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はい、お菓子やざぁ  作者: クレヨン
二月 まだまだ寒い 
110/120

110

 《駅前西口 出入口 沙織 幸隆 奈緒子 愛子 礼二 連 副議長》


 「あっ、父さん、あれ!」

 「お! 来た来た!」

 「ヤーン、連クーン!」

 「お疲れ様です、礼二さん」  

 「こんばんは、礼二!」

 「奈緒子!」

 「健全やざ。愛子」

 「お、愛子」

 「なんやって、幸一クン」

 「……連クン、私らも負けられんな」

 「へ?」

 「こらこら、さて連、そろそろ結果発表や。邪魔にならん所で見てよって」

 「うん」

 


 《駅前西口 特設会場 》


 「早苗さん、大丈夫か? 少し変なんやろ」

 女将さんが言うたって。

 どうやら、気がついたみたいや。

 「スミマセン、けど後少しですから」

 笑顔で答えたんや。

 女将さんはコクコク頷いて、笑ってくれた。


 「カメラまわりまーす」

 スタッフさんの声がする。

 「はーい、こちら特設会場です。今、他の場所の票が集まって来ている所でーす」

 「聞いた話では、羊羹セットは完売、つまり1500票あるとうことですね」

 「へえー、集計中でーす」

 「集計済んでます!」

 「へ?」

 アナンサーの一人がビックリしとるざ。

 でもそれは私もや。

 いつの間にやって。

 「実は美味しい方には、『正』の一文字を書いてもらいました」

 「あっ、なるほど、頭いい!」

 なるほどや、アレなら計算しやすいの。

 うん……うん……

 景色が回っとるざ。

 違う、回っとらん。

 けど……もう、立ってられんざ

 お願いや、誰か助けて!

 私、今は投げ出せんや。

 ここで倒れたら、投げ出すのといっしょなんやって。

 お願い……お、ねが、い


 早苗さん、少しだけやざ


 え?

 ……え!

 具合が良くなった……ような

 「早苗さん、どうしたん?」

 女将さんの声が聞いたざ。

 「大丈夫です、スミマセンでした」

 満面の笑みを私は浮かべたざ。

 本当に良くなったみたいや。

 

 「さて、他の票が来ました、そして西口の票を合わせます」

 「一応、こんな感じでーす」

 アナンサーさんが票を見せてくれた。

 ……え!



 《駅前西口 出入口 先ほどの七人》


 「票見せとるみたいや、母さん」

 「ここでは母さんなんやな」

 「なんやって」

 「まあまあ幸隆さんに奈緒子オバ……止めた。ところで沙織、お前目が良いやろ」

 「うん、連クン、なんやろ……互角みたいや」

 「え! ウソやろ、なあ母さん」

 「幸隆! 私が知るか! ただ、味はさくらい やったざ」

 「あのバカ! 本当やったんやな。幸一クン止められんかったんかあ」

 「え? 止められないとは?」

 「父さんいきなり、喋んない」

 「連、俺だっているだけやないぞ」

 「幸一クン、なんか知っとるかあ?」

 「おそらく、この対決に勝ったら今週の土日、大名閣の菓子を最大半値にするようなんや。ちなみに大名閣の羊羹は半値らしいぞぉ」

 「……やられたざ」

 「待ってよ、沙織、わからないよ。それで、あの票は立派やざ」

 「そうやな、しかし連、大名閣はなりふり構わんみたいや。それくらい、勝ちたいんやろ」

 「アホか! けど、大名閣の羊羹は、高いからな。美味しいし福井の人に合った味やでな。あのバカ、考えたな。値引きとは」

 「愛子、そんなに値引きして、商売成り立つんか?」

 「……あのアホな、こう言うの得意なんや。成り立つんやろな。あんなんやけど、売上高は毎年上がっとるんや」

 「沙織、大名閣はかなりの相手やの」

 「……まだ、勝負はわからんざ」



 《駅前西口 特設会場 》


 「集計はそんなにかかりませんが、ここで何故、その羊羹に一票を入れたのか? 理由を書いてくれた紙を読み上げます」  

 「ほとんどの人は、無言で入れたんですけどね。こちらから理由をお願いしたんですよね」

 「ハイハイ、ネタばらしだめ!」

 書かせたんやな。

 まあ、仕方ないの。

 「まずは、大名閣を支持した方から。四十代女性、大名閣の羊羹は美味しいです。少し高いですけど、この対決で少しでも食べらたことに感謝します」

 ……ブランドの力やな。

 これはどうにもならんざ。

 少し悔しいって!

 「もう一つ、これは二十代男性から。今日はバレンタインデーでしたが、チョコは貰えませんでした。だからチョコ羊羹が何故かおいしかったです」

 「……チョコ羊羹は、モテない福井の男に支持されてます」

 え! なんやろ。

 チョコ羊羹、違う市場を開拓しとるざ。

 はじめからこれが目当てなんか?

 ん? なんやろ?

 大名閣のオッサンが、マイク貸せしとるざ。

 アナンサーがマイクを渡す。 

 「これは私の思い通りの展開なんやって。実際にチョコ貰えん男は、結構多いんやな。福井では貰えん男は、替わりにチョコ羊羹を買う。虚しいかも知れんけど、そんな風にしたいんやわ。因みに私は、買いまくりですざ」

 なんて最後は泣き真似をして、周りを笑かしたざ。

 このオッサン、これが目当てやったんか!

