全て私のためなんやから! ……早苗ねえちゃんにとるやろ?」
沙織が私に振ってきたって。
「沙織、いきなり振らんといて」
私、大声出てもたわ。
「早苗お姉ちゃん、お姉ちゃんがツンデレ言うから沙織まで真似するやんか!」
咲裕美が私に怒るって。
えー、私のせいかぁ?
「アンタら、ちょっとま……」
私が喝を入れようとしたら、オカンがいきなり顔を出して来た。
そして、一言……
「うるさいわ、天然、ツンデレ、スピーカー」
そう言って、中に引っ込んだんや。
ツンデレは咲裕美、スピーカーは沙織……えっ? 私は天然なんかあ?
店中で私ら三姉妹、オカンの言葉に金縛りにあってる。
やっぱオカンは、タヌキやわ。
なんか化かされたって。
第四話 若鮎の香り
《家中 おやつの時間》
七月に入ってから、ほとんどのこの時間は私、咲裕美、沙織の三姉妹揃ってのおやつや。そして、オカンもいるんや。本来なら、ばあちゃんもいるんやけど、じいちゃんと外出中やわ。
外出理由は、アレやな。
「今日も私ら三姉妹で、おやつやな」
沙織が言うたわ。
まあ、三姉妹やな。
今日のおやつは、どら焼きや。
それにお茶を合わせる。
うーん、おいしいわぁ。
「オカン、ツンデレ知っとるんか?」
沙織が、オカンに聞いた。
「ばあちゃん、咲裕美はツンデレやって言うてたざ。意味はわからんけど」
どら焼きを口に運びながら、オカンは言うたって。
私、吹きそうになってもたざ。
実際、沙織は笑いながら吹いとるって。
「ばあちゃん、よう知っとるわ」
沙織が笑いながら、咲裕美をみたわ。
「……ふん!」
咲裕美、どら焼き頬張りながら、聞こえんふりしとるわ。
ふん! って言うてることは、聞こえんやな。
「ただいま」
じいちゃんの声がするわ。
「いやー、ひどい雨やって」
ばあちゃんの声もする。
帰って来たわ。
夏菓子フェアーの実行委員会から……
「ただいま、いやー、疲れたわ」
じいちゃんが言うた。
部屋で座り込んで、ため息をついてるざ。
「本当に、疲れます」
ばあちゃんも、はあー、とため息をついとる。
「お疲れ様です。今年の夏菓子フェアーはどんなやの?」
オカンがどら焼きと、冷たいお茶を二人に持っていっとる。
じいちゃん、お茶を一気にあけてるって。
「はー、うまい! 今年も去年といっしょ、大名閣の宣伝みたいなかんじや」
じいちゃんが言うた。
「そやな、ワテらみたいな小さいとこは、グループになって出店や。グループは去年といっしょ、肩肘張らず適当に出店や」
ばあちゃんも、続けて言うたわ。
まず、夏菓子フェアーの説明や、夏休みに入る少し前に菓子の一大イベントがあるんや。
そこに和菓子、洋菓子関係なく菓子を出店させてどれが美味しいかを決めるんやけど……
何故、菓子なんかわからんのやわ。
暑い夏なんやから、焼き肉とか精のつくもんをフェアーにして、どんちゃん騒ぎしたほうが流行るとおもうんやけどな。
「とにかく、出るからには最低限はせんとやな」
沙織がいっちょ前なことを、ほざいとるって。
「確かにや、大名閣だけが福井の菓子やないことを、見せ付けたらなあかんざ」
咲裕美、アンタもか。
「まあ、ボチボチ、やりましょうや。母さん今年もやって」
オカンは、苦笑いしながら言うたわ。
……とにかく、参加はせんとアカンわ。
七月は菓子フェアーの、用意とイベント参加の準備、それと孝典さんと……海行きたいなぁ。
とにかく、菓子フェアー、ボチボチと頑張るわ。
「早苗、明日、高塚屋へ挨拶してきてや」
オカンが言うたわ。
高塚屋かあ。
今年も、私が挨拶かあ。
まあ、リーダー格の店やから、顔だけは出しとかなアカンやろな。
菓子フェアーは、福井の菓子屋の大半が参加するんやけど、個人個人出だすにはブース足りん。
それに、個人で出せる店の体力もあるわけがない。
その対応策として、小さな店は比較的大きい店とグループになって出店となるんや。
桜井は高塚屋さんといっしょに、イベント参加となるんやけど……
正直、高塚屋さんもやりとうないやろな。
このイベントは大名閣さんだけの一人勝ち要素があまりに強いんや。
さっき、咲裕美が大名閣だけが福井の和菓子屋ではないと言っとったやろ?
つまり、福井の和菓子屋で、大名閣はすごく大きい店なんやわ。
元々このイベントの言い出しっぺは、大名閣さんらしいんやわ。
福井の町を菓子で元気に!
コレが始まりのきっかけらしいんやけど、蓋を開けたら自分の店の宣伝要素が強くて他の菓子屋が呆れたらしいわ。
いずれなくなるやろ! そう思ていたんやけど、何故か今年もあるんやわ。
とは言え……
よし!
明日は高塚屋に行ってくるざ。
「頑張ってや」
咲裕美、沙織がハモりよる。
はいはい、ねえちゃん、頑張ってくるわ。
さて、店番再開や。
「そうそう、咲裕美、アンタもついて来や。社会勉強やでな」
オカンが言うたわ。
「え!」
咲裕美があからさまに、嫌な顔や。
「わかったか!」
オカンの一言で、咲裕美と二人明日は高塚屋さんやわ。