 ……やられたざ

 さすがは大名閣やって。

 「読めんかったの」

 女将さんが、ポツリと言うた。

 「まだ、終わってません!」

 私は静かに、ポツリと言うたんや。

 「さて、次は、高塚屋 さくらいに入れた方の理由でーす。六十代女性の方から、福井の和菓子屋は本当に少なくなりました。時代の流れと言っても、それに流されず未来に向かう覚悟にどこか嬉しくなりました。大甘羊羹、激甘羊羹でしたか? どちらにしろ、近い将来はそれが普通になるでしょう」

 六十代……老人の方と言ったら失礼やけど、ありがとうございます。

 「もう一つ、これは三十代男性から。自分は県外の人間です。福井に来たのは二カ月前くらいです。福井の水羊羹をよく周囲の同僚に進められ食べてはいるんですが、いかんせん味がぼやけています。つまり、薄いんです。高塚屋さん さくらいさんの羊羹は、本当に甘くておいしかった。福井の水羊羹が、全国区になるためにはコレくらいのパンチがある羊羹が良いと思います。自分は攻めた高塚屋さん さくらいさんに一票です」



 《駅前西口 出入口 七人》


 「なるほどや、早苗、攻めたんやな」

 「え?」

 「沙織、早苗さんは攻めたんや。攻めたから、票をとれたんやざ」

 「連クン」

 「ほやな、沙織ちゃんやったかな? 連の想う人」

 「やーん」

 「すまん、話を進めるぞ。早苗さんらは、大名閣みたいなブランド力はない。高塚屋も大きい店やが、大名閣からみたら、雲泥の差や。その和菓子屋が生き残るためそれは……」

 「礼二さん、その後、ええかあ? 生き残るためには、店を畳んだ人らの想い、そして……」

 「奈緒子、その先私や、大名閣とは違う視点から攻めないといけなかった。幸一クン、なかなかやると思わんか?」

 「ああ、凄いわ。なんか嬉しいの」



 《駅前西口 特設会場》

 

 ……攻めたんや

 私は攻めたんやって! 

 だって攻めな何も得られんやろ。

 大名閣は名前がある。

 無理に攻める必要ない。

 けど……

 「よろしいですか?」

 えっ、女将さんがアナンサーさんにマイクを要求しとるざ。

 そしてマイクを持った。

 「大名閣さんは、福井ではブランドの大銘菓のお店です。私の高塚屋はそこそこ大きいですが、さくらいさんは町のお店です。私らが大名閣さんについて行く方法は、攻めることです。だから福井の羊羹常識破りを考えました。バナナ羊羹、大甘羊羹、この二つは虚をついた羊羹です。虚をつかないと、揺るがない……私らはそんな相手と対決しとんです。今から結果発表ですけど……やることはやりました」

 女将さんが言うたんや。

 私は……目が熱くなった

 おそらく、泣いとると思う。

 女将さんがマイクを見せたけど、私はクビを横に振った。

 なんか声に、できんやろから。

 「さて、両方に言い分はあるでしょうけど、ここまでにしましょう。集計結果が来ました」

 アナンサーさんの一人が、安っぽい封筒持っとるざ。

 どこかの文房具屋に売ってそうな、封筒やって。

 「では開きますよ。この封筒の中には、勝者の名前があります。果たして勝ったのは!」

 …………

 …………

 …………

 …………ん?

 「どうしました?」

 「よう創られた結末です」

 「はい?」

 「負けはありません」

 「……」

 「勝ちもありません」

 え? それって!

 つまり……

 「750対750……引き分けです」

 そう言って、もう一人のアナンサーさんに見せたざ。

 「……本当ですね。なんか創られ結末みたいな……」

 苦笑いしとるざ。

 その言葉を聞き、私は女将さんを見たんや。

 視線に気づいて、女将さんが視線を合わす。

 なんか……笑てしまうって。

 「これでええん?」

 私は言った。

 「ええん? やろ?」

 女将さんが確かめるように、答えたざ。

 ええん……やな

 ……終わったざ

 ようやく終わった。

 

 早苗さん始めるざ


 え? なんや?

 始めるって、何を……!

 なんや? 頭が痛い!

 背中が軋む!

 目が回る!

 わた、しに、いった……い……


 《駅前西口 出入口 》


 「え? ね、ねえちゃん!」

 「な! 早苗」

 「沙織ちゃん、幸隆、落ち着け」

 「早苗さん……」

 「奈緒子、あの娘どうしたをや?」

 「まさか……」

 「何、幸一クン」

 「別嬪さんのお母さん、新型インフルエンザやったをやろ。それで、一番看病したんやろ。あれな、潜在期間長いんや。まさか! けど、いきなり倒れるんは間違いなく感染しとったんや!」

 「副議長、私は宮本と言います。そんなことより、今回の新型インフルエンザは……」

 「陰性型がお母さんのやったから……大丈夫やろ? 俺、早苗から聞いたざ」

 「陰性は変異しなければの話や。陽性変わったら……猛毒性をもつ殺人新型インフルエンザになるんや」

 「うっ、うそー! 早苗ねえちゃん!」 

 「倒れただけや。倒れただけやろ? 疲れただげやろ? 早苗!」

 


                羊羹対決おわり

 

 



 


 

 

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